証券アナリストジャーナル3月号やすべえです。今月も業界紙「証券アナリストジャーナル」を読み進めてまいります!

特集のタイトル「バリュー投資再考」って入力すると「バリュー投資最高」って変換されがちなのですが、最近のバリュー投資は最高とは言えず、どちらかと言えば芳しくない成績が続いています

今回は、バリュー投資はこれからどうなるのか?バリュー投資についてしっかり考えてみようよ!という論文が並んでいます。

 

1本目の論文は「グローバル株式市場におけるバリューファクターパフォーマンスの比較(田村浩道氏、Alex Chen氏)」です。

題名に「バリューファクター」と書いてありますが、バリュー投資というのは「バリュー」の「ファクター」に「投資」するものです。
「バリュー」の「ファクター」以外にも、「ファクター」はありまして、この論文では、「クオリティ」、「ボラティリティ」、「サイズ」、「モメンタム」といった「ファクター」を扱っています。

この論文では、「従来型のバリュー指数」という、バリューファクターが大きくなるようにただ単に組み立てた指数と、「ピュア・バリュー指数」という、バリューファクターが大きくなるようにするのですが、他の「クオリティ」、「ボラティリティ」、「サイズ」、「モメンタム」といった「ファクター」が影響しないようにする手法を使って組み立てた指数を使って、分析を進めていきます。

分析は期間ごとに2つの指数のリターンやボラティリティがどうなるのかというものですが、金融危機(2008年から2009年)前後で「どうしちゃったの???」というくらいパフォーマンスがガタ落ちします
「従来型のバリュー指数」は、金融危機前、米国、欧州先進国、日本の順で6.0%、4.4%、5.3%のリターンがあったのですが、金融危機後は-0.7%、-1.7%、-0.7%というリターンになり、「ピュア・バリュー指数」は、同様に、金融危機前、米国、欧州先進国、日本の順で0.4%、1.5%、2.2%のリターンがあったのですが、金融危機後は-0.1%、-0.1%、-0.3%というリターンになります。

 

他の論文でもいろいろと語られるところなのですが、この「どうしちゃったの???」というパフォーマンス悪化の要因はの一つとして、トレーダーとして思うのは、先回りの売買です。

例えば、バリュー投資が月末にリバランス(銘柄の入れ替え売買)されるルールで行われているとしましょう。
このリバランスは何らかのルールに基づいて行われますので、そのルールを解析出来れば、実際の売買需要が出てくる前にどんな売買をするかが分かることになります。
「リバースエンジニアリング」なんて格好良い言葉で言ったりしますが、そういったルールの解析を行って、月末に行われるリバランスを予見して、月末の数日前から先回りの売買をしてしまうのです。
結果、月末にリバランスをする前にバリュー投資のパフォーマンスが出てしまうことになり、月末でリバランスをした場合のバリュー投資のパフォーマンスは低下してしまうというものです。

この「リバースエンジニアリング」は金融危機後に盛んになっていったように記憶しています。

 

『「バリュー」以外の「ファクター」でどうなっているのか?』『「月末でのリバランス」を「月末の3営業日前のリバランス」でやったと仮定するとどうなっているのか?』など、調査したくなりました。

 

 

2本目の論文は「バリュー投資の再考(工藤秀明氏、片山大輔氏、高柳健太郎氏)」です。

ある企業の業績が向上しているのに株価が上昇していない場合、投資家はその企業の株価が割安だと判断してその企業の株式を買って、株価が上昇します。これを株式市場の価格発見機能と言います。

この論文では、バリュー投資において株価が上昇していない(つまり割安だ)と判断された企業群が、価格発見機能によって株価上昇しているかを調べていきます。マニアックな分析ですね~。

興味深いのは、将来の業績予想値を使うだけではなく、業績の実績値も予想値として使うところです。前者をEP(予想)、後者をEP(完全予見)と分けています。つまり、2000年にバリュー投資をする場合、2001年の業績予想値を使って行うのが普通ですが、2001年の業績実績値を業績予想値として使うということです。予想が完全に当たるベースでモデルを構築し、リターンを計測していくということになります。

その結果としては、例外年は出てくるものの、期間としてはしっかりと超過リターンが出ています。完全予見ベースであれば、ちゃんと儲かるということで、これはこれで当たり前ですが分析結果となります。

 

他には、将来の業績予想値、いわゆるEP(予想)で良いと思われていたグループの中で、業績の実績値も良かったサブグループのパフォーマンスが芳しくないといった結果について、超過リターンが得られない=価格発見機能が機能していないと言及しています。

しかし、これはちょっとミスリーディングかなと思いました
EP(予想)で良いグループに投資する場合、その中での実績の悪いサブグループはネガティブサプライズということでパフォーマンスは-9.8%と当然悪く、実績の良いサブグループのパフォーマンスがトントン(-0.2%)となっています。
一方で、EP(予想)で悪いグループに投資する場合、その中での実績の悪いサブグループはパフォーマンスは-1%とあまり悪くなく、実績の良いサブグループのパフォーマンスは9.1%と良いものとなっています。
つまり、EP(予想)で良いグループに投資家が期待してオーバーインベストになっているに過ぎないのではないでしょうか。

非常に多くの分析が行われていることもあり、私の解釈が細かい一点だけを見ていて、ミスリーディングと思ってしまっていたらすみません。

 

 

3本目の論文は「アルファかベータか(内藤誠氏、内山朋規氏、清水康弘氏、西内翔氏)」です。

「アルファ」というのは企業独自の超過リターンのことで、「ベータ」というのは1番目の論文でも出てきました「ファクター」による超過リターンのこととなります。

バリュー投資の超過リターンを考えるときに、目利きのファンドマネージャーが一生懸命企業について調べて探し出してきた結果として超過リターンがあるという「アルファ」から生まれたものなのか?
いやいや、PBRやPER、PSRといったもので割安なものを定量的にピックアップしていけば超過リターンがあるという「ベータ」から生まれたものなのか?
これを考えていくというものです。

 

世の中のファンドマネージャーは対TOPIXでのパフォーマンスで勝つことを考えますが、昔の投資の世界では、ファンドのベータ(感応度)を計測して、ベータ考慮後に勝っていれば私の生み出したアルファとして胸を張れる感じでした。「解題」にもあるのですが、日本におけるバリュー投資はパフォーマンスが良かったので、ファンドマネージャーはバリュー投資を行って、対TOPIXでのパフォーマンスで勝って胸を張っていたわけです。

時は流れ、1995年あたりに「ラッセル野村スタイルインデックス」というものが公表されました。スタイルインデックスというのは、「ラージ←→スモール」という軸と「バリュー←→グロース」という軸の2軸で今でいうスマートベータみたいな投資が出来るインデックスとなります。例えば「ラージのバリュー」とか「スモールのグロース」といった感じです。

バリュー投資を行っていたファンドマネージャーは、対TOPIXだけでなく、対ラージバリューといった比較もされることとなりました
「あなたが言っていたアルファは、ファクターのベータに過ぎなかったのよ」という評価が行われはじめたのです。
アクティブ資産運用の存在意義を問われかねない、スタイルインデックス資産運用というものが始まり、実際にそれなりの資産規模を持つようになっていきました。

 

本論文では、機械学習アプローチによってバリューのファクターを期間期間で変動させて、分析を行っていきます。
バリューのファクターの定義がPBR固定とかPER固定とか単純なものでは無くて、変動していくというものです。

分析の結果、バリュー投資の超過リターンは変動されるファクターによる資産運用による超過リターンで説明できるということになります。
つまり「アルファ」か「ベータ」の答えは「ベータ」となります。

 

こういった機械学習では、オーバーフィッティングやオーバートレーニングによって、過去の結果に対しての説明力と将来の結果に対しての説明力がかけ離れるケースが出てきそうですが、どうなっているのでしょうか。気になるところですが、こういったテクノロジーを用いてバリュー投資の決定版と言えるものが出来てくるかもしれません。興味深い論文でした。

 

 

4本目の論文は「バリューファクターとの正しい向き合い方(著:Rob Arnott氏、Campbell Harvey氏、Vitali Kalesnik氏、Juhani Linnainmaa氏、訳:田村徳崇氏、安藤航平氏)」です。

著者のRob Arnott氏は2002年から2006年までFinancial Analysts Journalの編集長を務められた方で、重鎮というイメージがありますが、本論文も重厚なもので、バリューファクターを含め、ファクター投資の注意点などが書かれていますファクター投資に絡む人は一度は読んでおいて損のない論文かと思います。

ファクター投資の注意点が列挙されています。

①データマイニングやオーバーフィッティング
②バックテストにおいて、たまたま優れた結果を残している
③ファクターそのものが一度有名になると(中略)リスクプレミアムが消滅してしまう
④取引コスト
⑤他のファクターとの相関を持っている/新しいファクターによるものだと勘違いしてしまう

そして、ファクター投資をつぶさに観察してわかる点として、以下が提示されています。

①ファクターリターンは(中略)バックテスト期間が終了した時点から低下し始める
②ファクター投資は一般的に大きなドローダウンを発生しがちである(歪度がマイナスに大きいという意味です)

 

結論としては、ファクター投資が破綻してしまったか、ただ不運な時期だったのか、両方であると言っています。

悲観的な結論だなぁと思ってしまいました。

私としては、もう少し楽観的に見て行きたいと思っていて、例えば、投資家の行動経済学的観点を逆手に取ったり、上場している期間によって売買パターンが変わってくることを利用したり、何か方法はあるのではないかなと考えたいと感じました。

 

 

最後に

ここ最近、「バリュー」と「グロース」の動きは大きく、テレビなどでも取り上げられています。

今月、「バリュー投資再考」というテーマになったのは、何だか運命的なものを感じます。

YouTube版では、少し構成を変えて、バリュー投資を再考しています。下の埋め込み動画や、このリンクでご覧いただけたらと思います。

今月も、「証券アナリストジャーナルを読んで」を見て頂きまして、ありがとうございました!