やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『アナリストが知るべきDX』という特集です。

デジタルトランスフォーメーションに関する知識や知恵を得ていくには相当良い、論文4本の特集になっています。

出来るだけ、論文を読んだくらいの知識や知恵を本ブログ読者に得ていただけるよう頑張ります!

 

1本目の論文は「日本のDXの可能性と課題 (内平直志氏)」です。

まず押さえておきたいのが、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの違いです。本論文では以下のように紹介しています。

デジタイゼーション → 単なる情報の電子化

デジタライゼーション → デジタル技術による新しいビジネスの創出

デジタルトランスフォーメーション → 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

4本目の論文の広木さんは以下のように紹介しています。

デジタイゼーション → 既存の紙のプロセスを自動化するなど、物質的な情報をデジタル形式に変換すること

デジタライゼーション → 組織のビジネスモデル全体を一新し、クライアントやパートナーに対してサービスを提供するより良い方法を構築すること

デジタルトランスフォーメーション → (内平さんと同様)

 

本論は「DXが生み出す価値」と続きます。その中で、既存の課題をデジタル技術で解決するDXとして「守りのDX」、今までになかった新しい価値を生み出すようなDXとして「攻めのDX」がある事を紹介しています。

 

その後にシュンペーターのイノベーションの5つのパターンについて書いてあるのですが、やはりDXという文脈で外せないのはコレだなと思った次第です。
おさらいしますと、①新しい財貨(製品・サービス)、②新しい生産方法、③新しい販路、④新しい供給源、⑤新しい組織、という5つのパターンのどれか、もしくは複数のパターンの組み合わせでイノベーションが生まれるというものです。

デジタル技術の進展で上記の①~⑤が組み合わせやすくなり、組み合わせ型のイノベーションが急速に進んでいます。
製造業における①x②ですとか、小売業における③x⑤ですとか、すぐに思いつくところです。

 

次いで、「日本におけるDXの課題」として、DX推進の困難さの要因分解がなされます。様々な困難さが例示されますが、人材不足と成功事例研究が進んでいないことによる課題解決能力の欠如が大きいと感じました。

特に、成功事例研究は大事なところだと思います。これが無いと、誰かの真似をするにしても、真似する成功事例研究が無い/少ないので、真似できず、結果としてDX導入曲線の傾きが非常に小さい状態になっていると考えられます。
(経営のディシジョンをする人が単にDX導入をやろうと思っていないからというのもあります。泣)

そうこうしているうちに、どんどん他国に追い抜かされています。残念な話です。

 

2本目の論文は「事業会社におけるDXの活用例(土谷良氏)」です。

「真似する成功事例研究が無い/少ない」と先ほど書きましたが、この論文では好事例を探し出して、紹介してくれています。DXを進めたい事業会社の人はぜひ読むべき論文です。

事例としては、トヨタ自動車の「KINTO」、「Woven Cityの開発」、「Joby Aviationへの出資」、ブリヂストンの「T&DPaaS(Tire & Diversified Products as as Service)」、例として鉱山用車両向けのソリューションビジネス、CDXOの配置、ミスミグループ本社のECサイト「VONA」、そこから拡張して新ビジネスとなった「meviy」、ヤマトホールディングスの「Yamato Digital Transformation Project」、CVCともいえる「KURONEKO Innovation Fund」、「Yamato Digital Academy」、丸井グループの「自社店舗内に売らない店をテナントとして入居させること」、川崎重工業の「hinotori」、コマツの「KOMTRAX」、「スマートコンストラクション」、クボタの「KSAS(Kubota Smart Agri System)」などが出ています。

DXを推進したいと思っている全ての事業会社に送っても良い論文と思いました。著者のみずほ証券の土谷良さん、最高にGJです!!

 

3本目の論文は「海外でのDXの進展―DX・第4次産業革命の本質と日本の閉塞・陥穽、未来萌芽―(藤野直明氏)」です。

日本ではなく、海外のDX進展も見ておいた方が良いですよね!
この論文では、事例の紹介に加えて、フレームワーク的なものも紹介してくれています。

まず、事例として、GAFAのモデルについて紹介があり、個別企業として香港の利豊(Li & Fung)社の「流通産業のグローバルな調達支援サービス」、PSAインターナショナルの「コンテナターミナルの運用ソフト」、エアバスの「SKYWISE」というエアライン・サプライヤー間でのデータ連携が出ていました。

フレームワークとしてはMITのピーター・ウェイル教授の研究を基に整理した「デジタルビジネスモデルフレームワーク」、パラダイムシフトが起きる前と後での経済や事業モデルや産業構造といったビジネスの断面断面の変化の一覧といったものがありました。

NRIの藤野直明主席研究員の論文ですが、これが安価で読めるのは日本にとって大変有益と思います。こちらもGJです!!

 

4本目の論文は「DXと企業価値―無形資産で測るDXの進展度―(広木隆氏)」です。

この論文は無形資産を積極的に計測しようとする挑戦的な研究です。

デジタル化の指標として、「ソフトウェア」、「ソフトウェア以外の無形固定資産(のれんなどが含まれます)」、「簿外の無形資産(組織資本、人的資本、研究開発資本といったものです)」を挙げ、回帰分析を行っていきます。

結論としては、研究開発資本を投下している企業が最もDXが進んでいるとなっています。
研究開発資本をたくさん投下するためには、やみくもに研究してもしょうがないので、研究開発の方向性がしっかりとしている必要があるでしょう。
また、研究開発費用をねん出するため、既存ビジネスでの利益創出力も問われるでしょうから、そのような企業は当然イケてるので株価リターンが良いはずです。
ということで、この結果はある程度予想の付くことなのかもしれませんが、企業がどうあるべきかという方向性(人件費や研究開発費は費用じゃない、資産の積み上げプロセスなんだといった思想)は、はっきり検証されていると感じました。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『アナリストが知るべきDX』という特集でした。いかがだったでしょうか?

最近のジャーナルの特集は会計の話だったり、環境・サステナブルの問題だったりが多かったので、久々に前向きな特集だった気がします。

そして、必ず進んでいかなければいけないDXの道ですので、多くの人に役立つ特集でもあったのではないでしょうか。

ということで、今月号も最後までご覧いただきまして、ありがとうございました!

(動画版はこちらのサイトにアップしますが、もう少々お待ちいただけたらと思います。)