やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『知的財産・無形資産の戦略』という特集です。

興味深い特集のタイトルだなと思いながら読み始め、先ほど4本の論文を読み終えたところですが、率直に読み終えた感想を言いますと、いろいろな切り口で知識や知恵がつき、有益だったなと感じています。

自分なりに分かりやすいアウトプットができるように、頑張って書いてみます!

 

1本目の論文は『知財・無形資産ガバナンスガイドラインの概説(池谷巌氏)』です。

本論文は、内閣府の知的財産戦略推進事務局の方が書かれたものです。政府の施策について、詳しく書かれています。

歴史的な流れとして、2021年6月のコーポレート・ガバナンスコード(CGコード)の改訂が大きいようです。CGコードの改訂では、知財投資等を分かりやすく具体的に情報を開示することや、取締役会において実効的に監督することが盛り込ました。
その後、2022年1月に、知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドラインVer1.0が公表されました。(今回は、Ver1.0について見ていきたいと思います。)
2023年3月に、Ver2.0が公表されました。Ver2.0は、企業と投資家・金融機関のコミュニケーション・フレームワークについて書かれた、追加的な内容ともいえるもののようです。ご興味ありましたらリンクから見ていただけたらと思います。

さて、Ver1.0は、「5つのプリンシプル」と「7つのアクションの活用」というのがポイントになっています。

「5つのプリンシプル」は、企業向けに①~④の4項目、投資家向けに⑤の1項目となっています。

① 「価格決定力」あるいは「ゲームチェンジ」につなげる
② 「費用」でなく「資産」の形成と捉える
③ 「ロジック/ストーリー」としての開示・発信
④ 全社横断的な体制整備とガバナンス構築
⑤ 中長期視点での投資への評価・支援

「7つのアクションの活用」は、以下となります。

① 現状の姿の把握
② 重要課題の特定と戦略の位置づけの明確化
③ 価値創造ストーリーの構築
④ 投資や資源配分の戦略の構築
⑤ 戦略の構築・実行体制とガバナンス構築
⑥ 投資・活用戦略の開示・発信
⑦ 投資家等との対話を通じた戦略の錬磨

これらのポイントは正論だと思いますが、一方で、実践への道は険しいと感じ、表現が荒いですが、「机上の空論・・・?」という感想を持ちました。
4本の論文を読んでいき、やはり、実践への道は険しいと確認しましたが、進むべき方向性としては、『知財・無形投資は「量」ではない!「質」だ!』というものが見えてきました。
4本の論文を読み終えた後に、この論文を読み直すと、より深く理解が進むと思います。

 

2本目の論文は『知財情報を活用した投資判断の可能性(杉光一成 / 立本博文 / 波多野紅美 / 山内明 / 力久未知可氏)』です。

この論文では、関連する先行研究を基に、題名の通りですが、知的情報を活用した投資判断の可能性についてが検討されています。

主な知財情報(知財KPIといいます)の特徴と種類として、3種が挙げられています。
一つ目が「出願件数」です。ここで、『特許出願というのは玉石混交であり、研究者としてのノルマで出願しただけというレベルが低いものも含まれている』と書かれています。
二つ目が「登録件数」です。『出願件数よりも信頼性は高く、「質」を示している』とありますが、『社会的なニーズが考えにくい技術であっても登録になる』ところに留意と書かれています。
三つめが「被引用数」です。『先行する特許出願が他の後行の特許出願において引用された数を意味』しているもので、『特許の「質」について信頼性の高い評価を伴っている』と書かれています。

ここまで見ても、特許の「質」を重視していることがわかりますが、後段に『年平均被引用数の上位5%を「重要特許」と特定して、その数自体を指標とする』といった分析が行われているので、ここでも特許の「質」の大事さが大きく見えてきました。

 

3本目の論文は『機関投資家による「知財戦略」評価とエンゲージメント(中山伊織 / 渡辺勇仁氏)』です。

こちらはアセットマネジメントのファンドマネージャーとアナリストの方が書かれた論文です。

どのような特許戦略・戦術が機能したのかを「知財戦略対話」によって評価したいというストーリーで、企業内部での特許に関する戦略の貢献例として、9つ書かれています。
それぞれ、①特許情報による探索、②他社特許クリアランス、③参入障壁構築準備、④一部ブラックボックス化、⑤早期審査活用、⑥外国・国際出願、⑦侵害防御、⑧ライセンス供与、⑨売却、となっています。

ここでも、特許の「質」に関する議論になっています。

 

4本目の論文は『今後の企業経営は、知財・無形資産戦略で決まる(菊地修 / 渋谷高弘氏)』です。

なかなかの「断言系タイトル」ですが、第1段落は『「日本の失った30年」の原因は、知財戦略の敗北にある』となっていて、筆者の持論が余すことなく展開されています。

日本は、第2次世界大戦の後、復興に取り組んできたわけですが、米国の戦略的意図もあり、米国から日本への技術移転が進められました
その技術移転を受ける過程では、特許やノウハウに対する高額のライセンス料が発生し、日本は苦しんだとあります。
当然ながら、高額のライセンス料=いわゆる技術収支のマイナスを何とかしなければいけないところですが、当時の日本は、ひたすらに特許取得に取り組み、特許の「量」を武器として、クロスライセンス(特許・ノウハウの相互利用)戦略によって技術収支のマイナスを克服していきました。
このクロスライセンス戦略と円安という環境によって、日本企業は高度成長を遂げました。

米国は、2000年代から、新たな知財戦略である「オープン&クローズ戦略」を使ってきました。
「オープン&クローズ戦略」とは、自社にとって重要ではない一部の知財を事業提携先に無償で開放する「オープン戦略」と、自社の競争力にかかわる重要な知財は権利化や秘匿によって徹底的に守るという「クローズ戦略」を併用するというものです。
この戦略が上手くいき、米国は急速に復活を遂げたとしています。
具体的な企業の例として、3Gの標準規格であるCDMAをクローズ戦略で収益化したクアルコム、PCIバス技術を台湾企業にオープン戦略で供与しながらMPUの販売を進めたインテル、模倣できないiOSというクローズ戦略で成功したアップルが挙げられています。

その間、日本は、クロスライセンス戦略時代に上手くいった特許の「量」の戦略を続けてしまい、ゲームチェンジ/パラダイムシフトに気づかず、失われた30年になったというストーリーです。

本論文だけでなく、4本の論文を通じて、特許などの知的財産・無形資産の戦略が完全に「質」の勝負になっていることがわかりました。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『知的財産・無形資産の戦略』という特集でした。

少し抽象的な話になってしまいましたが、具体的な戦略は、知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドラインVer1.0・Ver2.0や、4本目の論文に載っていました。割愛しましたので、ご興味のある方は本文をお読みいただけたらと思います!

ただ、正直なところ、それらの具体的な戦略は「模索している最中」である印象を持ちました。というのも、今回議論されてきた「質」から「量」へのゲームチェンジ/パラダイムシフトは、非常にダイナミックな変化であり、すぐに攻略できるものではないからでしょう。

今でも、日本企業は特許の出願件数・登録件数といった「量」的なモノサシでは世界的に高いランクにいる状況です。ここで、「質」的なモノサシで高みを目指さねばなりません。
いくつかの日本企業は、特許の「質」の戦略に移行し、成功しているようです。資金力・マンパワーがまだ残っていそうな今、追いつけ追い越せで進化して欲しいと強く思います。

ということで、以上となります。今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!