やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『人的資本経営とエンゲージメント』という特集です。

11月の特集「雇用制度、働き方と生産性」12月の特集「ウェルビーイングと資本市場」から、月を跨ぐ大型企画『「人的資本」に関連する特集』の3回目です。

今月のジャーナルは、座談会の文字起こし+論文2本という構成になっています。

さっそく読み進めていきたいと思います。

 

座談会『人的資本経営とエンゲージメント(大堀龍介氏/三瓶裕喜氏/瀬戸まゆ子氏/古布薫氏)』

機関投資家協働対話フォーラム理事の大堀さん、アストナリング・アドバイザー代表の三瓶さん、リコー コーポレート上席執行役員CHROの瀬戸さん、インベスコ・アセット・マネジメント 運用本部日本株式運用部ヘッド・オブ・ESGの古布さんという4人での座談会の文字起こしです。

 

瀬戸さんが中心にお話する、「CHROの役割」についてが非常に興味深かったです。

「CHROは経営チームの一員である」とし、HR的な目線を強く持つものの、人的資本以外の戦略や財務の議論にも加わると言っています。
財務情報と非財務情報をミックスして経営戦略を立てるためには、財務側と非財務側が議論することが間違いなく必要なことと思いますし、両者が監視し合い、高め合うことで、企業はより強くなれると考えました。
終身雇用システムの中でのHRの役割は、パズルのピースをどう配置するかといったことが重視されていたのではないかと推察しますが、
人材流動化が進む中でHRの役割は高度化していて、ピースの価値を高めること、ピースの居心地をよくすることなどが求められているのでしょう。

二つ目の役割として、「サクセッションマネジメント(経営層の後任人材の育成)」を挙げています。経営チームの一員でありながら、自分も含めて十分に機能していない執行役員がいればアクションを行うというものです。
企業の経営陣というのは、歪んだパワーバランスになりがちなものだと思います。
例えばですが、突出した売上や利益をマークしたタレントが「オレは偉くなって当然やろ」という感じでなるケースが多分にあり、「一流プレイヤー」が「三流マネジメント」になり下がり、挙句の果てには企業の舵取り全体がおかしくなることもあり得ます。
CHROは、そのあたりをしっかりとサポートし、時に大ナタを振るうのでしょう。
普通に考えると、「CHRO?なんぼのもんじゃい?」となってしまいそうですが、リコーでは初代CHROが社長さんが兼務していたそうで、「CHROにはパワーがある」という意識が経営チームに浸透しているようです。成功のポイントを垣間見た気がしました。

 

この他にも、「ジョブ型雇用について」ですとか、「企業理念・ビジョン・パーパスの浸透について」ですとか、「ウェルビーイング経営について」ですとか、「ダイバーシティ経営について」ですとか、「グローバル経営と企業理念・ビジョン・パーパスの役割について」ですとか、人的資本経営に関わるトピックがいろいろとあり、座談会メンバーの知見が披露されています。

 

1本目の論文は『サステナビリティ報告の概念フレームワークと人的資本会計(島永和幸氏)』です。

本論文は、「Capitals Coalition」という団体の資料を和訳、解説してくださっています。
この団体はグローバルなフレームワークと言ったら良いでしょうか、目標として、2030年までに企業、金融機関、政府の大多数が意思決定に自然資本、社会資本、人的資本の価値を取り入れ、公平で公正で持続可能な世界を実現することを掲げています

「自然資本」、「社会資本」、「人的資本」、「製造資本」という4つの資本の定義や、「自然、社会、人的資本諸表(非財務諸表のようなもの)」における構成要素として、「影響資産」、「影響負債」、「社会持分」があることなど、説明してくださっています。

 

2本目の論文は『企業の労働の未来─人的資本経営の今後の展望─(鶴光太郎氏)』です。

本論文では、序盤において、人的資本経営が重要になっていることを案内していきます。
企業の付加価値を生む源泉が「物的資産」から「人的資産を含む無形資産」に移ってきているので、
「人への投資」を積極的にやるべきとなるというものです。

「人への投資」と言われたときに、「教育訓練」がすぐに思いつきますが、筆者は「教育訓練」よりも「人的資本の稼働率の向上」が有効であると考えます。
そして、「人的資本の稼働率の向上」のためには、「従業員のウェルビーイング」がキーポイントになると展開します。

 

筆者のグループは、従業員のウェルビーイング向上を目指すにあたり、日経リサーチ「ビジネス・パーソンー1万人調査2021」というものを使って検証をすすめたそうです。
その結論は、在宅勤務の実施、多様で柔軟な働き方、ワークライフバランス、働きがい・モチベーション向上、人材確保・定着などの働き方改革、各種テクノロジーの導入・活用、勤務先の経営ビジョンや経営戦略への共感、自己変革的な職場雰囲気、といったものがウェルビーイングを向上させる可能性があるというもので、多岐にわたっていますが、道筋が示されていると感じました。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『人的資本経営とエンゲージメント』という特集でした。いかがだったでしょうか?
「人的資本」という大きなテーマを3カ月にわたり学びました。
最近の雑誌やニュースを見ていますと、この3カ月という短い間においても、「人的資本」への重要性を語る人が増加している気がしています。
「人的資本」や「人的資本経営」は、きわめてホットなテーマであったと言えるのではないでしょうか?

ということで、今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!