証券アナリストジャーナル11月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「減損会計を考える」という特集です。気になったことや、書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。

 

まず、1本目の論文(日本基準とIFRSの相違による減損会計の影響ー田中弘隆氏)です。IFRSとは国際会計基準のことで、「アイファース」と読む人が多いでしょうか。「イファース」派も少なからずいると思います。この論文は、門外漢にも基本的なことが理解出来るもので、有難いものでした。証券アナリストジャーナルは第1論文にその月のテーマ(今月で言えば減損会計)をわかりやすく説明したり、噛み砕いて解説してくれるものが多いと思います。だから、このジャーナルは証券アナリストの中だけの読み物にとどまらず、一般の人が読んでも得るものが大きいものであると私は思っています。また、このブログがテーマの把握や内容の咀嚼に少しでも貢献しているならば嬉しく思います。

 

さて、内容ですが、基本的な事項として、「固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態」であり、「減損処理とは、そのような場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理」であるとはっきり最初に言ってくれます。

日本基準による減損会計の概要として、4つのステップがあるという紹介もあります。①資産のグルーピングというキャッシュフローを生み出す資産グループ毎に分けていく作業、②減損の兆候の把握というマイナスキャッシュフローや損失、経営環境の悪化や市場価格の下落といった事象を見て減損処理の兆候を認識しようという作業、③減損損失の認識という実際に将来に得られるキャッシュフローなどと比較して実際の測定のステップに移るかを判断する作業、④減損損失の測定という実際に減損損失する額を決める作業となります。

一方、IFRSによる減損会計の概要は、4ステップと日本基準と数こそ同じではあるものの、いくつかの大きな違いがあります。①減損損失を認識するタイミングが日本基準だと「相当程度に確実な場合」に認識し、IFRSだと「資産の回収可能価額が帳簿価額を下回る場合にはいつでも」認識するといった違いがあります。②のれんの償却は日本基準だと「20年以内の一定の年数で償却」しますが、IFRSだと、「のれんの償却はしない」という非常に大きな違いがあります。また、③IFRSには減損損失を戻し入れることが出来る、求められることも違いとしてあります。

これらの会計処理の違いをしっかりと認識した上で財務諸表を見ていないと、両方式を比較した時に間違いや勘違いすることになりそうです。本論文、非常に勉強になりました。

 

2本目の論文(わが国の企業の最近の減損損失の傾向ー出居美智子氏)は、最近5年間の膨大な数の企業財務諸表から固定資産やのれんの減損損失の傾向を分析しています。

全体感としては、減損損失が発生するタイミングとして、景気が悪化してしばらくした時など、何となく肌感覚でわかることもあります。一方、業種別でどのように減損損失が発生するかということは専門のアナリストでないとわかっていない気がします。それをしっかりと分析して説明してくださってます。ありがたいものです。

例えば小売業ですと、店舗の閉鎖で減損損失が発生することから、少額だが頻繁に計上するケースが多く、年平均で減損損失を計上する会社の割合が60パーセントを超えているそうです。一方で、機械や情報、不動産といった業種は上記の割合が3分の1程度などであり、大きな違いがあります。

また、減損損失の開示に関して、具体的な意見のない開示が目立つという指摘がありました。ディスクロージャーの問題はいつも難しいですが、投資家保護の観点で適切にしていかないといけません。

減損損失発生の情報は株価を動かすケースが多いです。発生の因果関係を分析すれば、ある程度予測は出来ると思われますし、おそらく、既に分析して投資に活かしている人、団体がいると思います。アクティブファンドのファンドマネジャーなど、こういう分析をしっかりやってくれていたら、少し多くの手数料を払っても良い、いわゆる「付加価値」の一つとなるのではと思います。

 

3本目の論文(実証分析ー減損損失に対する投資家の反応と評価ー木村晃久氏)は、減損損失が発生した時に実際に株価にどういった影響が出ているのかを分析しています。

最初に、減損損失が発生した時にどのくらいの大きさの減損損失が平均で発生しているのかというデータが出てきます。1株あたり2パーセントくらいとのことですので、株価1000円の銘柄であれば、1株20円分くらいの減損損失が出ていることになります。ものすごく単純に考えると、株価は2パーセントくらい下がって980円になるとも言えます。。

また、当たり前かもしれませんが、全体として、減損損失が大きいほど、株価は下落する傾向にあるとのことです。また、有形固定資産の減損損失とのれんの減損損失では、のれんの減損損失に対しての方が株価がより下落するという結果も出ています。このようなデータがある以上、2本目の論文のところで書いたように、予測して先回りする価値があるということになります。

話は逸れますが、この研究分野、一昔前までは有形固定資産について分析が行われてきたそうですが、近年はのれんの減損損失を対象とした研究が盛んに行われているそうです。「のれん」は企業の長年のビジネス展開で生まれた強みなどの形のない資産ですから、不確実で、評価は難しいですから、もっと研究が進んで、より良い会計制度の構築に繋がっていくと良いと思います。

 

4本目の論文(のれんの減損に係る事例とその特徴ー山内暁氏)は、前論文の最後で研究が盛んに行われていると書きましたが、「のれん」の減損損失に関する論文です。

まずは金額が大きなのれんの減損損失が発生している事例をピックアップして、個別企業の事例として挙げていきます。トレーダーがやりそうなすごく実践的な方法だと思いますが、著者は学問一筋の方のようです。対象の事例を調査して特徴を見つけていくという方法です。

この事例のユニバースは2014年3月決算から2017年3月決算のものまでなのですが、郵便屋さんの豪州案件など、未だに生々しいものが多く興味深いです。

特徴として、①複数年度にわたるのれんの減損の発生②短期間でののれんの減損の発生③同一セグメントにおけるのれんの減損の発生・セグメントにおける損失の発生とのれんの減損の発生④海外で頻発するのれんの減損、などが挙げられています。

想像に難くないかもしれませんが、④海外で頻発していて、②短期間で発生しているということは、買収時のデューデリジェンスが慣れていない海外の案件のため不十分で、ディールをクローズさせたい為に高値掴みして、いざ買ってみて中身を確認してみるとすぐに超過収益力が無かったことに気づくということなのではないでしょうか!?または、そもそものれんを認識できるほどの超過収益力が無いと鼻から気づいていたケースもあるのかもしれません。

 

横道に逸れますが、「日本人は値段を自分で決める能力が無いor低下している」なんていう話を最近していました。新興国では値札が無いのが当たり前で、モノの価値を常に考えますが、先進国では何でも値段が決まっていて、日本で値下げ交渉するのは電気屋さんでやるくらいですからね。その電気屋さんでの値段交渉も某価格比較サイトを見ているわけなんで、実質的に考えていないわけで。。。

さておき、今月の論文は決算における財務諸表をしっかりと見る力を養ってくれる素晴らしい論文群でした!長文失礼しました。