やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『グローバル金融緩和の終焉と日銀』という特集です。

2024年3月18日・19日の日銀金融政策決定会合において、マイナス金利政策の解除が決定されました。
マイナス金利政策の解除はある程度予測されていたかもしれませんが、タイミング良く、本特集が組まれました。
日銀金融政策決定会合の発表を受けて、各論文の加筆や修正がなされたようで、著者の方は大変だったかもしれませんが、読者にとってはタイムリーに知識や知恵を得ることが出来る良い機会になりました。

それでは4本の論文を読み進めてまいります!

 

1本目の論文は『物価高と異次元緩和―日銀は「出口」を出られるか―(中里透氏)』です。

「異次元緩和の11年間を振り返る」という章で、異次元緩和の歴史を再確認することが出来ました。抜粋しますと、『2013年4月4日、2%の物価目標を掲げ、黒田東彦日本銀行総裁(当時)の下で量的・質的金融緩和がスタートした。』という振り返りからはじまります。そして、2014年4月に消費税が5%から8%に上がった後の同年10月の追加緩和、2016年1月に決定されたマイナス金利付き量的・質的金融緩和、2016年9月に導入されたイールドカーブコントロール(いわゆるYCC、長短金利操作付き量的・質的金融緩和)についてが書かれています。

その後の章では現状の日本経済についての意見があり、中里さんは総じて弱気な見方をしていらっしゃっるようです。『現在の物価上昇の相当程度は資源高と円安を起点に生じたコストプッシュの要因によるものであり、それ自体は景気の下押しを通じて早晩物価を押し下げる要因として働くようになる。』と書かれていて、私も同意するところです。

終章では、『異次元緩和の「出口」に向けて』と題して、日銀のバランスシートをめぐる問題について分かりやすく書いてあります。日銀当座預金に対する付利によって日銀に金利負担が生じる一方、金利上昇によって国債からの受取利息が増えるが、両者のタイミングは当然ながらズレる、ということはしっかりと認識しておくべきことでしょう。

 

2本目の論文は『大規模緩和の修正に関する論点整理(左三川郁子氏)』です。

「マイナス金利解除による市場機能への影響」、「マイナス金利解除後の短期金利のパス」、「YCCがもたらしたもの」、「リスク性資産の買い入れ」、「日銀財務への影響」といった章立てで、大規模緩和の修正に関する論点整理が行われている論文です。

大きなポイントとしては、2024年2月8日に奈良県内で開催された金融経済懇談会における内田眞一日本銀行副総裁の挨拶について、その後、2024年2月16日の衆議院財務金融委員会における植田和男日本銀行総裁のコメントについてがあります。これらは、その後の日銀金融政策決定会合に向けてのヒントとなったわけですが、その内容をふんだんに織り込んだ形で、それぞれの章のタイトルにある論点と結び付けて、議論が進められています。

「日銀財務への影響」の章に、『景気が悪化している時に政府が財政支出を増やせば財政収支は悪化するが、同時期に中央銀行が非伝統的金融政策の下でバランスシートを拡大させて金融を緩和すると、中央銀行の収支は改善する。中央銀行の収益が下押しされるのはむしろ出口局面においてである。』と書いてあります。この点は大変重要で、メカニズムとして不可避なものであると理解したいところですが、理解の浅い方が「出口局面で日銀の収益が悪くなっている、何事だ!」といったことを主張されそうで、今から怖いです・・・。

 

3本目の論文は『緩和修正と金融機関への影響(加藤出氏)』です。

本論文の著者である加藤出さんが作成している「金融政策正常化ロードマップ」は、本誌以外の経済雑誌などでも取り上げられることがあり、知っているという方もいらっしゃるかもしれません。
スタート地点を「マイナス金利」+「YCC(10年国債金利の上限0.5%)」として、6つのステップで構成されています。

ステップ①(2023年7月):「マイナス金利継続」+「YCC(上限0.5%を曖昧化、厳格な上限1%を設定)」
ステップ②(2023年10月):「マイナス金利継続」+「YCC(上限1%を”めど”に変更)」
ステップ③(2024年3月):「マイナス金利継続(翌日物金利0~0.1%)」+「YCC的側面を残したQE」
ステップ④:「ゼロ金利解除(翌日物金利0.25%弱)」+「YCC的側面を残したQE」
ステップ⑤:「利上げ継続(基本0.25%幅)」+「YCC的側面を残したQE」
ステップ⑥:「利上げ継続」+「保有国債を積極的に減額」

このステップを、日銀がどのように進めていくか、また筆者の考えとしてどのように進めていくべきかが書かれています。
印象に残ったのは、「日銀は金融政策正常化に慎重になっているが、内外金利差拡大が加速させた円安による実質賃金下落に苦しんでいる中低所得者層の国民を早く助けるべき」といった言及です。
正常ではない状況を継続することやMMTのように状況を加速することは、原理原則的に宜しくないと私も思うところですが、VUCAと言われる先の見通しが立てにくい世の中で、そもそもクリスタルクリアな政策運営をすることが難しい中で、バランスをもってかじ取りを行う必要性も大いに感じます

 

4本目の論文は『日銀は米欧の教訓を生かせるか(河野龍太郎氏)』です。

本論文の第2章のタイトルは、著者が2023年12月に発刊した著書のタイトルと同じ「グローバルインフレーションの真相」となっています。しっかりと理解するためには著書を読んだ方が良いかもしれません。
(ちなみに、Amazonでの紹介文を読んでみたところ、なかなか興味深い内容だったので、さっそくポチった次第です。)

さて、グローバルインフレーションの主因は、先進各国での大規模な財政政策によるものであり、その後に、インフレを一時的であると誤認し、サプライチェーンの寸断など供給ショックに怯えた中央銀行が利上げに出遅れたことによるとあります。今考えると、なるほどと思うところですが、当時はそう考えることが出来たのでしょうか?何らかの検証が必要と思います。
また、異次元緩和と言われた11年間の金融政策がどの程度妥当だったのか?こちらも、何らかの検証が必要でしょう。

本論文の「おわりに」の章では、『植田和男総裁は、就任後、1回目となる2023年4月末の金融政策決定会合で、1年から1年半の期間をかけて、過去四半世紀の金融政策について、多角的な視点から分析することを決めた』とあり、実際に「金融政策の多角的レビュー」として公表資料も徐々に出てきている状況です。
筆者は、この「多角的レビュー」から得られる教訓がミスリーディングなものになると懸念をしています。
(深く理解できていないのでなぜミスリーディングになるのかがしっかりと分かっていないのがもどかしいです・・・。それもあって、本をポチったのですが・・・)
筆者の主張と、「多角的レビュー」に注目しながら、確からしい答えを探していきたいと思います。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『グローバル金融緩和の終焉と日銀』という特集でした。

ここ数年、各国政府や中央銀行は、コロナ禍という特殊な状況もあり、難しいかじ取りを迫られました。
ポピュリズムの後押しもあったのか、緩和的な政策が採用されがちでした。時を経て、ようやく「これで良かったのか?」と振り返るタイミングになってきたかと思います。
今後、各国中銀がどのような政策運営をしていくかは分かりませんが、これまでの政策運営をしっかりと振り返り、自分なりにシナリオを構築することで、少なくともしたたかな戦略は取っていけるのではないかと感じています。
学びを進めて、生きる力を強くしていきたい、そんな思いを持った今月の特集となりました。

ということで、以上となります。今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!