やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『AIと会計・監査』という特集です。
私は20年近くトレーダーとして株式を売買してきました。そして今は、個人投資家として、株式を売買しています。当然ながら、企業価値評価の為、財務諸表をよく見ています。
そんな背景から、上場企業の財務諸表の信頼性確保のための監査はとても大事だと思っています。
そんな大事な監査ですが、上場企業において必須ですから、しっかりと実施されています。
しかし、粉飾決算や決算の修正といった事象は一向に無くなる気配がありません。何故でしょうか?
粉飾決算や決算の修正といった事象が起こるたびに何らかの施策が行われますが、本来的に監査は既得権益に守られている状況にあり、そのせいで監査の構造が進化していないからでしょう。
4大監査法人に75%の会計士が所属しているといった「大手監査法人への集中」は既得権益を守るために重要でしょうし、
デロイト、KPMG、EY、PwCといった国際ネットワークとのつながりも、既得権益を守る一助になっているでしょう。
監査の構造は、企業に忖度してしまうものとなっています。
監査法人が企業から多額の報酬を受けることで、問題のある財務諸表に対して「適正である」と言う動機があります。
監査の独立性を維持しようという、パートナー・ローテーション制度や、非保証業務の提供の制限などは、必要ではあるものの、根本の問題を解消する対策ではなかったでしょう。
今回の特集は、そんな、既得権益や監査の構造に一石を投じてくれるものでしょうか?
何はともあれですが、読み進めていこうと思います。
1本目の論文は『人工知能・概観─機械学習、自然言語処理、計算機シミュレーションおよび関連トピック─(高橋大志氏)』です。
本論文では、人工知能の議論の中から会計ファイナンス領域と関連するものとして、機械学習、自然言語処理、計算機シミュレーションに触れていきます。
機械学習については、「教師あり学習」、「教師なし学習」、「強化学習」があると紹介されています。
自然言語処理については、「word2vec」、「BERT」、「GPT」などが紹介され、さまざまなモデルの利活用が大事だと言っています。
計算機シミュレーションについては、シミュレーション結果を機械学習で分析するケースがあると言ったことが書かれています。
上記について知っている方には「良い復習」になりますし、知らなかった方には「概観」を学ぶに良い論文でした。
2本目の論文は『AIによる管理会計の進化と変革(谷守正行氏)』です。
「はじめに」のところに書いてありますが、管理会計とは「経営者に対して組織の運営や意思決定をサポートする情報を提供する役割を果た」すものであるとあります。
この後に、管理会計は「AIの適用によって、経営者が財務データや予測モデルに基づいて戦略的な意思決定を行う際の優れた支援ツールとなり得る」と書いてあります。
AIの適用で、どの程度優れた支援ツールとなり得るのでしょうか?読み進めていくと分かりますが、かなりの進化が見込めるようです。
まず、具体的な管理会計へのAI適用として、①特徴量抽出機能、②分類評価機能、③予測判断機能が挙げられています。
それら機能を適用する方法については、既に実験が行われているエリアもあり、実践的なものになっています。
そして、適用した結果(AI適用の効果)として、①将来志向経営、②リアルタイム経営、③経営の自動化が挙げられています。
AIが普及する前から、事業の数値の吸い上げ頻度を日次にするなどで、②のリアルタイム経営に近い経営を行っているところがあったかもしれませんが、
未来の数値を予測するなどで、①の将来志向経営が可能になってくるでしょうし、予測の精度が高まれば、③の経営の自動化が見えてきそうです。
まさに、優れた支援ツールとなりそうで、近い将来に大きな変化が起こるのではないかという楽しみな気持ちにさせてくれる論文でした。
3本目の論文は『AI時代の会計/財務分析─会計研究の新たなパラダイム─(矢澤憲一氏)』です。
財務諸表の虚偽記載についての議論があり、興味深い論文です。
10本ほどの先行研究が紹介されています。かなり不正が見抜けるようになっていることが分かります。また、より優秀に不正を見抜くモデルが出てきていることが分かります。
こういった財務諸表の虚偽記載については、監査業界がこれまで行ってきた虚偽記載を見抜く取り組みを、AIの技術がそれらを飛び越える形で圧倒的に見抜いてしまうというのが非常に面白いです。
この他では、「会計上の見積もり」、「将来業績・株価」について議論があり、こちらも多くの先行研究の紹介があります。
4本目の論文は『AIと監査(外賀友明 / 宮村祐一 / 岸純也 / 森孝志氏)』です。
こちらはトーマツの方4人が書かれた論文となります。
業務効率を向上させるAI、スキル・対応力を拡張するAI、監査業務におけるAI活用の広がりといった章立てになっています。
非財務情報の開示などが進んでいる中で、監査への負担は増えていて、つまるところ、監査費用の値上げに繋がっています。
監査自体は、企業にとってお金を生みださない余分なコストであり、本来的にはそのあたりの解決策を議論してもらいたいなと思うところです。
最後に
今月号の証券アナリストジャーナルは、『AIと会計・監査』という特集でした。
正直な話、会計・監査というエリアに興味が持てない私です。深い読み込みが出来ませんでした。
そんな中でも、2本目の論文は具体的なAIの使用法に言及し、進化した未来を見ることが出来ましたし、3本目の論文では、財務諸表の虚偽記載についてAIでかなり見抜けるようになっていることが分かりました。
何とか読み進めて、毎月のブログ記事に仕立て上げた価値があったかなと感じています。
ということで、今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
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