やすべえです。「証券アナリストジャーナルを読んで」を書き始めてから丸3年になりました!よく続いたものです!初めての記事は、ETFの特集についてでした。

証券アナリストジャーナル2017年1月号(ETF特集)を読んで

証券アナリストジャーナル12月号今月の特集は「アナリストの未来」という、アナリストによる分析からは離れ、アナリストがどうあるべきかというようなお話です。今回も、気になったことや、書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。

ちなみに、証券アナリストジャーナルは毎年カバーの色が変わります。2017年はオレンジ、2018年は青、2019年は赤むらさきでした。2020年は何色になりますでしょうか?やすべえは緑色系統と予想しておりますが・・・。

 

1本目は、座談会「拡張するアナリストの社会的役割(出席者:関篤史氏・山崎雅也氏・山本高稔氏、司会:北川哲雄氏)」です。

アナリストの未来を語る上で、まずもって必要になってきますのが現状認識となりますが、北川氏は、①パッシブ運用の隆盛化②欧州に端を発するリサーチコストのアンバンドリング③フェア・ディスクロージャールールの導入④四半期決算の功罪⑤機関投資家のニーズの変化⑥AIやロボアドバイザーの導入⑦会計基準やガバナンスの変化⑧アナリスト業務の負担増加、という8つの課題を挙げていらっしゃいます。

そして、アナリストのサービスを受ける側としては、一言で言えば「ニーズの多様化」が起こっていると言えます。なぜ「ニーズの多様化」が起こっているのかと考えるならば、それは「非財務情報」に大きな要因があるように思えます。

「非財務情報」の扱い方については発展途上であり、3本目の所で出てくる「ESG」や、衛星写真を使った分析だったりなど、少し考えてみても様々な分野があることがわかります。ちなみに、証券アナリストジャーナルの2018年11月号に「中長期投資において重視される非財務情報とはー企業とアナリストとの建設的な対話に向けてー」という宮永雅好氏の論文が載っており、国際統合報告委員会(IIRC)や、英国のFRC(Financial Reporting Council)の非財務情報に対する考え方について紹介されていたり、宮永氏による分類(これが私には一番しっくりきました)も紹介されています。ちなみに、宮永氏は5つに分類していらっしゃって、①財務的価値の創造に関連した非財務情報②企業の存続基盤に関連した情報③ES/CSR関連情報④事業環境とリスクに関連した情報⑤そのほかの非財務情報、という分類になります。

最終的には、やはり「業績」、「目標株価」といったところに落としどころを持ちたいものの、そのプロセスが「非財務情報」によって複雑化する中で、模索し解決することが期待されます。

 

終盤には、アナリストのキャリアパスについてや、アナリストを志す人へのメッセージが書かれています。キャリアパスは多様化が起こっているだけあって、金融商品を売る側、買う側、に限らず、事業会社や学術的分野などの沢山の可能性があり、アナリストという職業は好奇心が満たされる職業として、事業会社の経営トップと話すことが出来ることなどが書かれています。私は3年「読んで」シリーズを書いていますが、深くも研究できますし、広くも研究できますし、社会に役立たせたいという気持ちがあれば、面白い業界だと感じています。

面白いというのは言い様で、現実を見てみますと、アナリストは先見性が必要な職業であることから、世の中の動きが早くなっている中で急速な進化が問われていると感じます。出来る人とそうでない人との優勝劣敗が進む、厳しい競争のある難しい業界像とも描くことができます。しかしながら、進化が問われているという事は、今後も資本市場において必要な役割だということも言えるのではないでしょうか。

 

 

2本目は、論文「企業経営者とのエンゲージメントを担うバイサイドアナリストの役割(木下晴朗氏、森田充氏)」です。

副題として、「-いかにして経営者との相互スチュワードシップ関係を構築するのか-」となっています。興味深い切り口の論文です。

バイサイドアナリストと企業経営者との「対話」に光を当てています。本稿にある「図表2」が単純ではあるのですが、なるほどと思わせるもので、2x2のマトリクスなのですが、一方が、「エージェント型経営者」と「スチュワード型経営者」もう一方が、「エージェンシー関係を望むプリンシパル(株主)」と「スチュワードシップ関係を望むプリンシパル」、というものです。

組み合わせとしては、「エージェント型経営者」x「エージェンシー関係を望むプリンシパル」「スチュワード型経営者」x「スチュワードシップ関係を望むプリンシパル」という組み合わせであれば、相思相愛で良いのですが、「エージェント型経営者」x「スチュワードシップ関係を望むプリンシパル」「スチュワード型経営者」x「エージェンシー関係を望むプリンシパル」という組み合わせであれば、相互不信が起こるというものです。

 

「エージェンシー理論」というのは、コーポレートガバナンスにつて議論する中で、メジャーに言われているもので、「経営者(エージェント)は株主(プリンシパル)の代理人として株主利益の実現を図るべき存在であるが、経営者は自己の利益を最大化しようとして行動するため、株主と経営者の利害は必ずしも一致しない」というものです。

一方で、「スチュワードシップ理論」というのは、この論文を読むまで私は知らなかったのですが、1991年のDonaldson and Davisや1997年のDavisらによって論文として書かれているそうです。いわゆる利他的な考えで、社会に貢献しようとする考えをする人物が経営者というものです。「経営者は自己の能力を最大限に活用し、自己実現を目指して合理的に行動する組織人」で、「経営者は集団的かつ協調的に行動することにより、会社組織とすべてのステークホルダー双方に関心を抱くことができる人物」というように、論文の引用で示されてもいます。

 

本稿はバイサイドアナリストと企業経営者との関係を論じたものですが、人と人との付き合い方にも通ずる話だなぁとも思いました。コミュニケーションを考えることによって、さまざまな準備や、最適化の方法、協働して作り上げる成果物も変わってくる、そんなことも考えることのできた、興味深い論文でした。

 

 

3本目は、論文「ESGアナリストの可能性(近江静子氏)」です。

「ESG」は昨今、重要視されてきている問題といって間違いありません。そして、最近は「SDGs」という言葉も流行と言えるほどに様々な企業や公共団体で取り上げられています。

「ESG」とは、「Environment(環境)」、「Social(社会)」、「Governance(企業統治)」の頭文字を取ったもので、「ESG投資」というふうに「投資」をくっつけて使われることが多いものです。「E」と「S」と「G」に対してスコアリングをして、投資対象の基準として使うことが増えてきています。

ちなみに、「SDGs」とは、「Sustainable Development Goals」の略で、日本語で言いますと、「持続可能な開発目標」となります。さておき。。。

 

本論文は「ESGアナリストが必要!」という主張が散りばめられています。「ESG投資の残高が増えている(少しでもコミットすればカウントするので、どの程度コミットしているかは議論が必要か)!」ですとか、「ESG評価の高い銘柄群のパフォーマンスが2014年を境に良くなった(その年に原油相場が急落したことが影響しているのかを検証することが必要か)!」ですとか、「アクティブ運用でもパッシブ運用でもESG!」といったもので、読み進めていく中で、やすべえも「ESGアナリストは必要!」と刷り込まれました!笑

少し、砕けた感じで書いてしまいましたが、「アナリストの未来」という特集にこの論文が取り上げられたということは、これからのアナリストの方向性を考える中で、ESGの視点は欠かせないという事なのだと思います。

 

 

最後に!

肉体労働的なものがロボットに置き換えられ、頭脳労働的なものがAI/データプロセッシングの高速化に置き換えられている傾向は否めないものです。アナリストという頭脳労働も同じで、例えば、財務情報の一つである決算報告はアナウンスされた瞬間に人の手を介さずにニュースとして流れています。

その流れに抗うということではなく、技術の進化の恩恵にあずかりながら、人間のみが出来ることをしていくという行動が、「未来の仕事」として必要な考え方だなぁとしみじみ思った今月の証券アナリストジャーナルでした。

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。