証券アナリストジャーナル4月号やすべえです。証券アナリストジャーナル、今月の特集は、「人口減少・高齢化社会と金融市場」です。今回から、ページの下の方に動画版を付けていますので、あわせてご覧いただけましたらと思います。

 

さて、特集のタイトルからして、大注目なのですが、この2020年4月号、特集以外にも加藤康之氏のESG投資関連の寄稿もあり、盛りだくさんです。

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ということで、1本目の論文から読み進めていきます。

 

1本目は、論文「少子高齢社会の人生設計と金融サービスの在り方再考(北村行伸氏)」です。

著者は一橋大学の先生です。様々な研究・分析を行われてきた中で、「少子高齢社会の人生設計と金融サービスの在り方を考える上で、重要だが見逃されがちな点」を3つ、本論文の導入として指摘します。

その3つとは、「高齢化自体が資産収益率や資産価格に影響を与える可能性」という、高齢化というものが一つのファクターでなく、ゲームチェンジャー的要素になっているということ。そして「資産移転の多くが、遺産相続・贈与などの形でマーケットを通さないケースが多いということ」という、資産の有効活用に大きな影響が及んでいるということ。最後に、「個人情報をある程度、政府や民間企業に公開し、利用してもらうことが必要」という、プラットフォーマーの情報収集活動への問題提起になる点です。

この3点は、論点がぶれているというか、バラバラに感じられるかもしれません。しかし、広範な考察の中で、拾われてきたものだと思います。つまるところ、少子高齢社会の人生設計と金融サービスの在り方を考える上では、一筋縄ではいかない複雑系の問題を解いていく必要があるといったことなのではないでしょうか。複雑系ゆえに、これからの話はあちらこちらに飛びますが、その一つずつが興味深いものです。追って見ていきます。

 

この導入の後に、結婚ですとか、住宅を買うですとか、一般的なライフイベントについての説明がなされます。ひととおりの説明が終わった後、「ところで、人生最大の不確実性は、自分の寿命が分からないということではないだろうか」という意見がグググっと、若干唐突な感じですが、読者に突き付けられます。

寿命が分からないことで、「資産分配が最適に行えない」「土地家屋」の贈与・相続のタイミングが難しいという問題が出てきます。また、当事者以外の目線でも、「介護に必要な期間の想定」が出来ない「住宅購入のタイミング」をどうするかが難しいという問題があります。

これらは、国の社会保障などで、「保育」、「教育」、「医療」、「介護」、「年金」、「生活保護」といった項目で手当てはされているものの、不確実性による弊害がクリアにならないという状況があるわけです。

 

議論は、ライフイベントについての分析に移っていきます。経済学的な分析として、「学校、就職、結婚、転職などの選択はマッチング問題として表現できる」とし、その理由として、「毎日繰り返しマッチングを行っていたら、費用がかかる」から、「一定期間あるいは無制限に契約する」のだとしています。

これは、なるほどと頷くのみですが、若者の雇用の状況について、「雇用の拡大が見込めない状況では、企業から退職者が出ない限り、新規採用ができない」という問題を取り上げます。つまり、マッチングというよりも構造的要因で若者の雇用が厳しくなっているということです。

ライフベントの分析においては、「人生設計のパターンが多様化」してきていることも現象として挙げています。人生設計の軌道修正が行われていること自体は望ましいこととしながら、「人生の軌道修正が自分の意志とは別に負の選択として選ばれているとすれば問題である」と、今の日本に対する嘆きのような意見をぶつけてきます。

この分析を深めるために、各省庁で縦割りで持っているデータを横断的に使うべきという意見も出てきます。まったくもってそうだなと思います。

 

1本目の論文で早くも1ヶ月分くらいの文字数を書いてしまっていますが、この後には、「マクロ経済学から見た家計の実態」、「金融サービスの在り方」といった議論がさらに続いていきます。

私は不勉強者で、北村先生のことを知らなかったのですが、今回の論文を読んで、先生のことをもっと知りたくなりました。平成30年の3月まで京都大学の客員教授をされていたとありました。私が大学院に入学したのが、平成30年の10月でしたので、少しの差でお会いできなかったことがわかり、残念に思いました。

 

 

2本目は、論文「人口減少社会・高齢化と地域間の資金フロー(福田慎一氏)」です。

「人口ボーナス」というのは、労働力増加率が人口増加率を上回る状況のことを言いますが、今の日本はその逆の状況で「人口オーナス」と言います。そんな「人口オーナス」時代の日本において、地域間の金融マクロ環境を分析していくというのが本論文です。

 

都道府県別のデータを用いて、人口動態が貯蓄率[(生産ー支出)÷生産]、貯蓄投資バランス[貯蓄率ー投資率]、預貸率[貸出金÷全預金]、預貸率の変化[Δ預貸率]にどう影響が出ているかをそれぞれ回帰分析していきます。

貯蓄率の分析では、「退職世代の人口の増加はそれを支えるための現役世代の負担が増えることを意味するので、老年齢層の人口が増えれば、それだけ現役世代の消費が減り、貯蓄性向が上昇する傾向が生まれ」ていたが、少子高齢化が進行してくると「現役世代の貯蓄性向が上昇する効果よりも、貯蓄を取り崩す退職世代の数が増加する効果が大きく」なって、貯蓄性向はオフセットされて、ハッキリとした方向性が無くなっているとなっています。貯蓄投資バランスでも同じような結果です。

預貸率というストックベース。預貸率の変化というフローベースで見て、「少子高齢化が進行する地方では、域内の預金の減少が顕著となり、資金余剰から資金不足の時代へと突入していく」という分析が出てきます。

 

 

3本目は、論文「人口減少・高齢化社会の金融環境と年金その他の金融仲介の在り方(玉木伸介氏)」です。

今月号は読んでいて興味深い論文ばかりです。この論文は、私たちが経済を学ぶときに「資金余剰主体」とか「資金不足主体」と言っている「経済主体」について、「企業・家計・政府」という3主体から、「企業・家計・政府・高齢者」という4主体にして考えてはいかがか?という目からウロコの議論になっています。

 

それぞれ「昭和レジーム」と「令和レジーム」と名付けています。

「昭和レジーム」では、「企業:資金不足主体」、「家計:資金余剰主体」、「政府:昔は財政赤字など無い時代もあったが、資金不足主体」といった関係性でした。企業は設備投資で、政府もインフラの整備などで、資金需要旺盛だったという背景です。

「令和レジーム」では、「企業:資金余剰主体」、「家計:資金余剰主体」、「政府:大幅な資金不足主体」、「高齢者:資金不足主体」といった関係性となります。企業は技術革新などが無い限り設備投資をする必要が無いため無借金経営になっていき、家計は引き続き資金が供給できることが期待され、政府は社会保障歳出の増大という背景があり、加えて、高齢者が資産を手放していくという構造が加わります。

 

終盤には「今後の課題」として、「search-for-yield」に関することと、「高齢者の認知能力の低下」に関することが書かれています。

「search-for-yield」の需給バランスが需要超過であることを認識しておかないといけないです。つまり長期的な運用向けの資産の供給があんまり増えてこない一方で、高齢化などで長期的な運用資産の需要は増えているということです。私は何となくその傾向を掴んでいたのか、偶然かは分かりませんが、長期債やREITといった金融商品を最低限保有することが出来ていたかと思います。

「高齢者の認知能力の低下」に関しては、「老後資産の早めの取り崩し+公的年金の受給開始を遅らせること」で対応するアイディアを著者は提示しています。公的年金は、長生き手当となり得ますから、活用しましょうということです。

 

本論文は、金融リテラシーの応用的な力をつけるのに非常に役立つものでした。データ・事実を集めていって、確からしい答えを探し出し、実際の行動プランに落とし込むというもので、大変勉強になりました!感謝です!

 

 

最後に!

今月号は、「人口減少・高齢化社会と金融市場」という特集でした。

3本の論文の他に「人口と不動産投資(川口有一郎氏)」もありました。日本の高齢化・人口減少の長期化で、住宅価格やビル賃料が下がり続けるのかという問いに明確にノーと主張するなど、ズバッと斬るような議論が展開される論文でした。

 

今月号はすべての論文が大学の先生によるもので、骨太なものが多かったように思います。

しっかりとした事実に基づく議論は、納得感があり、気持ちが良いものです。昨今のコロナウイルスに関するデマや根拠に乏しい記事を目にする今日この頃は特に思います。

ということで、今月もお読みいただきまして、ありがとうございました!

 

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