証券アナリストジャーナル3月号やすべえです。証券アナリストジャーナル、今月の特集は、「経営者報酬を考える」です。日産自動車の報酬開示問題があったこともあり、この特集が組まれたのだと思います。報酬の取扱い方法には実務面と制度面のギャップがあったり、報酬制度の効用といったそもそもの問題もあるようで、「経営者報酬」問題は、業界全体として考えないといけない、そして、企業としても全社的に考えないといけない大きなイシューであることを再確認しました。

ということで、1本目の論文から読み進めていきます。

 

 

1本目は、論文「業績連動報酬制度の概要(柴田寛子氏)」です。

「私の報酬は業績連動でして・・・」、「昨年のインセンティブ報酬は〇〇円でした・・・」と簡単に言えてしまいますが、その中身というのは意外に複雑だったりしますし、制度設計においてはかなり難しいものがあるようです。本論文は、どういった業績連動報酬があるのか、といった基本的なことから導入状況、設計上の留意点、制度運用上の留意点などを教えてくれます。

 

業績連動報酬には、金銭、株式、新株予約権といった財産が用いられますが、評価の対象を「業績」とするか「株価」とするか?評価の対象となる期間を「単年度」とするか「複数年度」とするか?、といった場合分けを考えるとかなりのケースがあることになります。加えて、株式では譲渡制限付きにするですとか、株式交付信託を用いる方法ですとか、様々ありますし、新株予約権では税制適格なのか税制非適格なのかといった分類だけでなく行使価額の違いなどでも色々変わってきます。

上記に挙げたような様々な方法において、損金算入の要件を満たしているか?を考えておくことも大事なことになってきます。

経営者としては、大まかなところを理解しつつ、弁護士や公認会計士の知識や知恵を仰ぐことになりますでしょうか。独力でやっていくのは難易度が高いです。

 

また、そもそも論として、「業績連動報酬の目的として、適切なインセンティブとして機能するのか?」「業績連動報酬額の決定プロセスにおいて恣意性が排除されているか?」といった事項も説明されています。

1本目の論文らしく、しっかりと業績連動報酬制度を学ぶことが出来ました。感謝です!

 

 

2本目は、論文「業績連動報酬制度の会計(波多野直子氏)」です。

1本目の論文で「業績連動」とひとえに言っても難しいなぁと思ったところでしたが、2本目の論文では公認会計士の筆者が業績連動報酬制度の会計について書いてくださっています。

アブストラクトに、「わが国において、株式報酬に関しては、税制は整備され、会社法上の整理が進む一方、会計上の取扱いが明示されているものは、ストック・オプションと従業員向け株式交付信託しかない。」と書いてあります。
結論から言ってしまいますと、会計制度の整備が求められているということになりますでしょうか。しかし、よく考えてみると、会計制度が後追いになってしまうのは実務先行の世の中においては宿命なのかもしれません。

 

本論文の内容は、業績連動報酬の会計処理についての説明がメインとなっています。付与する財産別に細かく説明があります。会計上の取扱いが明示されていなくても、関連している取扱い方法を参考にして実務的に対処するといったことも行われているようで、まさに「実務」だなと感じました。参考文献には、『詳細解説IFRS実務適用ガイドブック』、『株式報酬の会計実務』といった著書が並んでいます。

経営者の視点で、どの業績連動報酬を選択するのかというのは、会計処理だけでなく、様々な要素から決めないといけませんので、やはり独力でやっていくのは難易度が高いことがわかります。

 

 

3本目は、論文「利用者から見た2019年有価証券報告書「役員報酬開示」の改革(三井千絵氏)」です。

こちらの論文は、投資家やアナリストからの視点で「報酬」に関する企業開示について総合的に評価していくものになります。題名にある通り、2019年の有価証券報告書における「役員報酬開示」について書いてありますので、有報の理解、現状認識という面でかなり有益な情報になっています。

 

私はちらっと知っていましたが、2019年3月期の有価証券報告書から内容の充実化が図られていて、「役員報酬開示」についても対象となっていました。投資家は新たな「役員報酬開示」の文言に対してどう思ったのでしょうか?アンケート調査などを通じて評価が行われます。

調査結果としては、ガバナンス、経営戦略、業績へのプラス、株主目線といった目的で「役員報酬開示」を見ているとあり、課題はあるものの高い評価を得ていると出ています。企業との対話にも活かせるという意見も出ていました。

 

課題として、「全役員の個別報酬の開示を望む」というのが一番多かったとありました。開示によって理解が深まる一方で、開示される側の弊害もあるため、この課題については考えさせられます。

私は、それよりもインセンティブを与えることで企業価値にどういったインパクトが生じるのかを論理的に説明してくれた方が良いのではないかと思います。報酬制度として正しく設計されているのか、そういったところのチェックのほうが大事なのではと思う次第です。

 

 

最後に!

今月号は、「経営者報酬を考える」という特集でした。3本の論文の他に座談会の文字起こし「機関投資家から見た経営者報酬(銭谷美幸氏、三橋和之氏、神山直樹氏)」もありました。そちらも投資家サイドの意見として興味深いものでした。

 

「証券アナリストジャーナル」を毎月読んでいて、読み終えてスカッとする時としない時があるのですが、今回はスカッとしませんでした。「経営者報酬」というのは、完全解が無くて、経営者、従業員、株主、取引先といったステークホルダーが出来るかぎり満足できる解を目指すようなものであり、米国の企業も、欧州の企業も、日本の企業も、しっくりくる解を模索し続けているのではないかと思います。

そして、突っ込んで言ってしまうと、しっくりくる解なんてあるのか?という気持ちもあります。経営を一生懸命するための報酬制度の設計・・・とにかく難しい問題です。

 

今月もお読みいただきまして、ありがとうございました!