やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『円相場と日本経済』という特集です。
解題の最初の最初に、「ブレトンウッズ体制崩壊以降、日本は円高トレンドの歴史を経験してきた。」と書いてあったのですが、円相場は歴史ですね。
今回の4本の論文は、様々な切り口で書かれていますが、総じて、円相場がどう動いたか、日本経済がどう変遷していったか、そして、円相場と日本経済の関係がどういったものであったか、といったことの理解が深まっていく内容になっていました。
戦後、高度経済成長を通じて、世界の中で大きなプレゼンスを持つに至った、ニッポン。
コロナ禍、ロシアとウクライナの争いが勃発する中で、わが国はどういった立ち位置にいるのか?
思索を巡らしながら、1本目の論文から読み進めてまいります!
1本目の論文は『円相場と経済の構造変化(小川英治氏)』です。
本論文は、1本目の論文らしく、基本的なデータからおさらいしてくれます。ありがたし!
章立ては、「はじめに」、「円相場の推移」、「日本の国際収支の変化」、「日本の産業構造の変化」、「為替相場変化が企業価値に及ぼす影響」、「おわりに」となっています。
「円相場の推移」では、「2国間為替相場」と「実効為替相場」の違いの説明からはじまり、両者の長期間のグラフが提示され、実質実効為替相場が1995年から円安トレンドになっていること、名目実効為替相場は2012年から円安トレンドになっていることが分かります。
次に、「日本の国際収支の変化」として、こちらもグラフが提示されます。貿易収支メインの経常収支から、第一次所得収支の比率が上昇し、貿易収支の存在感が薄くなっていく歴史が理解できます。しっかり理解して、貿易収支と経常収支をごっちゃにしないようにしたいものです。
この点は3本目の論文でも言及されています。
3つ目、「日本の産業構造の変化」では、「貿易財部門」と「非貿易財部門」に分けて考えていて、面白いです。
円高局面で輸出競争力が低下し、貿易財の生産が縮小されるという想像は出来ますが、名目と実質でどう考え方が変わるのか、財の生産におけるタイムラグなど、考えさせられるところがあり、シンプルなデータとグラフながら、深い思考を伴うことの出来るレポートでした。感謝!
2本目の論文は『日本企業の為替エクスポージャー─国際生産ネットワーク下での為替変動への耐性─(佐藤清隆氏)』です。
「日本企業は円高への抵抗力を高めた・・・」
「日本企業は円安でも恩恵が少なくなっている・・・」
などとよく言われますが、
為替変動への体制は全体で見るんじゃなくて、産業ごとに見ていこうよ!というのが本論文のメインテーマになります。
つぶさに読み込めなかったので、分析のプロセスや結果の確からしさは少し分からないところがあるのですが、機械産業では、円建て輸出比率の高さによって為替変動に左右されない輸出構造になっていること、電気機器産業では、輸出額と輸入額がほぼバランスしていることで為替変動に左右されない産業構造になっていること、輸送用機器産業では、一般的な想像の通りに為替変動を受けやすい構造になっていることが結論として書かれています。
3本目の論文は『円の為替変動と日本の国際投資ポジション(伊藤宏之氏)』です。
貿易収支、所得移転を含めた経常収支というフローの面、対外純資産残高というストックの面、両面から、自国通貨の為替変動による影響を議論していく論文です。
①日本や米国以外の先進国、②米国、③発展途上国、という3つの分け方が明快でした。
①日本や米国以外の先進国では、対外での外貨建てのロングポジション(ストック)を持っているので、自国通貨の価値が下がったとしても、対外での外貨建てのロングポジションの価値が増し、そのポジティブな影響を享受できること、
②米国では、対外での自国通貨建てのショートポジションを持っていることになり、自国通貨が下がったとしても、対外での自国通貨建てのショートポジションには影響が無く、対外での他国通貨建ての資産の自国通貨での価値が上がるポジティブな効果があること、
③発展途上国は、多額の対外債務を抱え、その約6割がドル建てとなることから、FRBの金利引き上げがドル高、自国通貨安を引き起こし、対外債務が増大し、結果、自国通貨における債務負担が増大するというネガティブな効果があること、といった分析になります。
4本目の論文は『円相場と投資家行動─不確実性、資源高、政府債務拡大と株価との関係─(増島雄樹氏)』です。
タイトルの通り、「円相場と投資家行動」を議論していきます。
具体的なイメージとしては、「有事の円買いだ!」、「内外の金融政策の違いで円売りだ!」といった現象を深掘りしていくといった内容になります。
正直な感想としては、いろいろなファクターを考慮して、為替の動く方向を考える(予測する)ことは楽しい!と思いました。
特に、過去の検証においては、既にあるデータから分析しているので当然ですが、確からしいものとなりますので、こういったファクターから為替が動いたのか!と納得できるものとなります。
しかし、将来の為替の動く方向を考える(予測する)というのは、どのくらいの価値があるのでしょうか?
将来のファクターを予測できないという前提に立てば、為替の予測もままならないわけですので、リスク量を計測したりする程度の価値として考えるべきなのかなと思いました。
最後に
今月号の証券アナリストジャーナルは、『円相場と日本経済』という特集でした。いかがだったでしょうか?
当初、骨太なテーマだなと思いましたが、読了後は曖昧なテーマのようにも思いました。
円相場や日本経済を論じるためには、円以外の相場や日本以外の経済も論じていかなければいけない、分離命題のようなことも感じたからです。
ただ、円相場や日本経済に関する事実やデータを拾っていくことや、それらを分析していくことは、間違った行動をしないために重要であると感じました。
グローバルな世界で、貿易があり、資本のやりとりがある中で、日本という国・円という通貨をベースにとして生きていく日本人・日本の法人がどういった為替ポートフォリオを構築していくべきなのか?
最適解があるというよりは、ベターなポジショニングを追及したり、無用なダウンサイドリスクを取らないようにすることが必要になってくるのではないでしょうか。
今月の特集は、その必要性に気づかせてくれました。
ということで、今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
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