証券アナリストジャーナル1月号やすべえです。2019年も「証券アナリストジャーナルを読んで」シリーズ、書いてまいりますので、よろしくお願いいたします。

今月の特集は「MiFID II 導入後の状況と展望」となっています。「MiFID II」とは、欧州で2018年に導入された金融市場とサービスにまつわる規制で、日本語では「金融商品市場指令」と訳されています。このMiFID IIは欧州はもちろんのこと、米国や日本にも影響していて、業界を揺るがしています。

では、読み進めていきたいと思います。

 

1本目の論文は、「MiFID II/MiFIRの適用開始と欧州株式市場構造(川本隆雄氏)」です。

1本目の論文にふさわしく、MiFID IIの全体像が分かるようになっています。この規制において最も注目されているのは「リサーチ・アンバンドリング規制」という、金融商品やマーケットのリサーチ費用を金融商品の取引の費用とごっちゃにせずに分けましょうねという規制なのですが、その「リサーチ・アンバンドリング規制」については2本目の論文のところで述べていきたいと思います。

MiFID II/MiFIRというのは、EUのルールでして、ESMAのホームページに載っていますが、投資家保護を強化し、金融市場の機能を向上させて、それらをより効率的で回復力のある透明なものにするというものです。

投資家保護のためには、「最良執行義務」だったり、先ほど紹介した「リサーチ・アンバンドリング規制」だったり、「情報開示」に関する規定があります。
金融市場の機能の向上のためには、取引をする施設、取引をする業者といったものを明確にして、それぞれの役割を規定するものがあったりします。
他には、ダークプールやハイフリーケンシーで捕捉が難しくなってきた、様々な取引の報告やデータを集めて、適切にマーケットを運営していくような規制など、かなり先進的で網羅的に金融市場を見て作られたルールと言えます。

 

この論文の後半では、株式市場構造に影響を与える規定や、ダークプール規制の影響といったものを深掘りしていき、株式市場構造の変化を観察しています。このサイトで紹介するにしてもマニアックな内容だとは思いますが、ダークプールに規制を掛けると、定期的オークション形式の取引シェアが増加するなど、いわゆるメインの取引所を含むいろいろなベニューで、どのようなアービトラージ(スキャルピングと言っても良いのかもしれませんが)が行われているのかが垣間見えてくるような内容です。

取引所間でティックスプレッドが異なっていたりすると、マネーゲームの機会が発生しがちで、ティックデータを観察するとダークプールやハイフリーケンシーの挙動が見えて興味深かったことを思い出しました。素早く買いオーダーを入れて購入出来た瞬間にあらかじめ入れておいた売りオーダーを取り消し、その売りオーダーを買いに来たオーダーがナノセカンドのレベルで空振りして、買えなかったので値段を上げたところに、再度売りオーダーがぶつけられるとか、目に見えない速さで電子取引がマーケットを使ってマネーゲームをしていたことを思い出しました。

 

2本目の論文は、「欧州におけるリサーチ費用のアンバンドリングの実態(菅野泰夫氏)」です。

さきほどもちらっと説明しましたが、このリサーチ・アンバンドリングというのは業界騒然となっている問題でして、日本も対岸の火事ではなく、大いに影響が出てきている問題であります。

最初に、MiFID II導入前と後で、どのようにサービスの提供方法が変わったのかという事を紹介しています。ざっくり言うと、導入前は「リサーチを無料で頑張って提供するんで、沢山オーダーを出して手数料をください!」、運用機関からいうと、「リサーチを頑張って提供してくれたら、オーダーの手数料で恩返ししますね!」というスタンスだったのが、導入後は「オーダーはオーダーで、リサーチはリサーチで、分けて手数料をください!(払います!)」となったということです。

証券会社はリサーチにはっきりと値段をつけたことが無かったので、様々なタリフを作って、リサーチを買ってもらえる様にしました。この論文にある図表では、「リサーチレポート1年間読み放題(4万ドル)」、「電話での投資アイデアの提供(50ドル)」などと載っています。

 

実際の導入でどうなったかという話では、「リサーチ費用の価格破壊」となっています。「最終的には多くの契約が当初の価格から半値から10分の1以下の順に引き下げられた」とあります。オーダーの執行手数料も含めたトータルの手数料はどう変化したのでしょうか、気になりますが、減少したのではないかと思います。そして、証券会社の内部では、トレーディング部署とリサーチ部署が管理会計で争っているような図式が沢山ありそうな気がします。

導入から1年が経ち、今年は契約の見直しが進んでいくでしょうが、どのようになっていくでしょうか。大事なことは、リサーチの売り手と買い手が合意してリサーチレポートなどサービスの価値を評価して安定した取引を行って、業界が混乱なく発展していくことだと思います。MiFID IIは、リサーチ業界にとってはちょっと荒療治でしたが、健全な進化を遂げていってほしいなぁと思います。

 

「MiFID IIが株式市場に与える影響を考える」と題した座談会

今月の証券アナリストジャーナルの特集に関する論文は2本で、その後には「MiFID IIが株式市場に与える影響を考える」と題した座談会の文字起こしが載っています。

メンバーは梅野淳也氏(ブラックロック・ジャパン)、大槻奈那氏(マネックス証券)、久保直毅氏(公認会計士)に、司会に神山直樹氏(日興アセットマネジメント)となっています。

このMiFID IIという導入後間もないルールを考えるにおいて座談会的な議論は非常に良いものだと思いますが、MiFID IIの影響を一番受けたであろう機関投資家向けの総合証券会社の方がいないのが残念です!!とはいえ、客観的な視点を中心に、様々な意見が交わされています。

 

大槻氏は「非常に非効率的だった以前に比べれば、時間的にもかなり軽減された」、「MiFID IIは、いろいろと批判されてはいるが、これも一つの合理的な考え方かもしれない」と総じてポジティブに捉えていらっしゃるようでした。

梅野氏は「これまでは、水と同様にリサーチは「ただ」という思われていた」との意見があり、リサーチはリサーチで手数料を払うというマインドセットになるだけでも大変なのではないかと考えてしまいます。加えて、「必要なリサーチを不必要なリサーチの峻別がなされることにもなる」と荒療治ながらも健全な進化への視点をお持ちのように見えました。

終盤には、「アクティブvsパッシブ」という話も出てきます。「リサーチにお金を払わなくなる」→「価格発見機能の低下」→「ボラティリティの上昇」という流れで進んでしまえば、健全な市場形成に逆行してしまう、という議論です。これは、価格発見機能を持つ優れたリサーチがあれば、「リサーチにお金を払わなくなる」、「価格発見機能の低下」という前提は覆りますので、MiFID IIはまわり回って「優れたリサーチ」を生む背景になるのかもしれません。

 

 

最後に!

今月の証券アナリストジャーナルは「MiFID II 導入後の状況と展望」という特集でした。主に機関投資家にかかわってくる内容ですので、とっつきにくかったかもしれません。最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。今年も頑張って書いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします!