やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『地政学リスクと金融市場』という特集です。
マーケット参加者(特にマーケット解説者)は、相場の下落や上昇の理由を探している時に、「地政学リスク」(または「地政学的リスク」)という言葉を好んで使います。例としては、相場下落時に「地政学リスクが増大した」と説明したり、相場上昇時に「地政学的リスクが後退した」と説明することが多いです。
聞こえが良いワードなので、「なるほど!」と思ってしまいがちですが、言う方も聞く方も実は「地政学リスク」についてあまり分かっておらず、なんとなく使っている気がします。
そんな中、今月の特集はそんなマーケット参加者にとって、地政学リスクに関する知識を仕入れるとても良い機会になるのではないでしょうか?今月も4本の論文を読めることに感謝です!
1本目の論文は『高まる地政学リスクと株式市場(藤田勉氏)』です。
Wikipediaで「地政学」を調べると、「国際政治を考察するにあたって、その地理的条件を重視する学問」とあります。
本論文では、「安全保障、軍事力に焦点を当てた地政学を、特に地政戦略学と呼ぶ」と書いていて、代表的な理論として3つ挙げられています。
①ドイツのカール・ハウスホーファー(1869-1946)の生存権理論
②イギリスのハルフォード・マッキンダー(1861-1947)のハートランド理論
③アメリカのニコラス・スパイクマン(1893-1943)のリムランド理論
この他に、アメリカ海軍少将のアルフレッド・セイヤー・マハン(1840-1914)が「地政学」の名称の生みの親で、シー・パワー理論を提唱したことが紹介されています。
後半には、米国の孤立主義回帰について、米国第一主義の歴史的背景、ロシアのウクライナ侵攻について、中国による台湾統一問題についてが書かれています。
著者は「これ以上、憎悪の連鎖を増幅しないためにも、われわれは歴史や宗教的な背景を理解することが重要である」と論文を結んでいるのですが、その通りだと思いました。
2本目の論文は『日本の安全保障―日米同盟の変化と今後の課題―(森本敏氏)』です。
様々な有益な引用のある論文で、特に2章「インド太平洋における地政学的リスク」が私にとって非常に勉強になりました。いくつか採り上げます。
【1】「FY26 Strategic Forces Posture Hearing」によれば、中国は核弾頭を2025年までに600発、2030年までに1000発、2035年までに1500発に増やす計画だそうです。
【2】「Six takeaways from Commander of US Indo-Pacific Command Admiral Samuel Paparo」によれば、中国が2005年の反国家分裂法に規定した三つの条件、すなわち、①台湾が独立を宣言した場合、②第三国が台湾のために介入する動きを見せた場合、③中国が他の如何なる手段によっても統一が不可能と判断した場合であり、このいずれかに該当すると判断したら必要不可欠な戦争とみなし、予告することなく戦争に突入するであろうと書いています。
【3】「How South Korea Could Tip the Scales in a Taiwan Contingency」によれば、台湾危機とほぼ同時期に朝鮮半島有事が発動することを予期して、米国側と共同対処行動が取れるように日米間の指揮統制システムや韓国軍による支援協力を含めて態勢を確立しておくことが求められると書いています。
【4】「Russian–North Korean Cooperation at a Critical Juncture」によれば、北朝鮮兵のロシア派兵に関して、北朝鮮が見返りとしてロシアから受けた支援・援助については、食料・エネルギー及び北朝鮮兵士の給与(本人には支払われていないと見られるが)のほかに、①先進的な宇宙技術、衛星、特に偵察衛星の技術情報、②潜水艦発射弾道ミサイル、③弾道ミサイルの実戦使用データ、④防空システム、⑤電子戦用装備などが考えられ、これが兵器開発や軍事増強につながっているといわれていると書いています。
この他、日米同盟の機能と役割について、日本周辺の安全保障環境が厳しく変化していることが言及されており、昨今の一連の報道を見ていてもまさにそうだなと感じます。
日米協力分野の検討についても7つの具体的な分野が書かれており、「検討」だけでなく「実行」が求められているのではないでしょうか。
3本目の論文は『ウクライナ侵攻後のロシア貿易の地政学的転換(中居孝文氏)』です。
ロシア貿易についてまとめた論文になっています。
2014年のクリミア併合以降も欧米諸国は貿易を続けていたこと、そして、2022年から2023年にかけてガクッと欧米諸国との取引が減っていることがデータから分かります。
その後、中国との輸出入が拡大し、2024年には輸出の3割、輸入の4割が対中国となり、インドは原油を輸入し、生成して石油製品として欧州諸国に輸出し利益を出していることが紹介されています。
4本目の論文は『地政学リスクと原油相場(芥田知至氏)』です。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を本格的に開始した2022年2月からの原油相場について、そのときどきの日次、週次、月次コメントをまとめたような論文になっています。
「130ドル超の高値は一時的」、「産油国の減産や地政学リスクが押し上げも世界景気後退懸念とドル高が下押し」、「2022年12月~2023年3月上旬のボックス圏相場」といったように相場のトレンドごとに節を分けてくださっているので、読み進めやすかったです!
読了後のひとこと
今月号の証券アナリストジャーナルは、『地政学リスクと金融市場』という特集でした。
まずは、地政学リスクについて特集していただいた内田稔さんに感謝したいです。
私にとって地政学リスクは、大事な問題であるけれどもスルーしてしまっていたエリアでした。
歴史的な事象や今の状況を知ることが出来て、大きな収穫となりました。
特に藤田勉さんと森本敏さんの論考はとても有難いものでした。感謝申し上げます。
最後に、読者のみなさま、今月も最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
はじめてこの記事を見ていただいた方に
はじめまして!金融教育家のやすべえと申します。
私は、大学卒業後、証券会社3社にて金融商品のトレーダーとして20年近く勤務し、2018年から金融教育家として活動を開始しました。
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「証券アナリストジャーナル」とは、日本証券アナリスト協会が発行する会員向け月刊機関誌です。
私は、2002年に証券アナリスト検定会員となり、本誌を読み始めまして、2017年から本ブログに読んだ感想をしたためるようになりました。
「備忘録」でもあり、「書きなぐり」に近いものです。その点、ご容赦頂ければ幸いです。
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