証券アナリストジャーナル5月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「これからの家計の資産運用ー『貯蓄から投資へ』の実現する条件」という特集です。気になったことや、書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。

 

まず、1本目の論文(超高齢化時代を迎えた日本の家計の貯蓄と資産選択ー祝迫得夫氏)です。ライフサイクルモデルという家計が若年期に資産を蓄積していって定年退職後にそれを取り崩していくというモデルが、実際の分析によるとモデル通りになっていないことを指摘し、何故か?ということを考えていきます。

ライフサイクルモデル的には少子高齢化が進行する中で貯蓄が徐々に減少していき、高齢者が好むはずである安全資産が徐々に増えていくというのが想定なのですが、そうはなっていません。家計貯蓄の減少は1999年度から2001年度にかけてと東日本大震災の発生した2011年度から2013年度に集中して起こっており、労働市場の不況で労働所得の低下からくる家計貯蓄率の低下という理由が有力としています。また、日本は欧米諸国と違って高齢者が株式などのリスク資産を選好していることも明らかにされています。

一連の分析において、日本の家計貯蓄や企業貯蓄が年度ごとにどう推移しているかという図が出てくるのですが、90年代以降で家計貯蓄と企業貯蓄の和はほとんど変化していない中で、家計貯蓄が減少の一途をたどり、一方、企業貯蓄が増加していくという事実が出てきます。企業貯蓄が増えていくことに対する理論モデルはあまり無いらしいのですが、今後は、家計への労働所得としての支払いの増加や、株主への還元が強く求められていくのではと思います。

また、大きな問題ですが、国ベースの貯蓄に関する議論があります。少子高齢化が進んでいくと政府貯蓄のマイナスが民間貯蓄のプラスを恒常的に上回り、つまり政府の発行する国債を民間が買いきれないことになり、海外投資家に買ってもらうとなると彼らの要求する利回りまで国債の利率が上昇し、経常収支の赤字もあって円は弱くなるだろうとの議論です。いつかはこういう事態になると想定して、準備したり投資行動を実際にすることが求められます。

 

2本目の論文(近年の政策潮流と家計の資産運用ー宮本佐知子氏)は、近年の税制改正をしっかりと押さえた上で、それらがどういった背景から行われているのか、また、どう家計の資産運用へ影響していくのかを論じています。

2015年度の日本の家計部門の資産が2864兆円で、そのうちの金融資産が1818兆円あり、その蓄積を活用させたり増大させることが重要であるとの考えから、税制改正によって様々な施策が導入されてきました。大きな二つの潮流として、「国民の安定的な資産形成を支援すること」と、「世代間の資産移転の促進」があります。

「国民の安定的な資産形成の支援」の代表的な施策が「NISA」であり、「ジュニアNISA」が創設され、「積立NISA」も今後創設されることになります。NISAは1000万口座以上開設され、9兆円以上買い付けされており、NISAを通じて投資を初めた人の割合もそれなりにあり、資産形成の支援ツールとして普及が進んでいます。一方、ジュニアNISAは創設後日が浅いこともあり、まだまだ道半ばの模様です。

「世代間資産移転の促進」の代表的な施策が「相続税の強化」と「贈与税の緩和」であります。新聞等でもかなり話題になりましたが、相続税の基礎控除の引き下げがありました。贈与税も「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」などで緩和されましたが、贈与税の納付者が11パーセント増えて、納税額は65パーセント増えたというデータがあり、この施策の効果が数字で証明されています。

 

3本目の論文(フィンテックと家計の資産運用のこれからー野間幹晴氏、藤田勉氏)は日米を比較したデータが豊富で、これからの日本の資産運用の道筋を米国から何を学べるかというテーマで示す一方、なぜ日本の金融資産が「貯蓄から投資へ」の流れに向かわないのかを論じています。

日米の比較ですが、一点目として金融資産の比較があり、株式や投信に半分近くを投資するアメリカは年間の運用利回りが高く(2015年度で3.2パーセント)、一方、現預金を手厚く持つ日本は年間の運用利回りが低い(2015年度で0.8パーセント)という事実があります。二点目として退職年金資産の比較があり、アメリカは半分以上が確定拠出年金で日本は5パーセントだそうです。

三点目が特に重要で、金融庁の「平成27事務年度 金融レポート」に載った有名なデータですが、投資信託手数料の比較で、日米の純資産額上位5銘柄を比較すると、日本は販売手数料の平均が3.2パーセント、年率の信託報酬の平均が1.53パーセントであるのに対して、アメリカはそれぞれ0.59パーセント、0.28パーセントと、投資家の負担するコストが日米で著しく違うという話です。

日本の個人金融資産が動き出さないのかという問いに対しては、手厚い確定給付型年金のおかげで金融資産についてあまり考える必要のなかった歴史から日本の金融リテラシーが高くないということが第一の理由として提示され、第二、第三の理由として、コストの高い商品を売ってきた販売業者の姿勢や、外貨建て変額保険商品やファンドラップといった、金融庁が批判している最近の高コスト商品なども挙げています。

 

家計の資産運用は本当に大事な問題です。日本の金融リテラシーの向上に向けて、このブログや色々な活動をやっていきたい、やっていかなければと思いを強くした今回の特集でした。