やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『TOPIX改革は十分か?』という特集です。

20年のトレーダー生活で、毎月のように、TOPIXのリバランス案件に対峙していました。
4半期や半期といったタイミングでは、比較的大きなリバランスがありました。
そのたびに、ピュアインデックストラッカーの悩み、インデックス設計者の悩みを感じ、一方で、先回りなどをする短期取引勢の貪欲さを見てきました。

今回の特集は、上記のようなトレーディングマターを直接的に議論しているものではないですが、間接的に影響するものです。
「なるほど!」と頷くことや、「これは良い!」と感じたことがありました。そんな感想を今月も徒然なるままに書いていきたいと思います!

 

1本目の論文は『TOPIX等の見直しの現状と今後の予定について(三浦崇宏氏)』です。

インデックス設計者の立場である、JPX総研の方が書かれた論文です。これまでのTOPIX等の見直しの歴史、現状が分かりやすく解説されていました。感謝です!

TOPIXが、単純な時価総額加重型指数から、浮動株時価総額加重型指数に移行したのが2005年10月、2006年2月、6月の3回のリバランスによるものでした。2000年4月に日経平均株価が一気に30銘柄を入れ替えたときの「売買インパクト問題(INの銘柄の株価が大きく上昇、OUTの銘柄の株価が大きく下落)」を活かす意味で、インデックス運用を享受する投資家のロスを極力減らし、インデックストラッカーの手間を過大なものにしないというバランスが大切なテーマでした。

そんな大きな移行を成し遂げる前後で、多様化する指数ニーズへの対応というものも行ってきました。
規模別株価指数、業種別株価指数(TOPIX-17シリーズ、とても好きです)、スタイルインデックスなど、利用価値が非常に高い指数を開発、運用されてきました。たゆまぬ尽力に感謝以外の言葉がありません!
株価指数ラインナップはこちらが詳しいです。

 

2本目の論文は『ベンチマークとしての東証株価指数―投資目的に応じた株価指数の多様化を―(川北英隆氏)』です。

「はじめに」の次の段落に、「株価指数の役割」が載っています。2つの役割があり、まずは「①市場全体の株価動向を表す」という役割で、こちらは当初からあったものですが、それに加えて、「②投資理論上の市場を表す」という役割で、こちらは後から付け加わったとされています。①の役割を果たすために誕生した「NYダウ」や「日経平均株価」は、時価総額加重平均でなく株価平均で算出されているため、②の役割を果たすことが難しいと考えられます。

このような歴史の流れの中で、時価総額加重平均のベンチマークが主流となっていきました。

後半部には、PBR1倍割れ企業の問題や、投資ホライズンの長短でのベンチマークニーズの変化などが議論されています。

 

3本目の論文は『TOPIXから除外される小型株(森下千鶴氏)』です。

「今回のTOPIXの見直しで、流通株式時価総額100億円未満の439銘柄が除外される」そうで、その除外される439銘柄についてフォーカスする興味深い論文です。

TOPIXから439銘柄を除外するメリットですが、まずもって、銘柄数が20%程度減少することによる運用のしやすさの向上という効果があります。
加えて、時価総額の低い銘柄や、低流動性の銘柄が少なくなることで、無用な歪みを抑える効果があると考えられています。

一方、TOPIXから439銘柄を除外するデメリットとして想定される「指数の継続性」については、439銘柄を除外しても、残りの銘柄のウェイトが99.787%あるということで、「指数の継続性」は高いレベルで担保されているので問題ないと言えそうです。
業種構成への影響や、ファクターエクスポージャーへの影響もほとんどないようです。
ここまで見ていくと、今回の見直しはデメリットを極力排除した穏やかな見直しだったと考察されます。
そこで、筆者は、流通株式時価総額100億円という閾値が流動性の改善として十分な基準であったのかという疑問を呈しています。

TOPIX見直しはここで終わりではなく、さらなる改善に向けて議論が続いているようです。
本論文の著者などの有識者が積極的に議論を行い、TOPIXをより良い方向に変化させてほしいと願うところです。

 

4本目の論文は『パッシブファンドにとってのインデックスの重要性(代田秀雄/栗田昌孝/入江圭太郎氏)』です。

わりと様々なエリアの議論がなされているのですが、私が一番共感したところは「投資初心者による最初の一歩はアクティブファンドではなくインデックスファンドが望ましいのではないか」というところでした。
公募株式投信(除くETF)のインデックスファンド比率は2008年から2015年あたりまで10%前後で推移していましたが、徐々にその比率は上がり、2023年には30%に迫ろうとしています。新しいNISAの開始によって投資家のすそ野が広がる中、インデックスファンドからスタートをするという健全な流れが出来つつあると感じました。

他に興味深い議論として、「ROEの平均回帰性」、「成長率の平均回帰性」がありました。「5年平均ROE」の上位20%グループと下位20%グループのその後5年の推移を調べてみると、上位(下位)グループのROEは、時間の経過に伴って悪化(改善)し、平均に近づいていくというものです。これが、「過去5年平均売上高成長率」でも、同じことが言えるとあります。
あんまり言いすぎると、インデックスを崇めすぎな立場になってしまいますが、アクティブの良いところやそうでないところを認識するためにも、こういったデータや事実を見ていくことは大事だなと思います。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『TOPIX改革は十分か?』という特集でした。

100人いれば、100通りの資産運用があるわけです。
選択に多様性を持たせ、その上で自由な選択ができることが大前提ですが、「迷ったらコレ」といったベーシックなインデックスの存在は非常に大事であると考えます。
その中で、指標性があり、インベスタブルであるTOPIXの存在は本当にありがたいものです。
これからも2本目の論文でいう「2つの役割」を維持・強化して欲しいと強く思いました。

ということで、以上となります。今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!