やすべえです。
「証券アナリストジャーナル」2019年2月号の特集は「地方銀行の経営戦略」です。およそ2年前のジャーナルで、「超低金利環境下の金融機関戦略」という特集が組まれていまして、一本目の論文を書かれた吉澤亮二氏は、「昨今の銀行の利益が株式や債券の売却益で下支えされている」、「地銀の利益減少モメンタムが続いていくと平均で5.8年後には業務純益が赤字化する」などと主張されていて、なかなか厳しい内容でした。ふと思い出しましたので、紹介してみました!
では、今月も読み進めていきたいと思います。
1本目の論文は、「株式会社としての地方銀行(吉澤亮二氏)」です。
「お、見たことのある著者のお名前では?」と思った方、大正解です。上記、2年前のジャーナルで「超低金利環境下の金融機関戦略」という論文を書かれた方の新作(?)です。吉澤氏はS&Pで金融機関格付け部のセクター・リードアナリストをされている方で、「銀行不要時代」という本をお書きになっています。
最初に、「銀行を取り巻くマクロ的な課題」と題して、環境を俯瞰しています。「非金融法人部門(企業)が資金余剰方向に変化した時期と貸出金約定金利の低下時期に関係性がある」とデータを示し、このような状況では貸出金約定金利はなかなか上がりませんよねという前提を置いています。
中盤には、「地銀の現状」と題して、預貸金利鞘のグラフを提示し、「地銀の収益性は危機的な水準にまで落ち込んでいる」ことを主張します。たしかに、グラフを見てみますと、預貸金利鞘のプラスのトップが不正融資で問題のあったスルガ銀行で、その他でプラスになっている銀行は数えるほどしかなく、「地銀の約85%の貸出業務が赤字という状態」です。2年前の論文でも、今回の論文でも地銀の利益の赤字化を懸念しています。
地方銀行の存在は、預金のシェアや貸出のシェアを考えれば、日本の金融業界の中でかなり大きいわけで、どうしていけばよいのでしょうか。
ここで、論文名に出てきます、「株式会社としての地方銀行」という話になります。「地銀は銀行であり、会員間の相互扶助を目的とした共同組織ではない」とし、銀行法に、「銀行の公共性」とともに、「私企業性」を謳っているかぎり、このバランスをとりながら発展していくべきだとという議論をしています。
現状、マイナス金利下で少子高齢化のインパクトが地域に押し寄せている中で、この両立が難しいことは論を待たないわけですが、であるならば、「私企業性を達成できるだけの経営効率性を追求する道である機能体組織(ゲゼルシャフト)」か「相互扶助を追求する協同組織よりの道である共同体組織(ゲマインシャフト)」、どちらかの方向性をしっかりと考えて、変革していかなければならないと言っています。
2本目の論文は、「地域金融機関をめぐる経営課題(小野有人氏)」です。
1本目の論文で、問題意識を大きく持ったわけですが、実際問題で何をしていけば良いのか考えるところですが、この論文では、「エクイティ性資金」、「預金の削減を含むバランスシート調整」という2つの考察を行っています。
「エクイティ性資金」とは何でしょうか。これは、「エクイティ」ではなく、無担保の短期継続融資のことを言うようです。このワードを一見して、危なさを感じたのですが、融資先が好調で成長しても「エクイティ」ではないのでアップサイドが無く、融資先が不調であれば「融資」なので焦げ付くというダウンサイドがあるというもののようです。何故に「エクイティ性資金」と言えるのか謎なので、これより「短期継続融資」と書きましょうか。。。
この「短期継続融資」というのは、「1990年代後半以降減少」したとあります。2002年には『金融検査マニュアル別冊』において「正常運転資金を超える短期継続融資を不良債権と認識すべきとの判断が示された」とのことです。こういった背景で、金融庁は「短期継続融資」を減らそうとして、地方銀行は実際に減らしてきたわけです。
それが2015年に解釈の転換があったようで、「正常運転資金の範囲を超えて無担保・無保証の短期継続融資で対応することは、金融機関の目利き力を発揮する一手法である」となったようです。
この論文だけで理解したと早急に思うべきではないと思いますが、地方銀行サイドとしては「そんなこと言われても・・・」となったのではないでしょうか。
「預金の削減を含むバランスシート調整」については、純資産や、貸出、国債、預金といったそれぞれの要素が、理論モデルの中でどう最適化(額をいくらにすべきかといった目標)されるかという事を説明しています。
結論としては、「マイナス金利政策導入後」に「余資運用の余地が狭ま」り、「貸出もしくは貸出以外のリスク資産を増やすか、あるいは預金を削減するか」という選択となり、「前者を選択すれば、リスクプレミアムが低下し、「低採算先」貸出比率が上昇する」といったものになっています。
ここで、「低採算先」の貸出を増やすくらいであれば、預金の削減に踏み切ってみてはどうかという提案があります。米銀が預金関連手数料を引き上げたことや、ドイツの一部の銀行が預金金利をマイナスにしたことなどが紹介されています。
3本目の論文は、「低採算貸出の増加と金融脆弱性-金融システムレポートの分析から-(川本卓司氏)」です。
こちらは、日銀の方が書かれた論文です。と言いますか、金融システムレポートの紹介とも言えますでしょうか。
金融システムレポートは、年に2回、日銀から発行されているもので、リンク先はこちらになります。非常に広範囲で時系列にも充実したデータから分析されており、パワーポイント的な「概要」という視覚的に理解できる資料も用意されていますので、一度読んでみてはいかがでしょうか!
4本目の論文は、「戦後地域金融機関モデルの転換と進化-処方箋は地域商社化と信託機能の活用-(高田創氏、大木剛氏)」です。
2本目の論文に続き、実際問題で何をしていけば良いのか考える論文として、「地域商社化」、「信託機能の活用」という2つの考察を行っています。私は高田さんの分析が好きでして、よく見させていただいているのですが、2019年はアベノミクスの好循環の反動で厳しいのではないかという見通しを持っていらっしゃいます。ちなみに、高田さんは「たかた」と読みます。さておき。
最初に、企業が金融機関に支払っている支払利息と、企業が投資家に支払っている配当金についてのデータが出てきます。「90年代初頭には40兆円近い水準」が「17年度の支払利息は7兆円割れの水準」となっており、一方で配当金は、「90年ごろは5兆円程度」が「今や23兆円程度」となっているというものです。そんな時代に「銀行は持合い株式の解消」で「収益性の観点から真逆なことを行ってきた」と書いています。
その通りなのでしょうけれども、その背景として、持ち合い株式というものが、「安定株主を確保したい」ですとか、「融資を含めたお付き合いの一環で保有する」といった動機によるもので、本来株式を保有するときにあるべき動機に欠けていた、ということがあるのではないかと思います。事業の発展に賭けるベンチャーキャピタルのように株式を保有すべきというのは言い過ぎだと思いますが、事業の利益をある程度エクイティで取りに行くという姿勢が必要なのだと思います。
その点が、高田氏が言う「地域商社化」のポイントで、「金融と事業がクロスオーバーする分野」に進出するような提案がなされています。
「信託機能の活用」に関しては、少子高齢化でのビジネスモデルを構築せよというメッセージに映りました。地域金融機関のチャネルを活かすために、「個人向け相続」、「中小企業の円滑な事業承継」、「後継者不足といった課題解決」といった信託業務+そこに付随する業務を提供すべきではないかというものです。
この問題は、地域金融機関だけの問題ではありませんが、大きなビジネスチャンスとして、様々な参加者がいるべきだと思います。大学や大学院といった教育機関でも、事業承継のプロフェッショナルづくりだったり、後継者育成といったことが出来るのではないかと、議論したことがあり、時間が限られる中、加速していかねばいけないと考える次第です。
最後に!
今月の証券アナリストジャーナルは「地方銀行の経営戦略」という特集でした。日本の金融機関の中で大きな部分を占める地方銀行ですが、どのように問題を打開していくべきか、答えはぼんやりとは見えていても、なかなかたどり着くことが難しいことではないでしょうか。政府がどこか特区のようなものを作って、マンパワーをつぎ込んでモデルケースを作ったりしていくでしょうか。民間が大規模に事業再生に取り組んでいくでしょうか。ここ数年が勝負になってくるのではないかと思います。
最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。
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