証券アナリストジャーナル6月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「個人とリスク資産投資の今」という特集です。気になったことや、書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。解題(いわゆるこの特集の説明)を尊敬する大庭明彦先生が書かれています!

まず、1本目の論文(個人と機関投資家の株式銘柄選択の違いー新谷理氏)です。題名のとおり、個人と機関投資家の株式銘柄選択の違いが書かれているのですが、個人と機関投資家の持っている銘柄はだいぶ違いますし、何となく思っていたことが調査分析した結果として出してくれるのですごく腹落ちしました。

想像に難くないですが、個人は電気ガス業や陸運業、空運業といった銘柄を多く持っています。電力株は原発の事故で魅力が低下したようですが、安定した配当株として人気がありました。また、電鉄株や空運株は全線乗車券や割引券などが優待で貰えるため人気があります。また、時価総額で見ると、サイズの小さい株を持っている傾向が強いとなっています。

一方、機関投資家は電気機器や精密機器といった業種を多めに持っているようです。また、あまり時価総額の小さい銘柄は持てない投資家が多いのでしょうか、時価総額が大きい銘柄を持っているとの結果が出ています。

この他にもファクター(PERとかPBRとかROEといったものですね)の分析が丁寧にされていて、とても勉強になりました。

 

2本目の論文(日本の個人資産運用と行動経済学的特性ー大竹文雄氏、明坂弥香氏)は金融リテラシーが金融資産保有額と関係しているといった興味深い論文です。私が常日頃「日本の金融リテラシーを世界一に!」と何故言っているのかが、本論文でのデータで裏付けられたというか後押しされた気になりました。あなたの金融リテラシーを、日本の金融リテラシーを向上させましょう!

この論文で紹介されている先行研究では、金融知識を持っている人の方がリスク資産を保有していること、金融知識が多い人ほど、老後のための貯蓄を行なっていること、30代、40代男性の株式投資には、金融知識の有無が影響しているといったことが挙げられています。また、金融知識に対する自信過剰がリスク資産保有に影響を与えているといったことも挙げられています。

金融広報中央委員会が行なっている調査で「金融リテラシー調査」というものがありまして、その公開情報を利用して、去年あたりに「金融リテラシー調査に克つ」と題して私を含め共同で講演をしたことがありますが、そういった活動もどんどん進めていかなくてはいけないと思っています。講演やセミナーのご依頼、お待ちしております!(半分宣伝です)

 

3本目の論文(米国のリタイアメント・インカム確保策をめぐる動向ー野村亜紀子氏)は米国における資産形成や資産管理の制度設計、そしてその結果としての年金資産残高の推移を見ることで、日本がどのような施策を打っていけば良いかなどを示唆するものとなっています。

言うまでもなく、米国は確定拠出型年金において一歩も二歩も進んだ国であり、確定給付型年金から確定拠出型年金へどのようにシフトしていったかがデータとしてあるので、当然見習うべきものとなります。

まずは①制度の導入、そして②デフォルト商品などへ誘導する自動化、最後に③所得や貯蓄の状況に際した各人への個別化という順番になりますが、日本でも順を追いながら確定拠出型年金が定着していくように国の施策が進んでいってほしいものです。

また、「ファイナンシャル・ウェルネス」の話が出てきます。資産形成以外にも、負債サイドのマネージ、ライフプランニング的な問題の把握です。こちらも、私が常日頃言っている「お金の人間ドック」を一年に一回やりましょうという話につながってきます。本論では健康診断と同様に・・・というように議論されています。長寿リスクへの対応も今の日本では非常に大事な問題になっていますが、高齢になってくるとともに増えてくる認知機能の低下についても踏み込んで書かれています。

 

4本目の論文(退職後資産準備の考え方ー野尻哲史氏)は、「額」から「率」へのシフトが大切であると説いています。

前半は様々な「率」を用いています。例えば、日本の資産における現預金比率の多さ(米国が約15パーセントに対し日本は50パーセント超というデータです)を主張します。また、NISA口座開設率が20代では2.5パーセントと低く、せっかくの制度が活用されていないというデータから、若年現役層が退職後の準備に対するイメージがなかなか持てないからではないかという話に議論は展開されていきます。

興味深いデータとして、「退職後に必要となる公的年金以外の生活必要額」のアンケート結果があり、世代ごとのデータは大きく額に変わりがなく、3000万円程度なっているのに、年収ごとのデータでは年収が高いほど生活必要額がたくさん必要と出てきます。このデータはまさに「額」ではなく、「率」で考えるべき所ではないでしょうか?退職後の生活費として直前の年収に対してどのくらいの「割合」(この割合のことを目標代替率と名付けています。)が適切なのかという議論が続いていきます。

米国では目標代替率70パーセントから85パーセントと言われ、日本では68パーセントという数字が出てきています。個人的にはもう少しあった方が良い気もしますが、妥当な数値ではないでしょうか?ちなみに、「年金の話4」で書きましたが、日本の公的年金では所得代替率50パーセントを目指しており、私的年金でその残りの50パーセントをカバーしてはどうか?という話をしました。おそらく、この50パーセント/50パーセントのやり方と本論で出てくる目標代替率を使ったやり方は近い考え方なのではないかなと思います。

 

今月の論文における研究の成果をしっかりと活かしていかなければなりません。日本の金融リテラシーの向上に励んでいきたいと、改めて思わせてくれる力強い論文でした!