やすべえです。「ビジョナリーカンパニーを読むシリーズ」、第3回目までやってまいりました。
前回は、「飛躍の法則」ということで、「GOODな企業」が「GREATな企業」になるポイントを調査していきました。
今回は、「衰退の五段階」ということで、「GREATな企業」がそうでなくなってしまうポイントを調査していきます。
第2巻を読み終えた時に多くの読者が知りたいと思っていた事、「飛躍(成長)」に関しての分析の「対」となる、「衰退」に関しての分析がじっくりと行われます。
ビジョナリー カンパニー③ 衰退の五段階 – まずは目次から
「ビジョナリー カンパニー③ 衰退の五段階」の目次ですが、8章に分かれています。1章から、
「静かに忍び寄る危機」
「衰退の五段階」
「第一段階 成功から生まれる傲慢」
「第二段階 規律なき拡大路線」
「第三段階 リスクと問題の否認」
「第四段階 一発逆転策の追及」
「第五段階 屈服と凡庸な企業への転落か消滅」
「充分に根拠のある希望」
となっています。
本著は、目次を見ただけで、かなり内容がわかる感じになっています。衰退には五段階あり、第一段階から第五段階までの特徴は〇〇です、△△です、××です、といったことが分析されます。前2作よりもシンプルで読み進めやすいです。シリーズのうちで本作から読んでも良いかもしれません。
衰退企業 vs 比較対象成功企業
今回は、前2作と違って、まずは「衰退していく企業」を抽出します。その後に、同時期に衰退しなかった企業を「比較対象成功企業」としてピックアップしていきます。
繁栄が無ければ衰退が無いので、ユニバースとしては、ビジョナリーカンパニーの第1巻と第2巻の調査対象である60社からいくつかのフィルターを通して11社が選ばれました。企業名の後の括弧内は、ティッカーシンボルですが、参考までに入れています。
衰退企業:A&P(チャプター11申請し事実上破綻)、アドレソグラフ(会社更生申請)、エームズ(倒産し消滅)、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、サーキット・シティ(チャプター11申請し事実上破綻)、HP(HPEとHPQ、2社に分割された)、メルク(MRK)、モトローラ(2社に分割され、通信機器開発製造会社は買収、通信事業会社はMSIとして存続)、ラバーメイド(?)、スコット・ペーパー(キンバリー・クラークが買収)、ゼニス(LGエレクトロニクスにより買収)
「比較対象成功企業」はこちらです。
比較対象成功企業(衰退しなかった企業):クローガー(KR)、ピットニー・ボウズ(PBI)、ウォルマート(WMT)、ウェルズ・ファーゴ(WFC)、ベスト・バイ(BBY)、IBM(IBM)、ジョンソン&ジョンソン(JNJ)、テキサス・インスツルメンツ(TI)、キンバリー・クラーク(KMB)、モトローラ(2社に分割され、通信機器開発製造会社は買収、通信事業会社はMSIとして存続)
モトローラは衰退の時期と成功の時期の両方に採用されていて、衰退の時期は1990年代~2000年代、成功の時期が1960年代~1980年代となっています。
読んで思ったことを赤裸々に・・・
・(あくまでも個人的な意見ですが、)第一段階から第四段階あたり、「成功から生まれる傲慢」→「規律なき拡大路線」→「リスクと問題の否認」→「一発逆転策の追及」まで見たときに、パッと思いついた企業が有りました。
2013年12月に1号店をオープンし、テレビなどで取り上げられて、行列のできる店となり、2014年末には30店舗まで拡大、2015年末には77店舗、2016年末には115店舗と急激に拡大し、2017年には海外進出するなど年末には188店舗と飛ぶ鳥を落とす勢いとなっていました。
しかし、2018年、売上高が75%も増加するも、当期純利益は赤字転落となりました。拡大路線はさらに加速しており店舗数は397店舗まで拡大しました。当時の有価証券報告書によれば、不振店舗は業態転換などで何とかなるとの見立てだったようです。
2019年は、210店舗という引き続き超強気の出店計画でしたが、既存店同士の競合などで売り上げが落ち、大きく赤字額が増え、出店計画を115店舗まで下方修正(と言ってもかなり多いですが)、一発逆転策とも見て取れる幾つかの施策が行われました。
2020年に入り、資金繰りを改善する施策が相次いで行われました。昨年末の銀行借り入れに続き、MSワラント発行でキャッシュフローを持ち上げているといった流れです・・・。ここまで書くとわかっちゃいますね・・・。
・さて、第二段階の「規律なき拡大路線」というのは、昨今、「爆速経営」という言葉が流行しているように、ITを使って急拡大出来るという風潮ですが、その急拡大はマネジャブルなのかという見極めが必要だなと感じます。本著には「成長への固執」という言葉で、何が何でも成長しなければいけないという強迫観念のようなものによって企業がおかしくなって衰退していくという流れを説明しています。
・花形プロ経営者を呼んできて、「買収によって当社はゲームチェンジャーになった」とか「この買収は千載一遇のチャンスである」と言いながら、実は第二段階「規律なき拡大路線」だったり、第四段階「一発逆転策の追及」だったりするというケースがしばしば見受けられるので、買収に関してもマネジャブルなのかという見極めが必要です。今起こっている大型買収などに対しても参考となる知見がありました。(本を持っている人用の備忘録になりますが、pp.111-113、pp.168-170を参照すると良さそうです。)
・第三段階の「リスクと問題の否認」は、On goingの赤字プロジェクトに対して途中で中止出来ずに大失敗する事案を想起させます。サンクコスト(埋没費用)や、プロジェクト発起人によるプレッシャーなどで、合理的な意思決定が出来ないケースで、大失敗が見えてくると、力のある社員が辞めてしまったり、責任のなすりつけ合いになったりして、企業の力が落ちていくという悪循環に陥ります・・・。
・ターンアラウンド的な視点で、IBMのルイス・ガースナ―の話が出てきます。この記事を読んでいらっしゃる方はご存知の方が多いと思いますが、「巨像も踊る」という名著(アマゾンへのリンクはこちら)がありまして、このターンアラウンドのストーリーは、当然ながら「巨像も踊る」のほうが詳しいです。一度読んだ方でも、衰退からの立ち直りという観点で読み直してみると良いかなと思いました。
「付録五 主要なポストに適切な人材の条件」が秀逸!
膨大な文章から、人材論・人材配置論として6つ挙げられているのですが、納得感がある素晴らしい分析なのではないかと感じました。これが「付録」となっていて、3ページしか書かれていないのが勿体ないです・・・。(笑)
引用してご紹介します。
1.適切な人材は会社の基本的価値観にあっている。
2.適切な人材は厳しく管理する必要がない。
3.適切な人材は「肩書き」をもっているのではなく、「責任」を負っていることを理解している。
4.適切な人材は達成すると約束したことはかならず達成する。
5.適切な人材は会社とその仕事に情熱をもっている。
6.適切な人材は「窓と鏡」の成熟した思考様式をもっている。
特に「3」は大事だと思います。「責任」と聞くとすぐに「数字」のことを考えがちですが、そうではなくて、顧客に対する行為においての責任を持つことが規律になるのだと思います。
「6」は、成功要因は自分以外にあると考え、失敗要因は自分にあると考える、といったことです。
横道にそれますが、あなたの会社に、成功したプロジェクトに群がる管理職っていませんか?ほとんどコミットしていないのに「私がやりました!」と上層部に報告したりする人・・・。
ということで、この辺で終わりにしたいと思いますが、ビジョナリーカンパニーシリーズ、ここまでの3巻を読めば、「ビジョナリーカンパニーは読みました」と言って良いと思います。お疲れ様でした!
次回は第4巻「ビジョナリー カンパニー④ 自分の意志で偉大になる」について書いていきたいと思います。では!
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