証券アナリストジャーナル5月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは、「金融政策の正常化とマーケット」特集です。

リーマンショック以降、非伝統的な金融政策(大量に資金を供給したり、リスク資産を購入したり、いついつまでは金利を上げませんよと明言したりといった新しい金融政策のことです)が導入され、正常化に向けての未知の作業が続いています。その中で、日本の金融政策の正常化は、欧米の金融政策の正常化と同じく、またはそれ以上に重要なものであると思います。今回のジャーナルでは、金融政策の正常化について、現時点におけるおさらいや、これからの課題などを議論してくれています。書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。

 

1本目の論文(日銀の大量資産購入とその「出口」ー田中隆之氏)では、おさらいとして世界金融危機後の4中銀の政策がまとめられています。米国で言えば、2009年からQE1、QE2、QE3といった量的金融緩和が2014年あたりまで行われ、出口戦略が意識されてからはテーパリングという債券購入額を減額する流れになり、2015年末には早くも利上げ、2017年には保有資産を減少させていくという所謂正常化に進んでいます。日本は、2013年から黒田総裁によるQQE(量的質的緩和)が導入され、数量の拡大、マイナス金利導入、イールドカーブコントロール導入と行われ、出口戦略はまだ大きく意識されてはいないものの、債券購入額は自然に減少している(ステルステーパリング)という現状です。

そして、筆者は日本の金融緩和の特殊性に言及していきいます。非伝統的な金融政策の中でも、2%の物価安定の目標へのコミットメントというところに特殊性があるわけですが、これがうまくいっておらず、その他の大量の資金供給や、リスク資産の購入も効果が小さいとの意見です。

また、題名にある、「日銀の大量資産購入とその出口」について、かなりの字数を割いて説明してくれています。2012年8月のバーナンキ氏の講演の内容が書かれていて、副作用として、「流動性低下、価格発見機能の減退」、「出口困難化によるインフレ」、「資産価格バブルの発生、金融不安定化」、「中銀の損失」が挙げられています。加えて筆者は「財政破綻確率の増大」を挙げていて、どれもリスクシナリオとして認識しておかなければいけないことですし、これらを上手に回避していくことが如何に難しいかを想起させます

非伝統的金融政策の是非を考えたり、そもそもマネー経済はここまで拡張してきたがそれで良かったのか?といったことまで考えさせられる論文でした。

 

 

2本目の論文(米国の非伝統的金融政策が債券市場に与えた効果ー田中康就氏)では、米国の非伝統的金融政策を細かくリストアップしていき、その政策のアナウンス時などに、どうマーケットが動いたかを細かく分析しています。国債の利回りの変化だったり、その中でもタームプレミアム部分(短期金利の影響を除いた実質的部分)の変化だったり、社債、株価、為替、VIXといった数値の並んだ図表が非常に分かりやすいです。

想像に難くないですが、QE1の時の効果が大きいです。サプライズも大きかったでしょうし、マーケット参加者が動揺していた状態での政策でしたので、効果が大きかったのだろうと思います。一方、QE2、QE3は、サプライズ感が減り、マーケット参加者が半ば催促するような側面もあったわけで、効果としては小さかったように数字は言っています。しかし、QE2やQE3が実行されなかった場合の逆のインパクトを防いだという面も大きかったわけで、単純な数字の話では語れないところもあるでしょう。

また、現在進行形である正常化の過程についても、どのようにマーケットが動いたかを細かく分析しています。こちらは継続して分析されていくと思いますので、チェックしていきたいと思います。

 

 

3本目の論文(日銀の金融政策と国際市場の流動性ー現物・レポ・先物3市場の考察ー宇野淳氏、戸部玲子氏)では、日銀の一連の金融政策によって、マーケットがどう変化したのかを分析しています。最初に出てくる、日銀がどのくらい国債を保有しているかを割合で示している図表で、5年債で34.6%、10年債で24.8%なんていう数字が出てきてびっくりしますが、その影響は3市場に出ているという話です。

私は株式のトレーダーでしたので債券のことはそんなに明るくありませんが、先物の出来高がQE0(黒田さんの政策まで)時には33542枚で、QQE1からYCCまでの4つに分けた期間の単純な平均が23863枚(注:4で割っているだけなので厳密さに欠けています)と落ち込んでいるのを見ただけで、「閑古鳥が鳴いている感」、「閉店ガラガラ感」がわかる気がします。

おそらく、株式でも同じような考察は出来ると思います。上昇時と下落時の指数の動き方が違うですとか、そういった結論が出てくるのではないかと・・・。

 

 

4本目の論文(金融政策正常化が新興国マーケットに及ぼす影響ー高島修氏)も、非常に興味深く読むことができました。モーサテこと、モーニングサテライトにもよく出演していらっしゃる高島氏が分かりやすく、新興国の通貨危機を解説していきます。歴史が繰り返すのであれば、新興国の危機から立ち直る段階に大きな投資チャンスが訪れることになりますが、今回の米国の金融政策の正常化の流れの中では、上手く正常化出来ているといいましょうか、新興国マーケットに及ぼす影響をしっかりと抑えている感がします。

 

 

というわけで、今月の論文は「金融政策の正常化」というテーマでしたが、非伝統的金融政策の是非や、肥大化しているマネー経済についての思い、これからの資本主義の行方なども考えさせてくれるきっかけとなる素晴らしいものばかりでした!

 

 

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