やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『健康経営と金融市場』という特集です。
「健康経営」というワードでググってみますと、経済産業省のホームページが出てきます。三行でまとめていますので、引用します。
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。
健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つです。
昨今、「人的資本の重要性」などと言われていますが、従業員等を給料を支払う対象としてコストのように考えるのでは無く、従業員等を企業に貢献してくれる資産として考えるものです。
従業員等の健康管理に関与していくことで、従業員と企業のWin-Winの関係性が強化されるということになります。
「アブセンティズム(Absenteeism)」、「プレゼンティズム(Presenteeism)」というワードがキーになってきますでしょうか。(論文を読み進めると出てきます)
それでは、1本目の論文から、読み進めてまいります!
1本目の論文は『健康経営の現状と今後の展開(橋本泰輔氏)』です。
まず押さえておきたいのがWHO(世界保健機構)における「健康の定義」です。
「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.」と書かれています。日本語にすると、
「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」となります。
上記の「健康の定義」に沿って、企業として従業員等の健康管理に関与していくことが健康経営となるわけですが、本論文では、「健康経営度調査と評価のための五つのフレームワーク」が紹介されています。
それぞれ、①経営理念・指針、②組織体制、③制度・施策実行、④評価改善、⑤法令順守・リスクマネジメントとなり、①から④については合計70問(サブクエスチョンを含めると約180問)の調査によって評価しているそうです。
評価のために小手先の対策を打ってはいけませんが、従業員と企業のWin-Winの関係性が強化することを大目標として、これらの調査をクリアするように経営陣が努力していくというのは非常に意義深いことではないでしょうか。
2本目の論文は『健康経営と企業パフォーマンスに関する論点整理(和田裕雄氏/安田行宏氏)』です。
冒頭でワードを出しましたが、「アブセンティズム(Absenteeism)」、「プレゼンティズム(Presenteeism)」に関する、様々な論文が紹介されています。
リファレンスとしてかなり使えそうな論文です!
「アブセンティズム(Absenteeism)」、「プレゼンティズム(Presenteeism)」の理解を進めるには、2022年12月の証券アナリストジャーナルの2本目の論文『健康経営と生産性(津野陽子氏)』が参考になると思いますので、宜しければご参照ください!
↓私の読んだ感想はこちら↓
様々な研究が行われているのですが、興味深いのは健康関連コストの要因分解です。
一番大きいと思える本丸の「医療費」の割合はわずか17.3%なんだそうです。
次いで、病欠や病気休業といった「アブセンティーイズム」の割合は大きそうに思えますが5.1%とのことです。
最も割合が大きいのが、何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態などをいう「プレゼンティーイズム」で、その割合は74.7%となっています。
「出社しているけどベストパフォーマンスが出ない」ということが最も大きな健康関連コストになっているのです。
3本目の論文は『株式市場からみた健康経営─ヘルスケアセクターはライフケアセクターへ─(繁村京一郎氏)』です。
本論文は、野村證券のリサーチアナリストの方が書かれたものになります。流石だなと思いますが、「ヘルスケアセクターはライフケアセクターへ」というストーリーが面白いと思いながら読み進めました。
論文の序盤に、国策として「医療費適正化政策」、「地域医療構想」などが推進されていることが紹介されています。
そのうちの「医療費適正化政策」がイマイチな政策だと強く感じてしまったので、本論文の感想からは逸れるのですが書いてまいります。
「医療費適正化政策」は健康増進計画、医療計画、介護保険事業(支援)計画からなるもので、2008年度から実施され、第一期医療費適正化計画(2008~2012年度)、第二期医療費適正化計画(2013~2017年度)、第三期医療費適正化計画(2018~2023年度)、第四期医療費適正化計画(2024~2029年度)と進められてきたそうです。
それぞれ読みましたが、5年、6年という長い期間での計画にも関わらず、期ごとに少しずつしか進歩していない、企業だったら半年ごとに改訂するようなものなので、信じられない遅々としたペースでの進歩という印象です。
そもそもの政策の中身が本質的ではないように感じられます。
第一期の計画で、「特定検診実施率を70%以上に実施する」、「特定保健指導実施率を45%以上に実施する」、「メタボリックシンドロームの該当者および予備軍の減少率を10%以上の減少とする」といった目標を旗印にしていますが、政策を考えた人はそんなことをやるだけで医療費が適正化すると思っていたんでしょうか?
「いまさら言うなよ!2008年に言えよ!」ってなってしまいますが、15年も経ってしまいました。本当に非常に残念な政策だなと思います。
医療費を適正化するためにやっているんですから、すべての事象について、カネの観点を主として議論しないと、意味が有りません。
〇〇実施率を70%とか45%とか言ってるけど、働くステージの人と老後のステージの人を分けて考えないと、しっかりとした対策になりません。
後の期の計画で、後発医薬品の使用促進、医薬品の適正使用などと言っているけれども、それを大目標みたいにしちゃっている時点で、本気さが感じられません。
例えば、「暇だから病院に行くといった医療の目的外利用を押さえるために暇つぶしのアイテムを潤沢に提供する。」とか、
「医療費の適正化につながる、現ナマが振り込まれるといった強力なインセンティブのスキームを作る。」といった、
カネの観点から施策を作っていくようでないと本質的になりません。
ゼロからイチを生み出せない苦しい政策を見てしまいました・・・。
4本目の論文は『健康経営推進に向けた健康増進型医療保険の役割(諏澤吉彦氏/永井克彦氏)』です。
アブストラクトにしっかりと要約が書かれている論文です。有難い!
健康関連変数が改善すればリワードを付与する健康増進型医療保険は、被保険者の健康増進行動を促し、ひいては健康経営推進にも貢献し得る。
やっぱりステーキ、違う違う、やっぱりインセンティブですよね。
健康増進型医療保険については、非常に興味深いことですが、「団体型」のものも登場しているそうです。
例として、大同生命保険の「会社みんなでKENKO+」という商品が挙げられていました。
『「民」はやっている。「官」はどうした!?』
厚生労働省に期待するしかないのですが、半分諦めております。
最後に
3本目の論文から「厚生労働省に物申す!」みたいな流れになってしまいましたが、『健康経営と金融市場』という特集でした。
今月号の証券アナリストジャーナル、いかがだったでしょうか?
1本目の論文に「健康経営度調査と評価のための五つのフレームワーク」として、①経営理念・指針、②組織体制、③制度・施策実行、④評価改善、⑤法令順守・リスクマネジメント、とありました。
これをどこまで本質的に行えるかが問われています。
例えば、ヤフーは、従業員の働き方や生き方に選択肢を与えることを目的として、リモートワークを推進し、居住地の自由といった施策も導入しています。
このヤフーのような大掛かりなものでなくても、「電子メールを通じて果実や野菜を摂取するよう健康行動の変容を促す」だけでも大きな効果があるそうです。(2番目の論文より)
出来る範囲で行うことで、着実な進歩が期待できるのではないでしょうか?
ということで、今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
※「健康経営」という言葉は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※「ナボナ」というお菓子は、亀屋万年堂が発売している「お菓子のホームラン王」です。
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