やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『サステナビリティ投資とモニタリング』という特集です。

「サステナビリティ投資」という発展途上の分野であるが故に、様々なムーブメントがありますが、私が一番驚くのは、CFAにおいてESGアナリスト資格講座が既にスタートしていることです。
確立されていない分野で資格制度を作ることにどういった意味が有るのでしょうか?
そして、その資格を持つことは、評価されるに値するのでしょうか?

いや、、、それが「VUCA」の時代ということなのか、、、?
※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

冒頭から、書きなぐってしまいました。冷静に読み進めていきたいと思います。

 

 

 

1本目の論文は『ESG評価情報の意義と課題─行動規範の実践へ─(越智信仁氏)』です。

ESG評価に対する理解が深まる素晴らしい論文でした。感謝いたします!

 

まず、金融庁の考えた「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」より、6つの原則として、
①品質の確保、②人材の育成、③独立性の確保・利益相反の管理、④透明性の確保、⑤守秘義務、⑥企業とのコミュニケーション
が掲げられていることを示します。

この原則と、On goingで起こっている事象とを照らし合わせ、議論を展開していきます。

 

2章で「多様性」が議論されます。
「アクティブファンドとパッシブファンドでESG情報のニーズは変わってくる」ことで分かるように、「様々なステークホルダーに対して、様々なESG情報提供者があってしかるべき」なので、多様性は当然あります。その中で、「ミニマムな共通情報開示の基準があるべきか?」といったことが考えられています。

3章で「ばらつき」が議論されます。
様々なESG情報提供者の評価はバラバラで、相互に無相関だったり低い相関であるようです。企業において、理不尽に思えることもありそうですが、「透明性の確保」で解決していくのではないかという論調です。GPIFがFTSE社とMSCI社のESG評価の相関をモニタリングしていることにも触れています。

「ばらつき」の原因は3種類に分類されていて、それぞれ、「測定範囲」、「測定方法」、「重み付け」となります。「測定方法」による「ばらつき」については、企業にとって「どのESG情報提供者の測定方法に寄り添うべきか?」といった本末転倒の話になってしまうわけで、問題視しています。
この後、Berg et al.[2022](Aggregate Confusion: The Divergence of ESG Ratings)の主張が続くのですが、非常に大事な視点だなと感じました。長文なので割愛せざるを得ないのが残念です!

4章で「AIの活用」が議論されます。
開示するデータの問題としては、定量的な数値であれば分析しやすいですが、定性的で質と量がまちまちになっているので、分析の困難さがあります。
また、そのデータを分析するアナリストの問題としては、幅広いテーマをすべて深くカバーするところが難しいというところがあります。
その2点をAIは解決してくれるのではないかという話になります。
一方で、AIの弱点となり得る、ESG/SDGsウォッシュをどう判断していくかなどの問題点はあるでしょう。
しかし、テクノロジーの活用には大きな可能性があると感じました。

 

結びでは、信用格付が数社の寡占状態になったことが、ESG評価情報や評価機関の在り方について、重要な示唆となると書いてあります。
これから長い年月がかかるかもしれませんが、大多数の投資家が信頼するESG評価情報、評価機関として寡占状態になっていくことは間違いないでしょう。

 

2本目の論文は『ESG投資に対するウォッシング批判とその対応(足達英一郎氏)』です。

日本では、2020年に「ESG投資信託」の新規設定ブームがありました。40本近い本数、5000億を超える当初設定額とどこかのニュースソースで見ましたが、こういったブームを作り上げる業界の能力に感嘆した思い出があります。(笑)

肝心の中身はどうだったでしょうか?上位10銘柄を見て、「あれ?どこら辺がESGなん?」と思わざるを得ない投信もあったのではないでしょうか?
本論文は、そのあたりも含め、「真っ当なESG投資」に迫っていきます。

 

「真っ当ではないESG投資」に対してですが、ESG絡みでもそうでなくても、虚偽的な説明など、嘘をついている場合は、比較的容易に罰することが可能でしょう。
しかし、どこまでESG色が強いのかといった半ばアナログな判断基準については、罰するといった措置が難しいもので、世界の代表的な20のESGファンドに対する調査で化石燃料企業に投資をしている例が散見されていますが、これが良いのか悪いのかという明確な線引きは出来ていないようです。一見、完璧にESGだと言えそうなことでも、実はそうではなかったという事例もあり、こちらも線引きの難しさを浮き彫りにしています。

「欧州委員会によるタクソノミー」が最も明確な線引きのように思うところですが、「その線引きで良いのか?」という疑問点は残ります。

日本は「様子見~追随というスタンス」を取っていると感じます。
「遅い、フロントランナーになるべき」といった批判もある一方、「急ぎすぎて、おかしな方向で規制などがされて困った事態になる」可能性もあるわけで、私の感想としては、丁度良い距離感で出来ているのではないかと思うところです。

 

3本目の論文は『進化した責任投資報告書が提起する投資先企業の課題─ESG投資教育の重要性─(小方信幸氏)』です。

アブストラクトからの引用を太字の鍵括弧で書いていますが、
「資産運用会社のスチュワードシップ活動の高度化は各社の責任投資報告書から読み取れる」わけだが、(素晴らしい。)
「一方、投資先企業の経営者と社員の多くは、資産運用会社によるスチュワードシップ活動を十分理解していない」ようなので、(あかん。)
というような論調の『上から目線』バリバリの提言を主張する論文です。

著者は、日本企業に対して、個人の尊重、人権の尊重が大事だと主張していますが、著者による日本企業への尊重はほぼ感じられません。
日本企業は、著者の言うような『上から目線』にいちいち呼応することなく、自社なりのESG経営(地球を守るというサステナビリティを考えた長期的繁栄を育む経営)を考えて粛々と実行していけば良いでしょう。
『上から目線』の投資家は、主張に呼応しない企業に対して投資をする必要は無いし、企業はそんな『上から目線』資本は要らないのではないでしょうか。

マーケットに上場している企業は、企業成長を加速させることが可能になったり、企業の知名度や信用力の向上が期待できたり、様々なメリットを享受できるわけですが、一方の投資家も上場してくださっている企業のおかげで投資が可能になるわけです。最近では投資家サイドによる面倒な要請で非上場化したり、未上場を貫く企業も増えてきました。

歩み寄りが必要なのではないでしょうか?

 

4本目の論文は『ESG投資の隆盛に伴う資本市場の課題─ESG情報開示の進展とESG評価機関の不一致─(松田千恵子氏/浅野敬志氏)』です。

本論文は、ESG評価機関について、各評価機関の評価手法がまとめてあり、情報面で非常に参考になりました。

 

東京都立大学において、国内外有力投資家等をピックアップして行った予備的サーベイによると、「最も頻繁に用いている(大きく依拠)」との回答が多かったのは「Sustainalytics」、「MSCI」の順で、「FTSE」は少数派だったそうです。「Sustainalytics」はあまり聞き覚えの無い名前かと思いますが、Morningstar傘下の企業です。

後段で、今挙げた3社、「MSCI」、「FTSE」、「Sustainalytics」について、「E」、「S」、「G」の評価項目にどのようなものがあるのかという表があります。非常に分かりやすく、助かります。
「MSCI」はE4個、S4個、G2個の計10個、「FTSE」はE5個、S5個、G4個の計14個、「Sustainalytics」はESG関係なく21個となっています。

評価項目以外にも、評価の視点や使用する情報、項目ごとのウェイトなどが違うことも書いてあり、1本目の論文の3章で言っていた「ばらつき」は存在して当たり前だし、それも大きな「ばらつき」が存在すると考えるのも容易でしょう。

これらを統一するというは無理な話だと思いますが、乱立の状態を続けることは、評価機関、企業、投資家、全てのサイドにとって、不利益が大きいでしょう。
ここで挙げた3社、または2社程度がスタンダードを得ていくのではないかと感じました。

 

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『サステナビリティ投資とモニタリング』という特集でした。いかがだったでしょうか?

「ESGは善か悪か?」という根本的な問題を考えてみると、各論はさておき、「総合的にはESGは善である」と考えます。
となると、悪の部分の排除と善の部分のフォーカスがベターな策となるわけですが、やすべえとしては、
①「ESG」の「悪」の部分をある程度排除することになる「ESG評価機関の透明性の確保」
②「ESG」の本質的な「善」の部分である「企業が考えるESG経営の深化」
これらが最も進めるべき策なのではないかと感じました。
投資家はこれらの策によって、世界の長期的な繫栄による恩恵を受ける可能性が高まるのではないでしょうか。

ということで、今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!