やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『多角化企業の財務、人事』という特集です。
「どうして企業は多角化するんだろう?」という問いに対して、感覚的には、「専業でビジネスを進めていく」という戦略がない場合に、企業にいる人の多様性やビジネスを進めていく中で見つかる枝葉から、自然と多角化していくのではないかと感じます。
一方、多角化してビジネスを進めていく確固たる戦略に基づいて実際に多角化していくケースもあるでしょう。「経営不振の企業を立て直す」といった文脈で、シナジーが無いビジネスを買収して、「事業ポートフォリオの多様化で競争力を築く」といった説明をしたりするのかな・・・。
何はともあれ、おそらく、今回の4本の論文は多角化企業の財務(いわゆるお金のやりくりの面)と多角化企業の人事(いわゆる人のやりくりの面)でのGood and Badを教えてくれそうな気がします。楽しく読み進めていきたいと思います!
1本目の論文は『多角化企業はなぜ存在するのか―内部市場の視点から―(牛島辰男氏)』です。
論文タイトルにある「内部市場」というのは、資本市場や労働市場といった通常は「外部市場」にあるものが企業内で存在/機能しているときに使う言葉です。
本論文では、内部資本市場のメリット・デメリット、内部労働市場のメリット・デメリットを教えてくれています。
内部資本市場では、メリットとして、ウイナー・ピッキングという有望な事業に優先的に資金を投入できる効果や、コインシュアランスという複数事業間でキャッシュフローの過不足を補い合って安全性を高める効果がある一方、デメリットとして、内部に資本資本市場があることで不透明なプロセスや社内政治によって資本を得ようとする「モラルハザード・レントシーキング(私の造語です)」や、メリハリのある資本配分が出来ずに、有望な事業に過小投資したり不採算事業に過大投資したりする「逆選択的投資配分(こちらも私の造語です)」についてが書かれています。
内部労働市場では、外部市場を利用するコストをかけずに社内のルールや慣行を知った即戦力と言える人材を配置転換できるメリットと、表裏一体ではありますが、社内人材を無理に配置転換してしまうデメリットが紹介されています。
上記について、内部資本市場の問題は、経営者が明確な戦略を持ち、その戦略通りに実行する仕組みを作り上げることが出来ればメリットを享受できそうです。一方で、内部労働市場の問題は、解雇規制が厳しい日本では、デメリットを享受しがちになりそうです。
今の日本の多角化企業は、内部資本市場でのメリットと内部労働市場でのデメリットのバランスを考えて経営のかじ取りをしていく感じなのでしょうか・・・。
2本目の論文は『事業部間の生産性分散と企業内投資配分―探索としての多角化とガバナンス―(武田智/井上光太郎/木村遥介氏)』です。
内部資本市場にフォーカスしている論文です。内部資本市場があるメリットを活かすために、ウイナー・ピッキングできるか、そして、逆選択的投資配分を排除できるかについて、①事業部間での生産性の差が認識できるか、②有望な事業の不確実性によって有望な事業への投資をためらわずに実行できるか、③機関投資家など外部の目を認識したうえで理想をとする投資配分を貫けるかといったポイントを抑えるべきではないかとデータの分析から主張しています。まさにその通りだと思います!
1本目の論文の感想として書きましたが、内部資本市場の問題は、明確な戦略と実行力でクリアできそうです。本論文では「探索としての多角化」というワードを使って、「学びながら、次の一手を見極める」という知的な戦略性の大切さを説いています。とても興味深い!
3本目の論文は『わが国企業における多角化と現金保有、ペイアウト政策の関係(佐々木寿記氏)』です。
筆者は序盤、「多角化が非効率なものであると安易に決めつけるのではなく、適切なガバナンス体制があれば、多角化は現金の効率的運用や積極的な株主還元につながる有効な戦略になり得る」と言っています。筆者の多角化への思い、具体的に一例をあげるならば、何でもかんでも成長分野に集中すべきといった昨今の一辺倒な流れに危惧を抱く思いが伺えます。
論文の内容としては、多角化企業を観察する中で、多角化企業は現金保有が少なく、条件次第でペイアウトが増えるという結果を見い出しています。
フムフムという感じですが、本論文も内部資本市場に関することが中心的な議論でした。
4本目の論文が内部労働市場について書いてあるので、期待を託しながらページをめくります・・・。
4本目の論文は『日本企業の多角化と労働投資効率性(久保克行/小澤彩子氏)』です。
「内部労働市場」という切り口から、日本企業特有の雇用慣行と多角化の関係に鋭く切り込んでいる論文です。
本論文の結論としては、多角化企業ほど労働投資が非効率になるという分析結果となっています。
本論文を読み進めていくなかで、何故でしょう、モヤモヤしました。上記の分析結果についても、モヤモヤとした感じで受け止めました。
そして、このモヤモヤ感はどこから来るのだろうと、何度か読みながら考えました。
何度読んだかなぁ・・・、分かったモヤモヤ感の理由は、問題の根源が「内部労働市場」にあるのではなく「外部労働市場」にあるからでした。
外部労働市場に問題の根源があるから、いかなる企業も外部労働市場・内部労働市場を効果的に使い分けることが出来ません。
結果、多角化企業は、内部労働市場を必要以上に使い、すぐに活用できない多くの人材を抱え込むコストを致し方なく計上しているのでしょう。
この仮説が正しければ、内部労働市場を持たない専業企業は、雇用におけるハードルが多角化企業との競争の面で劣後することになり、事業を進める大きな障害になるでしょう。
日本の専業企業=ベンチャー企業が育たない理由は「外部労働市場」の問題にありそうです。言い切って良さそうです。
そして、多角化企業にとって、専業企業=ベンチャー企業にあえて塩を送る必要はないので、「外部労働市場」問題を解決するインセンティブは低く、結果日本の労働市場改革は進まないのでしょう・・・。
こんなことを考えさせてくれる、とても貴重な論文でした。ありがとうございます。
読了後のひとこと
今月号の証券アナリストジャーナルは、『多角化企業の財務、人事』という特集でした。
企業が多角化するプロセスはいろいろあるかもしれませんが、多角化企業の評価は「外部市場でのメリット・デメリットの享受と内部市場のメリット・デメリットの享受での総合点でプラスかマイナス、どちらになるのか」ということになるでしょう。
評価することは、それはそれで大事なのです。しかしそれよりも、僕がずっしりと重い荷物を背負ったように感じたのは、「外部労働市場」変革に向けてのハードルの大きさと変わらない日本へのやるせなさです。
もし日本の外部労働市場が劇的に流動化したとしたら、多角化企業の「存在意義」はどのように変化するでしょうか?
「内部労働市場」の相対的な優位性の低下によって、「雇用の維持」という多角化のメリットはほぼなくなり、2本目の論文のように「探索としての多角化」にフォーカスできるようになるでしょう。労働市場の問題においても、明確な戦略と実行力でクリアできるようになるでしょう。
そんな未来を夢見つつ、今月のブログを終えたいと思います。今月も最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
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はじめまして!金融教育家のやすべえと申します。
私は、大学卒業後、証券会社3社にて金融商品のトレーダーとして20年近く勤務し、2018年から金融教育家として活動を開始しました。
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私は、2002年に証券アナリスト検定会員となり、本誌を読み始めまして、2017年から本ブログに読んだ感想をしたためるようになりました。
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