やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「先端的金融IT技術の応用」の特集です。

 

この時代、どの業界にもIT技術が使われているでしょうが、その使われ方は業界によっていろいろだと思います。

私がやっていました株式トレーダーの世界ですと、10年前くらいからでしょうか、HFT(ハイフリーケンシートレード)という高頻度取引がアメリカ発で日本のマーケットにも大規模に進出していました。マイケル・ルイスのフラッシュ・ボーイズという本を読んだ方もいらっしゃると思いますが、私のような「竹やり」でトレードする者たちに対して、目に見えぬスピードで買いたかった売り物を奪って利益をかすめとっていました。

彼らの技術は日進月歩でしたが、当時、上手くやればHFTを出し抜くことも可能でした。HFTはオートマティックにプログラムされたとおりに動くので、損切りするメカニズムまで解明して、「竹やりでも勝てる!」なんて株式市場の片隅で自己満足していたことを思い出します。(ちなみに、竹やりでずっと勝てることは無く、定期的にプログラムが改善されていました!笑)

それから時は経ちましたが、「ただ早く情報を取ってきて、ただ早く注文を出して、細かいサヤを稼ぐ」というタイプのIT技術はすぐにコモディティ化してしまったと思います。と言ってみたものの、どうなんでしょう、まだ定常的にそこそこ儲けてるかもしれませんが。。。

今は、もっと先進的、先端的にIT技術が活用されていると思います。前置きが長くなりましたが、今月号を読み進めてまいります。

 

 

1本目の論文は、「先端的金融IT技術を活用した資産運用業の現況と未来(小粥泰樹氏、嶋村武史氏、小林潤史氏)」です。

今、日本の資産運用業は、手数料革命の影響を受けて、収益性が下がっていると言えますが、先端的金融IT技術をどう活用しているのでしょう?本論文で資産運用業の現況と未来が見えてきます。

流れは明快なようで、「ノンコア業務の効率化」から「コア業務の付加価値向上」へと進んでいるようです。その中で、「人→機械」という人の作業を完全に自動化するようなIT技術から、「人×機械」という機械が人をサポートし、付加価値を高めるようなIT技術という流れを押さえておく必要があるようです。

「人x機械」という流れの中では、コア業務である「投資分析・ファンド運用」においては、オルタナティブ・データの活用というものが行われているそうです。オルタナティブ・データというのは、伝統的なデータではなく、クレジットカードの購買情報ですとか、位置情報データといったもので、最近になってデータとして用いられているものです。

また、もう一つのコア業務である「営業・クライアントサービスの業務」においては、ロボアドバイザー的な分析を対面でのアドバイスの一助として使うようなケースが多くなってきているようです。たしかに「人x機械」というのは、信頼の補強になるようで、アドバイスの質・量とも直感的に良くなると感じます。

本論文は資産運用業の中での話でしたが、先端的金融IT技術という言葉を聞くと、資産運用業の垣根を越えて、さまざまな業種とのコラボレーションが想起されます。これからの5年10年でさらに変わっていく気がしました。

 

 

2本目の論文は、「ESG格付のネットワーク構造が示す新しい企業戦略(饗場行洋氏、伊藤健氏、井辺洋平氏)」です。

この論文は先端的金融IT技術がどのように実践に用いられるかを例示し、今後の企業戦略の道標となるようなものです。

具体的には、MSCIやFTSEによるESG格付においてランクを上昇させるという目標を達成するために戦略が構築されますが、それは定性的判断の評価を得るための方法論の大きな道筋となっています。本論文のESG格付の話だけではなく、これまで行われてきた定量的なアプローチと同じように定性的なアプローチが出来るという可能性を大いに感じさせるものです。

定性的データの構造化の分析には、単語レベルでベクトル化する方法として「GloVe」、文章レベルでベクトル化する方法として「BERT」が用いられているとあります。深くは理解できませんでしたが、こういった分析方法によって、人間や企業の行動の指針と言いますか、示唆を与えてくれることは分かりました。

世の中がこういった技術によって良くなっていくことを願ってやみません!

 

 

3本目の論文は、「人工市場シミュレーションを用いた金融市場の規制やルールの議論(水田孝信氏)」です。

この論文は社会システムの分析についてのものですが、先端的金融IT技術でシミュレーションを利用して有益なアウトプットを得ようというものです。

筆者は社会システムの分析には「数理モデル」、「実証分析」、「シミュレーション」が欠かすことのできない手法と言っています。「数理モデル」は人間の行動は数理で表現できないものの、慎重に有意かどうかを分析することなどにより効果を発揮できそうです。「実証分析」はありのままのリアルな世界を見るわけですから、再現性が高そうで良いのですが、コストがかかるという弱点があります。「シミュレーション」は昨今先端的金融IT技術によってかなり進化が進んでいる分野となっているようです。本論文も、その「シミュレーション」の先端事例と言えるものではないかと思います。

 

研究事例として、「呼び値の刻みの適正化」、いわゆるティックサイズの適正化が載っています。

かなり前の話になりますが、みずほ(8411)株は100円台の株で呼び値の刻みが1円だったため、1円の重みが1%近くあり、トレードするのが難しい株でした。平成26年(2014年)に小数点株価が導入され、だいぶ取引しやすくなったのですが、PTS市場との呼び値の刻み競争が背景にありました。

この論文にある人工市場シミュレーションでは、まさに呼び値の刻みによって、市場シェアがどう変わるのかということを考えています。結果としては、ある程度の呼び値の刻みまでは刻みが小さいほうが市場シェアを獲得するが、ある程度の呼び値の刻みを下回ると大勢に影響が無くなるというものです。

たしかにそうだろうという結果ですが、この結果をもとに取引所のルールが設計できるなどの便益が生まれていることを考えてみると、大変有益な分析と言えるのではないでしょうか!

 

 

4本目の論文は、「企業間取引ネットワーク構造を用いた企業活動予測(尾崎順一氏、高安美佐子氏)」です。

この論文は東京工業大学の教授、助教の方が書かれていて、内容として難しいですが、企業活動を複雑ネットワークに基づいて実データから直接モデル化するというアカデミックでありながら即戦力として使える技術となっています。

企業はその企業のみで活動しているわけではなく、沢山の他の企業との協業や取引関係によって成り立っています。そのつながりのモデルを構築し、そのモデルを使って企業活動を予測するというもので、マニアックながら大変興味を持ちました。

ちなみにこのモデルは、いろいろな事象の予測に使えるようで、北海道地震の停電の被害についてや、人口減少社会におけるGDPの変動についてなどで使われているとのことでした。

 

 

 

最後に!

今月の証券アナリストジャーナルは「先端的金融IT技術の応用」という特集でした。有難く拝読させていただきました。

様々な角度からのアプローチがあり、先端的金融IT技術というものが、まだまだ未開拓の技術であり、無限の可能性を秘めた技術であることが分かりました。

こういった論文をフォローしていくことは、論文を書くようなアナリストやストラテジストに限らず、私のような金融教育をやっている者にとっても、マーケットと対峙しているトレーダーやファンドマネージャーという最前線の方にとっても、非常に大切なことだと思いました。ここ数年で景色がガラッと変わっているでしょう。

 

ということで、最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。

 

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