証券アナリストジャーナル10月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルはプライベートエクイティ投資に関する特集です。

プライベートエクイティとは、パブリックではないプライベートなエクイティという意味で、非上場株式と訳されると思いますが、今月の証券アナリストジャーナルは、そんな非上場株式への投資に関する4本の論文が掲載されています。

近年、プライベートエクイティへの注目が上がっていると感じます。「ユニコーン企業」と言われる、企業の評価額が10億ドルを超えるような非上場株式が増えてきていることが背景なのでしょうが、非上場企業のデメリットである資金調達の困難さが改善されてきていて、上場企業のデメリットである少数株主を含む多岐にわたるステークホルダーへの配慮や、買収されるリスク、開示する資料が多くて煩雑なことなどが無いというのが理由としてはあるのかなと思います。

 

さて、1本目の論文(PEの動向とパフォーマン測定ー清水毅氏、秋山潤一郎氏)では、証券アナリストジャーナルの1本目の論文らしく、PEの概要が分かるようなデータが豊富に載っています。

世界の運用資産残高が成長を続ける中、オルタナティブ運用資産残高がより速いスピードで増えており、オルタナティブ投資の中でもPE投資は拡大していきますよ、という「残高」のお話と、リスクリターン分析によると、いろいろな運用資産の中でPE投資は「パフォーマンス」も良いですよというお話が出てきます。もっとも、「リスク」の測定については非上場株式で測定方法が難しく確立されていない所もあるので、他の論文で議論されていたりします。

「リターン」については、イギリスのPEやVC(ベンチャーキャピタル)の業界団体であるBVCAのデータが提示されいて、上場株式のインデックスより良いリターンを出していることや、PEファンドの開始年(ヴィンテージというそうです)によってリターンがかなり変わってくることが分かります。上場株式への投資においても、リーマンショック前とリーマンショック後、どちらの時点で資金を投入したかなどでリターンが変わってきますが、非上場株式への投資においても同様なことが起こっていますよということです。

この「リターン」というものはイグジットしてしまえば後付けで明確に分かりますが、途中での評価は難しいものです。各地域で評価の仕方が違うことなどが紹介され、最終盤には日本のパフォーマンス測定の取り組みついてや課題が示されています。しっかりと評価基準を設けて決めていけば、透明性が向上し、PE投資はさらに拡大していくのではないでしょうか!

 

 

2本目の論文(PEファンド投資の実面の課題ー貞永英哉氏、西澤整氏、小野泰宏氏)では、著者である、ゆうちょ銀行の3氏の実務的な経験から、PE投資をどのように選ぶか、どのように運営するかといったことが書かれています。この論文は、PE投資を検討している機関投資家などにかなり有益なのではないでしょうか!

章立てとして、「はじめに」の後に、「PEポートフォリオの構築」、「PEファンドの選別」、「新たなタイプのPE投資」、「ミドル・バック業務の体制」、「組織設計上の留意点」、「ゆうちょ銀行での取組み内容」となっています。総じて実践的な視点で、「PEポートフォリオの構築」の中に、「外部リソース活用の必要性」とあり、ファンドオブファンズやゲートキーパー(ファンド選別における助言者)の活用について書かれていたり、「PEファンドの選別」の中には、「契約条件」の項があり、「Institutional Limited Partners Association」というPEファンドに投資する機関投資家により設立された団体の情報が理想的なモデル契約を学ぶ早道として参考になるといったことなどが書いてあります。

 

 

3本目の論文(PE投資のベンチマークー構築と検証ーー池田直史氏、井上光太郎氏、小澤宏貴氏)は、投資における大事なリターンに関する質問である、「どれだけ儲かったの?」、「他のファンドと比べて良いの悪いの?」という質問に答えるために、PE投資のベンチマークを考えるという大変意義深い論文でした。

「日本におけるPE投資に関する公開情報は著しく不足している」と序盤に述べ、筆者たちが、既存のデータを使いながらも、独自のサーベイ調査を行って得たデータを用いて、分析を行った結果が載っています。

投資開始年(ヴィンテージ)別のリターンや、そのリターンを要因分解したものが分かりやすい図表として出てきます。ここでもリーマンショック前とリーマンショック後での投資で大きく違いがあることが分かります。

課題としては、オンゴーイングな、継続中のPE投資のベンチマークが分かるようになることなのだと思います。これを知るためには、もっとデータや情報開示が必要になってきそうです。

 

 

4本目の論文(PEファンドの運用成績計測手法についてー白木信一郎氏、宮田忍氏)は、PEファンドの運用成績を計測するメジャーな手法であるIRR法(内部収益率法)だけでなく、他に良い方法がありますよ、ということを教えてくれる論文です。

そもそもIRR法というのは事業評価(プロジェクト評価)で用いられるようなものです。私がはじめてPEファンドのリターンに関してIRR法が使われていると聞いたときは、「うーん、投資の評価ってそれでいいのかな?」と思いました。イグジットしないと評価が難しいというのが第一感でした。

まぁ、そんな私の「投資の評価ってそれでいいのかな?」に答えてくれるべく、先ほどのIRR法の他にも、PMEというPublic Market Equivalentの略ですが、そのPME、改良版のPME+、mPMEといった、いろいろな評価方法が紹介されています。そして、それらには難点があるとも筆者は言っています。

そこで、「Direct Alpha Method」はどうですか?使いやすいではないですか?というのが筆者の主張です。「Direct Alpha Method」は直接的にPEファンドのキャッシュフローとベンチマークとを比較する手法で、たしかに「アルファ」を求めるというのは「他のファンドと比べて良いの悪いの?」に対する答えとなりますから、3番目の論文のところに書きました問いかけを解決するナイスなソリューションだと思いました。ただ、ベンチマークが所与でないといけないので、「で、ベンチマークはどうするねん?」という問題は発生するわけで、3番目の論文のお題である「PE投資のベンチマークー構築と検証ー」が求められるということになります。

両論文のコラボレーションが必要でしょうか!?

 

 

今月の論文は「プライベートエクイティ投資」というテーマでした。大学院生になりましたので、以前からのこのシリーズを書く目的である「沢山の人に証券アナリストジャーナルを知ってもらって、論文の内容をかみ砕いて書くことによって、証券アナリストの世界を身近に感じてもらう」に加え、もう少しアカデミックな視点からも書いていけるのかなとも思っています。読んでくださっている皆様、今後ともよろしくお願いいたします♪

 

 

前の月のジャーナルに戻る  次の月のジャーナルに進む