やすべえです。証券アナリストジャーナル、今月の特集は、「8年目を迎えた異次元緩和の論点整理」です。本年4月からですが、ページの下の方に動画版を付けていますので、あわせてご覧いただけましたらと思います。

 

今月のジャーナル、豪華な執筆陣です!

日銀審議委員を長年務めていらっしゃったリフレ派の原田さん、モーサテなどマスコミにも登場し持論をしっかりと展開する東短リサーチ加藤さん、マネックス証券チーフアナリストとしてご活躍の大槻さん、ニッセイ基礎研究所の井出さん、ジャーナルではお馴染みの早稲田大学竹原先生といった顔ぶれです。

ざっくりどんな論文かを説明しますと、異次元緩和を認めるスタンスの原田さん、副作用の大きさを主張する加藤さん、日欧のデータから冷静な判断を導こうとする大槻さん、ETF買入れという政策の影響の分析に挑戦する井出さん、竹原さんということになります。

ここ数ヶ月、証券アナリストジャーナル、すごい論文が並んでいます。私は一度でもいいのでジャーナルに論文を載せてもらいたい!と思って、京都大学大学院に在籍している時に論文を書きました。その論文、自分では精一杯頑張った論文でしたが、残念ながら投稿しようと思うまで至らないレベルでした。しかしながら、いつの日かジャーナルに載るというのは、夢として取ってあります!

 

ということで、1本目の論文から読み進めていきます。

 

 

1本目は、論文「QQE 7年間の総括(原田泰氏)」です。

原田泰(はらだゆたか)さんは、2015年3月から2020年3月まで日本銀行政策委員会審議委員をされていた方です。岩田規久男さんと共にリフレ派として知られていました。本論文では、その路線をしっかりと主張するような内容となっています。

 

「13年4月から始まった大胆な金融緩和政策(QQE)は、明らかに経済を改善させた。」と書き、その具体的な内容として、「雇用の継続的な改善」、「企業収益も高い伸び」、「所得分配も改善」、「自殺者も減少」、「財務状況も改善」を挙げています。

この類の議論では、「QQEやってなくても、改善したものは改善しただろうし、悪化したものは悪化していたんじゃない?」という話になりがちなんですが、私は、「お金を使えば一時的に何もしない場合に比べて改善するけど、債務は増えるよね・・・」という結論を持っています。

 

今回の具体的な内容で言えば、
「雇用の継続的な改善」を成し遂げるためには、一人雇用したら給料の半分を補助しますというような政策をやれば良いし、
「企業収益も高い伸び」を成し遂げるためには、企業にどんな形でも良いから補助金などを差し上げてしまえば良いし、
「所得分配も改善」を成し遂げるためには、低所得の方に何らかの形で給付して低所得ではないようにすれば良いし、
(これは、相対的貧困率の算出方法から考えて、中位数の所得を下げるというテクニカルな施策もあったりしますが・・・)
「自殺者も減少」を成し遂げるためにには、徹底的に失業率対策を行えば良い、
ということになります。

これらがどう成し遂げられるかを考えると、「QQEはじまり」ではなく、「政府の財政支出はじまり」なんだと思います。QQEがどこまで政府の財政支出をサポート出来るのかというところが肝なのではないでしょうか。政府財政支出のサポートとして、国債の円滑な消化、国債の金利負担を下げるといったことが挙げられますが、それらにおいてQQEの効果は絶大だと私は考えます。一方、それはインフレの発生と背中合わせの政策だったりするわけですが・・・。

 

「財務状況も改善」を成し遂げるためには』という問いが解決していませんね。。。
普通に考えると、「収入を増やして、支出を減らす、余剰資金を運用する」というのがセオリーなので、「収入を増やす=税収を増やす」、「支出を減らす=補助金とかやめる」ということになるんですが、それをすると、「雇用の継続的な改善」、「企業収益も高い伸び」、「所得分配も改善」、「自殺者も減少」、「財務状況も改善」が出来なくなってしまうわけです。

賛否あると思いますが、私は、原田さんの主張に同意します。QQEによって、「雇用の継続的な改善」、「企業収益も高い伸び」、「所得分配も改善」、「自殺者も減少」を成し遂げながら、「財務状況も改善」も成し遂げることが出来たんじゃないかと思います。

 

もちろん、インフレの発生と背中合わせなのでしょうが、こんなウルトラCを可能にしているのは、日本国への信用が強いからなのだと思います。国民の現預金信仰、期待インフレ率の低さは、経済にネガティブに影響するとよく言われますが、QQE実行時のインフレの発生を防ぐという観点ではポジティブな影響を持っているのではないでしょうか。

 

 

2本目は、論文「長期化するQQEの問題点と課題(加藤出氏)」です。

マスコミにもよく登場する加藤出氏の論文です。1本目の論文とは主張が大きく異なり、QQEの問題点を書いています。

日銀のQQEにまつわる政策が、短期勝負から長期勝負に変わって、金利から量に変わって、量から金利に変わって、混乱が生じていて、先が見えない・・・。

このような現状をどう打破すべきなのかという問題意識が根底にあります。既に、国債相場の価格発見機能は失われてしまった・・・。金融機関の収益悪化は深刻化している・・・。ゾンビ企業の生き残りで経済の新陳代謝は進まない・・・。政府債務は増え続けている・・・。

 

QQEは、国債の金利を徹底的に下げ、国債の買い入れを徹底的に行うという政策ですから、上記の問題点が出てくるのは半ばしょうがないと私は考えています。

QQEを止めるという選択肢は無いとしても、問題点に対する対症療法は行うべきではないでしょうか。ちょっとやそっと考えただけでは思いつかないんですけど・・・。(汗)

欧州は金融機関の収益をサポートするような政策を一部行っていると思いますが、欧州に関しては3本目の論文でも触れていて、興味深いです。

 

 

3本目は、論文「マイナス金利後の邦銀の利鞘(大槻奈那氏)」です。

大槻さん、やっぱりすごいなぁと再確認した論文でした。中空麻奈さんも穏やかそうに見えてバッサリ斬るタイプですが、この論文もデータ・事実からバッサリ斬っています。

本論文でやっていることは、預貸利鞘、貸出金利と、オーバーナイト金利、長短金利差、預貸率、資本比率との相関関係を期間ごとに調査するというもので、邦銀バージョンとユーロ圏の銀行バージョンで分析しています。

結論は、「邦銀の預貸利鞘や貸出利回りは、マイナス金利導入後、市場金利との関係性が薄れている」「預貸利鞘の低下は金融政策のせいにはしにくい」「預貸利鞘や貸出金利の預貸率との相関は健在」というもので、預貸率の関係性はマイナス金利導入後はもっと深くなっているようです。

預貸率、つまり日本人の現預金信仰によって、預金が過剰ということ、そして企業が借金を返済したり新規で借りなくなってきているので、貸出が減少しているということが、邦銀の収益悪化を深刻化させているんですね。前者はともかく、後者は経済の構造変化によるものですから、どうしようもない気がします。

こんな状況の中で銀行はどうしていけば良いんだ!?という問いに対して大槻さんは、「テクノロジーを使った預貸バランスの改善」「マイナス金利を顧客に転嫁すること」「戦略のプライオリティ付け」ということを提案されています。さらに、結びには「変化する者だけが生き残れる」と書いてありますが、まさにそうだなぁと大きくうなずきながら論文を読み終えました。

 

 

4本目は、論文「日銀によるETF買入れがリスクプレミアムに与えた影響(井出真吾氏/竹原均氏)」です。

本論文では、ETF買入れの概要や、ETF買入れがリスクプレミアムに与えた影響の分析結果が載っています。

私が株式トレーダーをやっていましたのは2017年まででしたが、2017年、当時でも「日銀砲」と言われるETF買入れは需給を大きく変化させるものでした。大口の買付け情報が50億以上だと翌日にしか公表されないとかテクニカルなことがあったりもしながら、データをいろいろなソースで集めていたことを思い出します。

 

さて、ETF買入れがリスクプレミアムに与えた影響の分析ですが、「リスクプレミアム≒自己資本コスト」として、一定成長配当割引モデルに期待倒産確率を加えたような式を作って、「倒産確率を考慮した自己資本コスト」というものを考えています。期待倒産確率はボラティリティが変数となっています。

この仕組みにおいては、株価が下がれば、「自己資本コスト」も「倒産確率を考慮した自己資本コスト」も上がります。
また、ボラティリティが大きくなれば、「倒産確率を考慮した自己資本コスト」は下がるということになります。
よって、リーマンショック時とか、コロナショックの時には、株価が下がって、ボラティリティが大きくなっているので、株価の影響として、「自己資本コスト」と「倒産確率を考慮した自己資本コスト」が上がって、ボラティリティの影響として、「倒産確率を考慮した自己資本コスト」が下がるということになります。

考えてみると、ETF買入れがボラティリティを下げる効果があるのか、という議論に帰着する気がしますが、ETF買入れが継続的に行われているものなので、〇〇ショックにおいて効果があったなどとは言えない、というのが私の正直な感想です・・・。

 

最後に!

今月号は、「8年目を迎えた異次元緩和の論点整理」という特集でした。私は、低気圧で頭の回転が下がりがちなので、この梅雨時に論文を読むのはちょっときつかったのですが、頑張って4つの論文を読み進めていきますと、もやもやっと不安に思っていた異次元緩和の行く末が少し整理された感じがしました。読んで良かった!!

ということで、今月も本記事をお読みいただきまして、ありがとうございました!動画では1番目と3番目の動画を紹介しています。

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