証券アナリストジャーナル7月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「企業の税負担削減行動」という特集です。気になったことや、書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。

 

今回は、2本目の論文(税負担削減行動の手段と現状ー明石英司氏)から見てみます。2016年4月にパナマ文書問題というのがありました。租税回避に関する書類が大規模に漏洩し、沢山の著名な個人名や企業名が出てきた事件でしたが、その問題以降、税負担削減行動がマスコミなどで大きく取り上げられることとなりました

OECD(経済協力開発機構)は、この問題が明るみになる前の2013年からBEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源侵食と利益移転)というアクションプランを発表し、各国に参加を呼びかけていたそうです。日本も呼応し国税庁のホームページ(リンク)に行動計画が載っています。

本論文では、BEPS以前の租税戦略の具体的手法として、低税率の国に進出するというのは勿論ですが、アップルの租税戦略が、詳しくわかりやすく書かれています。アップルはアイルランドの法人を使って租税戦略を行なっていました。アイルランドの税務上の取扱いと米国の税務上の取扱いを利用し、アイルランドの法人に利益を留するスキームですが、12兆円強も溜まっているとのことです。

BEPSで「今後の税制のあるべき方向性」を打ち出す一方で、EUは「既に実行した過度な節税行為」を問題視していて、アップルの租税戦略に関してもアイルランド政府に対してアップルに追徴するように指示しました。これは新聞を賑わせましたが、アップルもアイルランド政府もEUの意向に反しました。国と企業が税制を通じて結びついていることを再確認したことを思い出します。

また、「自国からの脱出(コーポレートインバージョン)」と題して、新しい親会社を国外に設立する手法が紹介されていました。アプライドマテリアルと東京エレクトロンが事業統合してオランダに新法人を作るという話は驚きをもって大規模に報道されました。この事業統合は独禁法の問題があり結局は実現しませんでした。この他にも米国法人のファイザーとアイルランド法人のアラガンの合併話が米国財務省の税制強化で頓挫したことなど、まだ記憶に新しいことなども書かれています。

結論としては、BEPSに反しない範囲で税負担削減行動を行うべしとなりますが、「脱法的な解釈は行わない」などと明確化している法人もあるなど、企業の舵取りは難しいものがありそうです。

 

1本目の論文(税負担削減行動とコーポレート・ガバナンスの結び付きー大沼宏氏)、3本目の論文(税負担削減行動と企業価値の関係ー奥田真也氏)、4本目の論文(企業の税負担削減行動が資本コストに与える影響ー大洲裕司氏、石川博行氏)の3本では、様々な分析がなされていますが、日米で意見が割れていたり、日米で結果が違っていたり、逆になる例が多く出てきます。

一目、ピンとこない結果が多いなと思いましたが、奥田氏の論文で「米国企業では税負担削減行動を行う部署をプロフィットセンターと見なしていることが多い」、「日本企業は実効税率が法廷実効税率と近い企業が多いため、税負担削減行動は、米国ほど一般的であるとはいえない」などと出てきて、米国の方が税負担削減行動が進んでいると理解すれば合点がいきました。

日本の企業が米国の流れに続いていくかというとそういうことは無いように思います。BEPSが既に始まっている中で、そもそも日本企業では税負担削減行動があまり行われてこなかったようなので、いわゆる先行者利得みたいなものは無いわけです。そうなれば、BEPSの考えに沿った形で、正々堂々と許される範囲で行なっていくのではと思います。倫理的な問題をクリアしたり、企業の戦略としてゴーサインが出た企業から慎重に行われていくのでは無いでしょうか。

 

この税負担削減行動という問題はたんなる数字の問題だけではなく、コーポレート・ガバナンスや、シェアホルダーからの期待や、企業の中長期的な成長と短期的なりがちな税負担削減行動とのバランスなど複雑な問題を含んでいます。実効税率を下げることに成功している企業が本当にしっかりとしたガバナンスの下で税負担削減行動が出来ているのかなど、見極めていかなければいけません。慣れない「税負担削減行動」という言葉ですが、面白いテーマでした!