証券アナリストジャーナル4月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは証券化市場の復権に向けてという特集です。気になったことや、書き留めておきたいことを徒然なるままに書いていきます。

まず、1本目の論文(証券化の意義と日本における証券化の歴史・現状ー高橋正彦氏)です。「証券化とは何ぞや?」、「証券化のメリット」、「証券化の歴史」について、わかりやすく学ぶことが出来ました。イメージ的に、「証券化=サブプライム証券」という風に思われがちですが、冷静に「証券化とは債権や不動産などの資産を証券化すること」と原点に立ち返ることからスタートです。

「証券化」することは結構面倒なことなことですが、メリットがあるからこそ「証券化」が行われるわけです。オリジネーター(資産の保有者)は今現金化されていない将来に向けた資産をすぐに現金化出来るというメリットがあります。投資家は「証券化」商品を使って運用ポートフォリオの多様化やリスク分散が期待でき、流動性の薄さからくる高利回りを得られるメリットがあります。

次に「証券化の歴史」について書かれていますが、やはり米国からかなり遅れていることを再確認します。アメリカでは1970年からファニーメイ、フレディマック(ベテラン投資家なら知っている語句でしょうか!)といった住宅ローンを使った証券から始まり、自動車のリース債権やクレジットカードの債権に拡大していく中で、日本では1993年から少しずつ法整備が始まり、1997年の金融ビッグバンにてようやく証券化のマーケットが作られていきました。ちょうど10年ほど経って成熟化してきた最中でのリーマンショックで腰を折られた形になっていますが、今後も人材の育成など様々な問題を抱える中で、歯を食いしばって頑張っていかなければいけないというメッセージで締められています。

 

2本目の論文(日本の証券化市場における参加者の課題ー江川由紀雄)は、幅広い知見がありますが、住宅金融支援機構のMBS(Morgage backed securities、モーゲージ担保証券)に関する話など興味深く読むことができます。フラット35を利用した方はより親近感を持って読むことが出来るかもしれません。

この論文の一番の熱いメッセージは、日本の証券化市場への思いについてでした。日本の証券化市場は、粗製乱造を許さないクローズドな市場参加者の繋がりのおかげでレベルが高く、リーマンショックでも大きな問題は発生しなかったが、一方、ニューヨークやロンドンで起きた惨事によって、風評被害とまでは言わないものの大きなダメージを受けたという話です。

 

3本目の論文(格付会社から見た日本の証券市場ー北原一功氏)は格付会社の方が書いたからでしょうか、少し離れた視点から物事を見ています。

米国の証券化市場がリーマンショック後、復活してきている一方、何故日本の証券化市場が低迷しているのかを、日米の金融構造の違い(米国の直接金融文化に対し日本は引き続き間接金融文化であること)ですとか、マイナス金利導入で影響が起こっている事象を通じて考えます。日本の金融飽和状態の中では、手間を掛けてAAAでで手間を掛けて証券化商品を作って利回りを良くしても、通常の債券での利回りと大して変わらないという冷静な意見があります。

また、「新規分野への広がり」として、メガソーラーのプロジェクトファイナンス案件や、風力発電のプロジェクトファイナンス案件、航空機ファイナンス案件について、それぞれ詳しく紹介しています。新しい分野でも証券化の強みである「資金不足団体の資金調達」が上手く達成できている事例です。

 

4本目の論文(米国における証券化市場の復権ー宮坂知宏氏)はアメリカの証券化の説明の決定版という感じです。米国で1992年に住宅ローンが損金に算入出来るようになり、ホームエクイティローン(住宅を担保にしたローン)が流行し、サブプライムローンをやり過ぎて、住宅価格が下落傾向になってバブルが崩壊して、ABCPが発行できなくなったりモノラインという信用保証会社が厳しくなったりという話があります。

そして、アメリカの証券化市場がどのように復権してきたかということを商品の紹介とともに説明しています。オートローン(自動車ローン)ABSは個別譲渡方式の代表的なABSであり、クレジットカードABSはマスタートラスト方式の代表的なABSであり、それらのシニア債がしっかりとした信用補完によって成り立っているからこそ復権できたとのことです。

 

しっかり読んでいくと証券化商品は必ずしも危ういものでは無いということがわかってきます。証券化=サブプライム=悪者、という印象を持っている人や、単に証券化を知らない人が、証券化のイメージを理解したり、証券化のイメージの改善に繋がる良質な論文群でした!

 

 

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