証券アナリストジャーナル7月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは、「無形資産投資」特集です。今月も書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。

 

個人にとって資産とは何でしょうか?有形資産でいえば、「預貯金」であったり、「債券や株式」であったり、「家」だったり、「ゴルフ会員権」だったり、なんとなく想像できるものだと思いますが、無形資産となると、多岐にわたるのではないかと思います。「健康」は何物にも代えがたいなどとも言われますが、無形資産と言われて真っ先に思い浮かべるものかもしれません。「家族、友だちといった人のネットワーク」についても大事な無形資産だと思いますし、「地域のコミュニティとのつながり」なども無形資産と言えるのではないかと思います。

こうやって考えてみると、Instagramや、Twitter、Facebookでのフォロワー数がすごい多いとか、Youtubeでの視聴者が多いとか、ブログの購読者数が多いとか、ネットワーク系の無形資産は、すぐに収益化できるようなところもあります。ユニークな知識や知恵や経験といったものをそのネットワークにディストリビュートすることで、広告収入などで収益を回収できる時代になっていると言えそうです。

 

さて、1本目の論文(無形資産の概念整理と企業パフォーマンスへの影響―宮川努氏)から見ていきたいと思います。

内容は多岐にわたっていますが、まず「IT化で無形資産の重要性がUPした」ということが書かれています。IT化までは、「企業の財務諸表に記載する無形資産と言えば電話加入権のようなものしかなかった」と振り返り、今の世の中で、「ソフトウェア」や「データベース」、「資源開発権」や「著作権・ライセンス」。「デザイン」、「ブランド資産」など様々、無形資産として認識され、その投資の重要性が認識されているとのことです。

次章から、「日本の無形資産投資」について書かれていますが、日本の無形資産投資は国際比較でそん色ない水準にあるものの、人材育成投資が極めて低いというデータが出てきます。古くは武田信玄の時代から「人は石垣、人は城、人は堀」と言い、企業は「人財」などと書いて「人材」の大切さを主張するところも多いですが、どうしたものか!?という論調になっています。

終盤、日本は先進国と比較して無形資産投資が多くならない理由として、無形資産投資の資金調達方法にあるのではないだろうか?という議論の展開になっていきます。

無形資産投資が多くならない理由ですが、私は、日本企業の経営陣の考え方に依存しているのではないかと思いました。相変わらず「軍隊型のマネジメント」で「人は使うもの」という意識が強く、「人に投資」と言いながら、その会社における生産効率を上げるような投資しかしない企業がいまだに多いのではと思った次第です。

 

2本目の論文(無形資産とESGのインプライド期待成長性への影響―張替一彰氏)では、特許とESG(Environment 、Social 、Governance)がどの程度インプライド期待成長率に反映されているのかを見ていくという興味深いものです。

無形資産としてわかりやすい形で見えている特許、そして、企業にとって投資家に投資してもらうためのESGの評価を使っていきますが、特許に関する分析・調査が深くて、びっくりしました。参考文献を見てみると、特許ファクターを用いたクオンツ投資戦略の本を書かれている方だったので納得です。

この調査の結果としては、顕著な傾向が出ているようには見えませんでした。データの質や量の問題、投資家が理解できていないという問題、両方の問題がありそうです。一般的にこういった新しいファクターが日本のマーケットに織り込まれるのは海外マーケットよりも後になることが多いでしょうから、海外マーケットでどうなっているんだろうかというところが気になりました。。。

 

3本目の論文(コーポレートガバナンスと無形資産投資―佐々木隆文氏)は、無形資産の特徴について詳しく、参考になりました。

「有形資産は資金さえあればどの企業も購入することができるため、参入障壁がなければ有形資産への投資のみで長期的に機会費用以上の利益を得ることは難しい」と先に述べ、「無形資産の共用可能性」、「無形資産価値は使用によっては価値が低下しないこと」、「無形資産投資の成果には不確実性が大きいこと」、また「成果が出るまでの時間がかかること」、「無形資産投資のための資金調達は難易度が高いこと」、などが無形資産の特徴として挙げられています。

こういった特徴を持つ無形資産とコーポレートガバナンスにはどういった関係性があるのかというところに議論が移っていきますが、「社外取締役は内部取締役以上に無形資産への投資に消極的になる可能性がある」と結論づけていきます。

「たしかに」と思う一方で、無形資産投資を活性化させるための施策のようなものがあれば、乗り越えられるような気もしました。3Mのような勤務時間に自由な研究などを一定時間やってもらうようなことでクリエイティブな無形資産が生まれていくような気もしますし、まぁ、実際Googleなどはその戦略を用いていて、無形資産を積み上げていると思います。

「これからの企業」の方向性だったり、「これからの人材の方向性」って、無形資産投資と密接に繋がっているのではないかとも思いました。思考の裾野を広げてくれるような興味深い論文でした。

 

話が少し脱線気味になりますが、ここ数年で、「断捨離」という言葉が流行したと思います。これは有形資産を処分して身軽にするということですよね。

なぜ「断捨離」が流行したのでしょう?

ひょっとしたら、「断捨離」して有形資産を処分する代わりに無形資産を取得したい、または有形資産にまみれては無形資産が手に入りにくいのではないかという気持ちの現れなのかもしれません。

そうであれば、人間は無形資産の大切さを再確認しているのでしょう。企業もIT革命以降、無形資産の大切さを知りはじめたということなのでしょう。無形資産投資は人間、企業の両方でトレンドとなっていると言うことができそうです。

最後は少し発散しそうな流れになりましたが、このへんにしておきます。証券アナリストジャーナル、毎月読んでいますが、いろいろな学びがあります。感謝です。

 

 

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