証券アナリストジャーナル11月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「非財務情報の活用法」に関する特集です。

アナリストの分析は、年々進化してきていると思いますが、ここ数年、進化の踊り場のような状態なのかなと個人的には思っています。というのも、データ処理技術の進展などにより、財務情報の分析は出来るところまでやりつくしてしまっている感があり、一方で、非財務情報の活用はなかなか困難であることが背景としてあるからです。今月の証券アナリストジャーナルは、「活用が困難」と思われている非財務情報の活用法に関する2本の論文、そして識者の座談会が掲載されています。

 

早速、1本目の論文(中長期投資において重視される非財務情報とはー企業とアナリストとの建設的な対話に向けてーー宮永雅好氏)から読み進めていきます。

序盤は前提の知識となる二つのコード(スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コード)とESG投資の潮流と題して説明があります。二つのコードについては、この「読んで」シリーズで何度か紹介していますので省略しますが、ESG投資の話の中で「MPT(モダンポートフォリオセオリー)によるアクティブ投資からインデックス投資への流れ」と、「ESG投資への関心の高まりによるアクティブ投資からESG投資への流れ」という主張がありました。スポンサーからの観点で、この2つの流れには大いに納得できるところがあると思います。投資の手法が模倣されやすかったり、投資の成功パターンが長続きしないマーケットの中で、アクティブ投資で成功することが難しくなっていることは間違い会ありませんが、「アクティブ投資よ何処に?」。

メイントピックである「非財務情報」については、国内外のいくつかの試みが紹介されていました。恥ずかしながらしっかりと知っているものが無かったのですが、1つめは、国際統合報告委員会(IIRC)が2013年に公表した国際統合報告フレームワークというもので、IIRCのウェブサイトに載っています。11か国語のバージョンがあり、日本語版もあります。ただ40ページ以上あって、内容が多岐にわたるため、これをしっかりと理解して、それをアニュアルレポート的に発信していくというのはかなりのマンパワーと費用が掛かる気がしました。

2つ目に、英国のFRC(Financial Reporting Council)が2016年の10月に公表した「Business model reporting」というのもので、こちらに1枚モノのまとめがありますが、御社のビジネスモデルについてこれこれの観点から説明してくださいというもので、マンパワーと費用はやはり掛かりますし、何故に当社が精魂込めて築いてきたビジネスモデルを簡潔に世界にディスクローズしなければいけないの?という話になってきそうな気がします。

3つ目に宮永氏なりの分類がでていまして、①財務的価値の創造に関連した非財務情報、②企業の存続基盤に関連した情報、③ES/CSR関連情報、④事業環境とリスクに関連した情報、⑤そのほかの非財務情報、という分類ですが、この程度の要求レベルが企業にとって受け入れやすいのかなと思いました。ディスクローズというのは歩み寄りですので、「これまでのアニュアルリポートにもあったような記述プラス少し」という量で、分類して投資家に分かりやすくするというアプローチが双方にとって心地よいのではないかと思いました。

4つ目は、経済産業省における価値協創ガイダンスです。宮永氏は、1つ目の国際統合報告委員会(IIRC)の国際統合報告フレームワークと同様に実際の企業と株主・投資家との建設的な対話に役立つ指針と言っていますが、まさしくそうだと思います。経済産業省のホームページの中にある解説資料に一つやさしさを感じたのですが、価値協創ガイダンスは、「企業に更なる開⽰を強いるものではないですよ」、「網羅的に開⽰しなければならないものではないですよ」、「このガイダンスに即した開⽰がなければ、企業と投資家の対話はできないわけではないですよ」という3つの誤解を解く工夫がありました。一歩ずつ一歩ずつ対話が進んでいけばよいのですよ、という経産省からのメッセージを感じました。

以降、日本企業と南アフリカ企業の統合報告に見られる非財務情報における比較が出ています。日本企業は非財務情報のディスクローズを頑張りましょうという結論になりますが、これらの比較などから、今後の展望として宮永氏は3つの方向性を提示しています。この3つの方向性を企業が認識し、改善していけば、非財務情報がより理解しやすい情報になり、企業と投資家の対話に役立っていくと思いました。企業様は大変でしょうけれども、頑張っていただきたいところです!!

 

 

2本目の論文(対話の相手の「本音」を知ろうー投資家フォーラムでの議論から読み取る試みーー大堀龍介氏)では、投資家サイドからの意見、企業サイドからの意見を個別に集めたり、投資家サイドと企業サイドが討論する中での意見を集めたりすることによって、本当に実りのある、伝えたいことを伝え、聞きたいことを聞くことのできる対話を模索していくような流れになっています。

企業サイドからの意見として、「投資家は企業にとって建設的な対話をすべき相手でもないし、投資家も対話できる能力を持ち合わせていない」、「投資家の目で企業価値を評価したり、価値創造の在り方や課題を指摘してもらうことが重要なのだが、そこまでの対話に至らない」といったものが紹介されていて、考えさせられます。おそらく投資家サイドからも「この企業は投資家に何も伝えてくれない」といった意見があるように思います。

企業と投資家との関係は、両者がお互いをけん制しながら、そういった行為によってお互いを高めあうようなものあるべきと思うのですが、企業サイドでも提供できる情報レベルに差があるでしょうし、投資家サイドでも情報を受け取れるレベルに差があるので、やはりスタンダード的な非財務情報の開示指針を作って、その指針に基づいて行うことが解なのかなと思います。

 

 

最後に座談会(小野塚惠美氏、芝坂佳子氏、松島憲之氏、中野誠氏)についてですが、テーマは「アナリストの新たな分析視点ー非財務情報の活用法ー」となっています。

目次を見てみますと、「はじめに」、「重要な非財務情報とは何か」、「企業価値評価モデルや投資意思決定における非財務情報」、「統合報告書と非財務情報開示の現状と課題」、「非財務情報の開示が進むことによるメリットとデメリット」、「非財務情報の入手・分析の工夫とアナリストの役割」となっています。20ページに渡って濃密な議論が展開されているのですが、司会の中野氏の好ファシリテーションによって、それぞれ立場の違う4氏による切り口の違う意見がバランス良く発信されていて、一読すると、非財務情報を活用したいという思いを持つ様々なチャネルについて俯瞰できるような構成にもなっています。

内容を書いていくときりがないので、割愛してしまいますが、座談会の文字起こしとは思えない濃密さで何度も読み直したいと思える、素晴らしいものでした。

 

 

 

というわけで、今月の論文は「非財務情報の活用法」というテーマでした。今月のテーマに関しても少し大学院での話と絡ませてみますと、大学院におけるバリュエーションの講義では、財務情報の分析はイロハのイで、その分析が終わっていることを前提として何が出来るのかという話になっていたりします。ひょっとすると、非財務情報の活用は産学連携での分析や研究、スタンダードづくりに適しているネタなのかもしれません。次回もお楽しみに♪

 

 

前の月のジャーナルに戻る  次の月のジャーナルに進む