やすべえです。トランプ大統領が就任して、はや1ヶ月が過ぎました。矢継ぎ早に繰り出された大統領令においては、イスラム教徒の移民阻止政策が大きく物議を醸し出しましたが、日米首脳会談などを通過し、少し落ち着いてきたように思えます。米国は大きく変わっていくのでしょうが、政治の方向転換が大きく影響していきそうです。今回はこれからの米国がどうなっていくのかを考えてみたいと思います。
政治の方向転換と共に、経済も勿論大きな影響を持ち得ますが、ここでは政治を中心にまとめてみたいと思います。経済に関しては、金融政策としてFRBとどう連携していくのか、また財政政策として減税などが話題になっているところですが、これまでのアメリカ大統領の政策の延長線上で考えられることが多いと思います。有事が起こった際にどういった手腕を発揮できるかということが未知数でリスクファクターと言えるでしょう。
さて、トランプ大統領の政策とはどういったものなのでしょうか?
ご存知の方も多いと思いますが、政治学者のイアン・ブレマー氏の分析が参考になります。まず、昨今の世界観から見ておきますと、ブレマー氏は「Gゼロ(ジーゼロ)時代」と命名しています。Gゼロ時代になる前はG7という言葉が世界を主導するものとして使われていました。G7はアメリカ、イギリス、フランス、日本、ドイツ、イタリア、カナダの7カ国を意味し、先進7カ国などと呼ばれてもいました。この7カ国の首脳が集まる会議を「サミット」と言っています。冷戦終結後はG8となり、ロシアが加わった期間もありました。
その後、新興国の成長があり、G7主導の世界は徐々にその強さを失っていき、G20という、G7に加えてBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)や経済圏の大きな国などを加えた20カ国での会議体が重要視される期間がありました。大国となった中国も含めて世界を主導していこうという会議体です。
そのG7やG20ですが、ここ数年のテロの脅威やそれぞれ国の主張の強さから、世界が混沌としてくる中で、G7やG20といったグループがこれまでのように強力に主導出来ない時代になってきました。そんな時代のことをブレマー氏がGゼロ時代と呼んでいるということになります。
そのGゼロ時代において、アメリカはどういった役割を演じるべきか?という問いかけをしているブレマー氏の本があります。「スーパーパワー Gゼロ時代のアメリカの選択」というタイトルの本です。紹介します。一度だけでなく、何度か読むとさらに噛み締めて読むことができる本です。
この本の英語版の副題は「Three Choices for America’s Role in The World」となっていて、直訳すると「世界におけるアメリカの役割についての3つの選択」となりますでしょうか。ブレマー氏は、3つの選択を「独立するアメリカ」、「マネーボール・アメリカ」、「必要不可欠なアメリカ」と名付け、順に、諸外国の問題から離れアメリカ国内に投資や力を回帰させていく戦略、マネーボールというメジャーリーグにおいてオークランドアスレチックスが行った費用対効果の補強方法から名前を取った、アメリカが利することに限っては外交していく戦略、そして、アメリカが世界の警察官として積極的に世界に関与していく戦略について、それぞれ章を割いて議論を展開し、どういった戦略が考えられうるかを示していきます。
最後にはブレマー氏の結論も出てきます。ネタバレになってしまいますが、ブレマー氏の結論は「独立するアメリカ」です。これまで結んできた国際的な協定や条約をスパッと反故にするようなことは出来ないでしょうし、「必要不可欠なアメリカ」的な振る舞いが当分必要になる分野もあるでしょうから直ぐに変化することはないものの、超大国としての影響力が減少している中、進む道は「独立するアメリカ」で、模範的な民主主義国家を示していこうという結論です。
トランプ大統領の言うところの「アメリカ・ファースト」の政策はブレマー氏の3つの章がミックスされているものの、どちらかと言うと「独立するアメリカ」寄りのアメリカ国内回帰の戦略になっていきそうです。今後、どこまで外国の問題に足を突っ込んでいくか、TPP離脱で後退したように見える貿易政策をどうマネージしていくかがキーポイントになるでしょう。
「分断されたアメリカ」と言われ、難しい舵取りが求められる大統領ですが、現状で世論に受け入れられる政策と、アメリカの将来像とのバランスが意外にいい塩梅で考えられていく可能性はあるなと感じています。もちろん、突飛な言動や向こう見ずな判断によって突然失脚する可能性もあるでしょうが。。。