やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『個人金融投資ー貯蓄から投資へ×新NISAー』という特集です。
2024年、新NISAが資産運用シーンを大きく変化させました。
2024年末のNISA口座数は2500万を超え、NISA買付額は2027年までの目標であった50兆円をすでにクリアし、56兆円に達したとされています。
この数値より、貯蓄から投資への流れは「順風満帆」と判断して良いのでしょうか?
何か数値以外の問題はあるのでしょうか?
今月の4本の論文が解き明かしてくれそうな気がしています。
楽しみながら読み進めてまいります!
ちなみに、去年(2024年)10月号で、『金融リテラシーと金融行動』という近いテーマの特集がありました。
下にリンクを貼りましたので、私の拙い感想ですが、ご興味ございましたらご笑覧ください!
1本目の論文は『新NISA開始以降の個人投資家の動向について(熊田修氏)』です。
筆者は日本証券業協会資産形成推進部長の方です。著者の所属する日本証券業協会が3年ごとに行っている「証券投資に関する全国調査」と、毎年行っている「個人投資家の証券投資の関する意識調査」について、詳しく解説してくださっています。
冒頭にも書いた通り、2024年というのは、新NISAの口座数が2500万を超えたなど、資産運用シーンが大きく変化する年でしたが、上記の調査でも、その変化を感じ取ることが出来ます。
有価証券(株式、投資信託、公社債)を保有する者の割合が初めて2割を超えて24.1%まで上昇したことや、資産を増やすために証券投資が「必要だと思う」と回答した人の割合が2015年の調査から23.7%、25.1%(2018年)、30.9%(2021年)、42.6%(2024年)と大きく増加していることなどが書かれています。
NISAの認知率は2015年の調査から51.4%、51.3%(2018年)、57.6%(2021年)と推移し、2024年には77.9%と一気に上昇しました。認知率の上昇に伴って、NISAの内容を理解している割合も増えています。
他にも様々なデータが紹介されていますが、証券投資教育、金融経済教育のエリアはまだまだ道半ばという認識です。
『日証協としては、国民の金融リテラシー向上のため、2024年8月に本格稼働したJ-FLECの運営の支援・連携を図り、長期・積立・分散投資の重要性をはじめ、金融経済教育の拡充に努めるとともに、今後とも国民の安定的な資産形成の実現に向け様々な取り組みを推進してまいりたい』と結びの章に書かれています。
1本目の論文らしく、特集の理解を深めるためのデータや事実をしっかりと得ることが出来ました。感謝です!
2本目の論文は『長期・分散・積立投資の満足度と金融リテラシー(岩壷健太郎氏)』です。
こちらの論文は、個人投資家による「長期・分散・積立投資」の満足度と金融リテラシーの関係を、アンケート調査をもとに分析したものです。
アンケート調査の結果は、①長期・分散・積立投資は他の投資手法よりも満足度が高く、②金融リテラシーが高い投資家ほど投資対象を多様化し、個別株取引にも取り組む傾向があることが示されました。
個別株取引は長期・分散・積立投資よりも満足度が低いと考えられる中で、「なぜ金融リテラシーが高い投資家は個別株取引を行うのか?」という疑問が湧いてくるわけですが、分析の結果として、「自ら銘柄選択や売買タイミングを決めたい」という裁量欲求が個別株取引によって満たされるのではないかと指摘しています。
アンケートの設計方法や、分析の手法なども参考になる論文でした!
3本目の論文は『日米の専門的アドバイザーと個人投資家(沼田優子氏)』です。
日米の専門的アドバイザーの役割やその発展を比較・考察した論文です。
日本における投資アドバイスの現状について書かれていますが、とても手厳しいものでした。
①『証券会社のイメージは「敷居が高い」が40.1%を占め、「あまり信頼できない」が27.4%を占めた。』
②『証券投資を行う上で強化すべき点としては、「金融商品についての分かりやすい説明(45.2%)」、「悪質な業者・営業員の取締り・排除(44.1%)」、「不公正な取引等への厳格な対応(40.6%)」』
③「あなたのニーズに合った金融商品を提案しているか」という問いに対して、ネット系金融機関利用者の方が対面金融機関よりもスコアが高い。
④フォローアップに対する満足度についても、ネット系金融機関利用者の方が対面金融機関よりもスコアが高い。
以上のように、アドバイスよりもセールスに邁進してきた歴史を持つ対面金融機関の不信感は今もまったく拭えていないことが分かります。
一方で、『アドバイスフィーは支払いたくない』という声も多く、投資家が二兎を追っている現状も浮かび上がります。
米国では顧客の意思決定や金融行動を支える存在としてアドバイザーが進化してきたことが紹介されていて、「Francis M. Kinniry Jr. et al [2022], “Putting a value on your value: Quantifying Vanguard Advisor’s Alpha®”」という論文が引用されています。この中にある「アドバイザーのα」という表はけっこう有名ですが、アドバイザーの価値を示すものとしてとても大事なものだと思います。
「アドバイザーのα」の項目は7つあって、それぞれ、①幅広く分散されたファンド/ETFによる適切な資産配分、②コスト効率の高い執行(信託報酬などのコスト削減)、③リバランス(資産配分の定期的な調整)、④行動面でのコーチング(感情的な判断からの抑制・長期視点の維持)、⑤アセット・ロケーション(資産をどの口座で保有するかの最適化)、⑥引き出し戦略(資産取り崩しの順序最適化)、⑦トータルリターン重視 vs インカム投資、といったものです。リンクのPDFの4ページにあります!
今後の日本における「専門的アドバイザーの役割」はどうあるべきなのでしょうか?
米国に追い付け追い越せといった感じで、専門的アドバイザーの質と量を向上させて、個人投資家が質の高い専門的アドバイザーに容易にコンタクトできるようになり、それが当たり前となるような状況にしていくべきなのでしょうか?
確実にそうだとは思いませんが、上記の質と量を向上させるムーブメントが、日本人の金融リテラシーを向上させていくことになるのは間違いない気がしています。
長い道のりに感じますが、私も微力ながら貢献していきたいと思っています。
4本目の論文は『NISAと金融経済教育(藤岡由佳子氏)』です。
金融庁の方が書かれた論文です。本論文では、新NISA導入による効果や、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の設立と活動などが書かれています。
J-FLECの目標が野心的であることに興味を持ちました。
『講師派遣事業の目標年間実施回数はJ-FLEC設立前の実績の2倍である10,000回、目標年間参加人数は実績の2.5倍である75万人としている』とあります。
「J-FLECにおけるKPI・目標について」というリリースを見てみますと、上記のほかに、「金融知識・判断力」関連設問の正答率を現状の正答率は40~50%か欧米並み(70%)に引き上げる目標や、①生活設計等への意識を持つ割合・取り組み率、②外部知見の活用率の割合を受講前比10%以上向上させるという目標を掲げています。
3本目の論文のところでも書きましたが、私もJ-FLEC講師を務めるなどしていますので、微力ながら貢献していきたいと思っています。
読了後のひとこと
今月号の証券アナリストジャーナルは、『個人金融投資ー貯蓄から投資へ×新NISAー』という特集でした。
人生はお金が全てではないですし、はっきり言って衣食住を円滑に進めるための道具に過ぎないわけです。
しかし、これだけマネー経済が大きくなってきてしまった今、個人金融投資というのは現実的にやるべきものとなっているでしょう。
「やるべきもの」と言っても、お金に全く興味の無い人もいらっしゃいますし、逆にお金に四六時中執着する人もいらっしゃいますので、それぞれの人にとってお金との程よい距離感を模索しながら、進めていくものなのではと思います。
今回の特集では、データと事実を見ることによって、今の日本における人々のお金との距離感を探り、今後のあるべき姿を考えることが出来ました。
考えた後にやっぱり思ったのは、「人生はお金が全てではない」ということでした。
佐山展生先生が講演などでよく仰る「人生は自作自演のドラマだ」という言葉がありますが、そのドラマの主演は自分で、シナリオも自分が描いているわけで、お金についてよりも、自分がどんな人生を生きたいかということをしっかり考えることのほうが上位概念であり、より大切なのだと思います。
ということで、今月も最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
はじめてこの記事を見ていただいた方に
はじめまして!金融教育家のやすべえと申します。
私は、大学卒業後、証券会社3社にて金融商品のトレーダーとして20年近く勤務し、2018年から金融教育家として活動を開始しました。
詳しい説明はコチラにありますので、ぜひご覧くださいませ!
「証券アナリストジャーナル」とは、日本証券アナリスト協会が発行する会員向け月刊機関誌です。
私は、2002年に証券アナリスト検定会員となり、本誌を読み始めまして、2017年から本ブログに読んだ感想をしたためるようになりました。
「備忘録」でもあり、「書きなぐり」に近いものです。その点、ご容赦頂ければ幸いです。
ただ、証券アナリストジャーナルに寄稿してくださる方に敬意を持つこと、ブログの読者に誤解を与えずに私の思っていることをお伝えしようと心に留めながら書いています。
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