証券アナリストジャーナル9月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「資産運用ビジネスの新しい動きとそれに向けた戦略」という特集です。この特集のタイトルは2017年4月に行われた日本証券アナリスト協会のセミナーのテーマと同じで、そのセミナーでの講演や対談の内容がメインになっています。気になったことや、書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。

2017年4月に行われた日本証券アナリスト協会のセミナーは、業界の内外を問わず、かなり話題になりました。森信親金融庁長官が「日本の資産運用業界への期待」と題して行なったスピーチがかなり反響を呼ぶものだったためです。あとで少し引用して、思うことを書いてみようとも思いますが、全文を読んでいただくのも良いかと思います。

 

リンクはこちらです。(金融庁)
http://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/20170407/01.pdf

『私は、ここ数年、金融機関に対し、「顧客本位の業務運営」をしてくださいと一貫して申し上げてきました。』という一文からスタートしていきますが、日本の資産運用業界への期待を込めての叱咤激励の意見が続きます。『顧客である消費者の真の利益をかえりみない』、『長年にわたり、このような「顧客本位」と言えない商品が作られ、売られてきたのでしょうか?』など、かなり強い言葉が出てきます。次いで、『正しい金融知識を持った顧客には売りづらい商品を作って一般顧客に売るビジネス、手数料獲得が優先され顧客の利益が軽視される結果、顧客の資産を増やすことができないビジネスは、そもそも社会的に続ける価値があるのですか?』とズキューンと来て、最後には『これまでのやり方を続けていては、今後十年たっても二十年たっても何も変わらず、日本の資産運用業は衰退していくだけではないでしょうか。』とズキュキュキュキューンと締めています!

 

各論として、来年1月から開始される「積立NISA」について言及されています。(「積立NISA」とは、毎年40万円まで、期間20年の非課税投資枠が設定されるもので、対象は下記に出てきますが一定の選定基準を満たした投資信託になります。また、現行のNISAとは併用できません。)

その投資信託の選定基準とは、大まかに言うと、①販売時の手数料がゼロで、②信託報酬が一定の率以下で、③運用実績が一定程度ある、というものですが、その選定基準で「積立NISA」の対象となった投信は50本程度しかなかったとの話です。日本で売られている公募株式投信は5000本以上ありますので1パーセント程度しか基準を満たしていないというわけです。選定基準が厳しすぎるのか?と思われるかもしれませんが、同じ基準を米国の投信に当てはめてみるとかなりの割合で基準を満たすとのことです。いやはや・・・。

ちなみに、森長官のスピーチのあった4月以降に「積立NISA」の選定基準を満たす投資信託が新たに作られたり、既存の投資信託の手数料が変更されたりしまして、先ほど書きました50本程度から最近では120本程度まで増えています。マージンの大きかった投資信託が選定基準を満たすために適正水準になってきたとも考えられますので、良い流れです!

「積立NISA」で投資をする時に限らず、通常の課税口座で投資信託を購入する際にも「積立NISA」の対象になっているかというのは大きな選定基準になるのではないでしょうか!?

 

また、金融庁のアクションとして、「顧客本位の業務運営に関する原則」というものが公表されています。
リンクはこちらです。(金融庁)
http://www.fsa.go.jp/news/28/20170330-1/02.pdf

『原則1. 金融事業者は、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表するとともに、当該方針に係る取組状況を定期的に公表すべきである。当該方針は、より良い業務運営を実現するため、定期的に見直されるべきである。

原則2. 金融事業者は、高度の専門性と職業倫理を保持し、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきである。金融事業者は、こうした業務運営が企業文化として定着するよう努めるべきである。

原則3. 金融事業者は、取引における顧客との利益相反の可能性について正確に把 握し、利益相反の可能性がある場合には、当該利益相反を適切に管理すべきである。金融事業者は、そのための具体的な対応方針をあらかじめ策定すべきである。

原則4. 金融事業者は、名目を問わず、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細を、当該手数料等がどのようなサービスの対価に関するものかを含め、顧客が理解できるよう情報提供すべきである。

原則5. 金融事業者は、顧客との情報の非対称性があることを踏まえ、上記原則4に示された事項のほか、金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を顧客が理解できるよう分かりやすく提供すべきである。

原則6. 金融事業者は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握し、当該顧客にふさわしい金融商品・サービスの組成、販売・推奨等を行うべきである。

原則7. 金融事業者は、顧客の最善の利益を追求するための行動、顧客の公正な取扱い、利益相反の適切な管理等を促進するように設計された報酬・業績評価体系、従業員研修その他の適切な動機づけの枠組みや適切なガバナンス体制を整備すべきである。』

 

意外に普通?当たり前!と思われたかもしれません。確かにそうですよね。

このように原則が語られている背景としては、これまでの金融庁などの投資家保護の一連アクションがパッチワーク的で、本質的にビジネスのやり方を変えるようなものでなかったという自己反省があるようなのです。

『本原則は、金融事業者がとるべき行動について詳細に規定する「ルールベース・アプローチ」ではなく、金融事業者が各々の置かれた状況に応じて、形式ではなく実質において顧客本位の業務運営を実現することができるよう、「プリンシプルベース・アプローチ」を採用している。金融事業者は、本原則を外形的に遵守することに腐心するのではなく、その趣旨・精神を自ら咀嚼した上で、それを実践していくためにはどのような行動をとるべきかを適切に判断していくことが求められる。』

 

この原則を、金融機関はどう理解し、咀嚼し、行動に移していくのでしょうか?

大いに大義、正論を語り、自らもしっかりと反省し正してゆく金融庁の動きにこれからも注目していきたいと思います。

 

ジャーナルには他に、KKRの共同創業者であるジョージ・R・ロバーツ氏とKKRジャパンの代表取締役社長の平野博文氏の対談や、野村アセットマネジメントのCEO兼執行役社長の渡邊国夫氏の講演や、「ビッグデータ時代の運用会社の付加価値は何か」という題目でのパネルディスカッションが載っていますが、今回は森長官のスピーチにフォーカスしてみました。