証券アナリストジャーナルやすべえです。今月の証券アナリストジャーナルの特集は「地域金融と地域経済」となっています。

2年前に「地方銀行の経営戦略」という特集があって、地方銀行の収益環境が厳しいといった問題を見ていきました。今回の論文からも、地域金融機関の経営環境の厳しさが見えてきたり、いろいろと深い理解を与えてくれました。順に紹介していきたいと思います。

 

1本目の論文は「ポストコロナにおける地域金融機関と地方創生(家森信善氏)」です。

家森信善氏は輝かしい経歴の塊みたいな方で、ホームページを見ていただけたら凄さが分かると思うのですが、さておき、題名の通り、「ポストコロナにおける地域金融機関と地方創生」について書いていらっしゃいます。

最初の章は「コロナ禍で苦しむ企業を支えた地域金融機関」ということで、どんな風に支えたの?ということが説明されています。

地域金融機関は、中小企業向けを中心に、かなり資金供給をやりました。その結果、リーマンショックよりはショックの落ち込みがマシになったと、日銀短観より資金繰りDIの推移のグラフを提示し、説明しています。加えて、返済期限の緩和を積極的に行いました。他にも、金融庁の取りまとめ資料より、資金繰りのアドバイス、他の事業者とのマッチングを通じた販路拡大、雇用調整助成金の申請を支援するため社会保険労務士を支店に配置、といったことを行ったことが紹介され、「地域金融機関、頑張りました!!!!!」ということが分かります。

 

しかし、しかし、しかし・・・。

次の章で「地域銀行の経営環境」について書かれているのですが、「地域金融機関、経営環境厳しい!!!!!」ということが見えてきます。

地方銀行協会のデータより、①地方銀行の貸し出しは増加傾向にある(良いことですね!)、②預貸率=貸出/預金 は8割を切っている(資金不足に問題なし!)、③地方銀行の貸出金利は大幅に低下している(こちらは困った!)、④預金金利はたいして低下してない(こちらも困った!)、と紹介されます。

ここで考えたいのは、「証券アナリストジャーナル2020年7月号(8年目を迎えた異次元緩和の論点整理 – 特集)」にありました、大槻奈那氏の「マイナス金利後の邦銀の利鞘」で指摘されたことです。預貸率と貸出金利には相関があり、預貸率が下がると貸出金利が下がるというものです。つまり、②で資金不足に問題なし、となるものの、預貸率の低下が③でいう貸出金利の低下を引き起こしているということになります。この相関はマイナス金利導入後はもっと深くなっているとのことです。

この要因は日本人の現預金信仰で預金が潤沢にあることと、企業が貯蓄超過主体になっているという経済の構造変化によるものですので、預貸率はどうしようもない=貸出業務はビジネスモデルとして厳しいということになります。

 

どうすれば良いのでしょう・・・。

ビジネスモデルを変換しなければならないことは明白と思います。富士フイルムが写真フイルム事業から、イメージングソリューション事業、ヘルスケア&マテリアルズソリューション事業に変えていったようなドラスティックなビジネスモデルの変換が必要でしょう。

前述のコロナ禍においての企業を支える役割が消えるわけでもないですし、「デジタルカメラの登場」というような「破壊的イノベーション」があったわけでもないですが、前者においては社会的な役割として存続させる新たな仕組みが必要になってくるでしょうし、後者においては地方金融機関として営んできて、これまでに得てきた知見を活かしていくしかないということにいなります。

筆者は、前者において、非上場化や信金への転換を書いています。

後者においては静岡銀行や山口FGの中期経営計画の文章より、「銀行中心から脱却して・・・」、「金融の枠を超え・・・」といったところを引用し、新たなビジネスモデルの模索について書いています。その中では、人材紹介といった分野がアツいようで地方銀行64行のうち47行が参入しているか参入検討をしているそうです。

 

非常に勉強になる論文でした。

 

2本目の論文は「リレーションシップバンキング再考(日下智晴氏)」です。

日下智晴氏の論文です。この方も高名な方で、長年の銀行勤務の後、金融庁に入庁された経歴の持ち主です。

「わが国の金融の原型」と題して、金融の歴史をひも解いていくのですが、非常に興味深く読むことが出来ました。

まずは、戦前の地域金融として、『明治時代には全国各地に銀行が設立された。その多くは事業人が発起人に名を連ね(後略)』とあります。
次に、担保金融の歴史として、『このようにわが国では、戸主(資産保有者)、事業者、土倉業者、古物商からなる経済システムが形成され(後略)』とあります。
そして、庶民金融の歴史として、『無尽』という言葉が出てきます。「無尽」は今の日本でもあって、日本住宅無尽株式会社というところがやっています。
金融はお金を融通すると書きますが、まさに、どのようにお金を融通していけな良いかを考えて、様々な形で発展してきたということがわかりました。

 

後段では、事業者と金融機関の関係について書かれています。

ホンダの藤澤氏と三菱銀行の京橋支店長や常務との1954年におけるエピソード(「隠し事をせず悪い問題も全部銀行に言った」など)が紹介され、この頃は事業者が金融機関との信頼関係を重視していたことが分かります。

その後、運転資金が必要な事業者向けの短期継続融資単コロ(単名手形コロガシ)と言うそうですが、そういった慣行があり、優良顧客に適用される短期プライムレートといった融資形態を通じて、事業者と金融機関の関係が繋がれていたそうです。

バブル期には、『担保さえあれば融資できるという慣習に変わり、その時代は不動産や有価証券などの投機対象でも構わないという風潮が生まれた。』とあり、過剰な融資が競争として行われたことが読み取れます。「事業者と金融機関の信頼関係=担保(但し何でも良し)」といった具合でしょうか。

 

そんな事業者と金融機関の関係性が変わってきたのがバブル崩壊後で、「金融検査マニュアル別表」というものがキーアイテムだったようです。

その「金融検査マニュアル別表」、一昔前にテレビの報道などでよく見ましたが、客観的な財務情報によって「破綻先」、「実質破綻先」、「破綻懸念先」、「要注意先」、「正常先」と仕分けして、その仕分けによって引当金を計上する/しないが決まるというものです。その仕組みが意味するところは、金融機関が自ら事業者を選別することであり、その結果、事業者と金融機関の信頼関係が相互的なものから一方通行になった。つまり、金融機関が自ら事業者から離れていったストーリーと言えるのではないでしょうか。

 

この後、「金融検査マニュアル別表」というものがありつつも、「リレーションシップバンキング」という借り手との信頼関係を構築して取引していくという「いいとこどり」を目指していきますが、我々の知っている通り、「失われた10年、20年」となっていくわけです。

 

終盤には、最近の金融行政は転換され、規制緩和を進め、地域金融の新たな動きをサポートし、包括担保法制を検討するなど、変わってきていると述べていきます。

しかし、明るい光が見えてこないのは何故でしょう?やはり、ビジネスモデルとして厳しいのでしょうか?
これから、金融機関は自ら明るい光を発することが出来るでしょうか?それとも、国などがコストを払って光を照らすこととなるのでしょうか?
様々な方面の尽力が必要となってきそうです。私たちに出来ることは何でしょうか?

 

3本目の論文は「わが国の人口減少問題と地域金融(石橋尚平氏)」です。

人口問題を考えるのに良い論文でした。

最初の図表で、わが国の生産年齢人口比率が1991年の70%から2017年で60%まで急降下し、2049年には52%になるという見通しがグラフで示されます。筆者は「イノベーション」で経済成長を引き起こさないといけないと主張します。ごもっともで、「米倉誠一郎先生の言う通り!」という感じですが、日本において「イノベーション」を引き起こすのはなかなか難しい環境でしょうか。

 

論文はその後、生産性の話から賃金の話に移ります。米国の賃金の推移がどうなっているかを示すために、米国の映画のシーンを採り上げます。1つ目は、1994年の映画「リアリティ・バイツ」においてですが、クビになった主人公が時給5ドルを提示されるというエピソードです。2つ目は、2019年の映画「行き止まりの世界に生まれて」においてですが、無為にスケボーに興じて毎日を過ごしている若者の一人が「今、最低賃金の13ドルで働いている」と仲間に伝えるというエピソードです。

1994年から2019年までの25年間でアメリカの賃金は大きく伸びたのです。

 

日本の賃金も伸ばしていかねばいけないのでしょう。「で、どうするねん!?」と言われると答えに窮してしまいますが、まずは事実やデータの収集、現状把握ということで、、、。

他にも、ダムシティーズという地方中核都市の役割についてなどの話がありました。

 

4本目の論文は「地域金融が地域経済の成長に与える影響(小西大氏、左三川郁子氏)」です。

この論文では、『地域金融が地域経済の成長に貢献してきたか』ということを考えています。

地域金融による資金供給と地域経済には相関関係があります。つまり、資金供給が多い/ちゃんとしている地域の経済は良いということです。

しかし、因果関係、「①資金供給を増やして、地域経済が成長した」のか、「②地域経済が成長したので、資金供給が増えた」のか、という順番の話は分析が難しいところで、明らかにしようと沢山の調査が行われています。

 

私は、①なのではないかと思います。というのも、資金供給が必要な業種は基本的にレバレッジ効果が大きい業種で、生産性が高いので、その結果、地域経済が成長すると考えるからです。もう少し言うと、資金供給を増やすことは地域経済成長の必要条件で、資金供給が必要な業種が運よく発展すれば、地域経済が成長すると考えます。

そんな私の感覚の予想の一方で、筆者の研究では『地域金融機関の貸し出しは必ずしも地域経済の活性化につながらない』と結論付けています。これは、資金供給を増やすことは地域経済成長の必要条件であるだけで十分条件ではないということで、資金供給が必要な業種を何らかの策を講じて発展させる必要があるということなのではないでしょうか。

筆者は事業性評価融資への積極的な取り組みがキーポイントと言っています。

 

最後に

「証券アナリストジャーナル、面白い!」

改めてそう思いました。

もちろん、読むのには相応の時間がかかりますし、私のようにブログにまとめて、さらに動画にまとめて、となるとさらに時間がかかるわけですが、

「面白い!」

こんな面白い雑誌を毎月作ってくれる日本証券アナリスト協会には本当に感謝の念を抱かざるを得ません。ありがとうございます。

そして、このブログを読んでくださる、知的好奇心を持った皆様にも感謝でございます。今月もありがとうございました。