やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『監査報告書のKAMの活用』という特集です。

2018年4月号にて、「監査報告書の拡張と監査の情報提供機能」という特集が行われていました。私のブログでもこの特集について取り上げました。
その特集では、「これからKAMというのをやります」といったことが言及されていたと思いますが、今月号ではその結果を見ていくようなイメージです。

ちなみに、当時はジャーナルがまだ紙ベースで発行されていて、ボールペンで色々書き込みしながら理解を進めておりました。
(今は電子的に発行されていますが、私は紙に印刷して、ボールペンで色々書き込みしながら理解を進めております。進歩がありません。笑)

さて、解題を見ますと、KAMに関する歴史が載っています。
2021年3月期からKAMの記載が始まり、4会計年度が過ぎたことになります。本特集で日本におけるKAMの記載がどのように進んできたのかが分かるようです。
今月号も楽しみながら読み進めてまいります!

あっ!そもそも、「KAMってなんやねん?」という声もある気がしていますが、KAMは「監査上の主要な検討事項」のことで「Key Audit Matters」の略となります!

 

1本目の論文は『KAMの好事例集の3年間の傾向分析(熊谷五郎/土谷敬氏)』です。

日本証券アナリスト協会の方が書かれた論文です。
日本証券アナリスト協会では、日本公認会計士協会の協力を得て、「証券アナリストに役立つ監査上の主要な検討事項(KAM)の好事例集」を2021、2022、2023と3年にわたって作成していました。その好事例集における概要や傾向分析についてが載っています。

KAMの好事例集の概要の欄に「証券アナリストにとってのKAMの利用価値」として3点が挙げられています。それぞれ、
①会社のリスクをより良く理解できること
②会計上の見積もり等について、証券アナリストとは別の観点でチェックした監査人から、重要な参考意見が得られること
③監査の品質やガバナンスについて一定の判断材料が得られること
となっています。

上記の3点がしっかりと軸というか指針になっていることもあり、年々良いコミュニケーションが出来てきているようです。
今ではアナリストも当たり前のようにKAMを利用しているとのことで、この新しい試みが成功していることが分かりました!

 

2本目の論文は『資産評価に関するKAMの利用(後藤潤氏)』です。

「はじめに」の項に、『KAM導入以前の監査報告書は、除外事項の説明や継続企業の前提に関する重要な不確実性に関する記載を除くと、財務諸表利用者に対して監査の結果のみを伝える機能しか持た』なかったこと、『KAM導入後の監査報告書では、「監査上の主要な検討事項」の区分を設け、監査人が職業専門家として特に重要であると判断した事項について、内容、KAMとした理由、KAMに対する監査上の対応が記載されるようになった』と書いてあります。
たしかに、私がトレーダーをしていた時は、「継続企業の前提に関する重要な不確実性に関する記載」くらいしか見ていませんでした!

今では、資産評価に関するKAMの利用が進んでおり、固定資産(のれん等)の減損損失について、マツキヨココカラ&カンパニーやDMC森精機やENEOSホールディングスの事例が載っていたり、繰延税金資産の回収可能性について、フコクや東北電力の事例が載っていました。事例が紹介されていることで非常に理解が進みました!

 

3本目の論文は『収益・費用の計上に関するKAMの利用―KAMによる多面的なリスクの把握とガバナンスの深化―(大瀧晃栄氏)』です。

こちらの論文では、収益認識に関するKAMや、費用計上に関するKAMについてが載っています。

収益認識に関するKAMについては、大成建設についての事例が載っています。いわゆる工事進行基準という、工事の進捗度に応じて収益を認識する会計処理の姿勢がKAMによって解像度が上がると言うものでした。
工事を進めていく中で事業費がかさんでいくケースにおいて、どのように収益を計上していくのか、投資家にとっては非常に気になるところですが、そのあたりがクリアーになるというのは画期的なのではないでしょうか!?

そして、繰延税金資産の回収可能性に関するKAMについても書かれていて、会社がどのように収益費用を認識するか、将来見通しと繰延税金資産に関係性をどう考えているかなど、投資の判断材料としてかなり役立つことが分かりました。

最後には、監査というものが、低報酬であるべきなのか、またはKAMを充実させるなど、高い監査品質を求めるべきなのかという二極化に絡むことが問題提起としてありました。
上場する意義、上場維持のためのコスト、難しい問題です。

 

4本目の論文は『欧米のKAMの記載実務の検討(町田祥弘氏)』です。

本論文は、日本のKAMと欧米のKAMを比較するものです。
事例としてNTTとブリティッシュテレコム(BT)や、イオンとTESCO(英国のスーパーチェーン)、といった日本と海外の同業種での比較がなされていて参考になりました。

欧米のKAMを見る機会というのはなかなか無いと思いますので、この論文自体がかなりマニアックなものなのかなと思いますが、専門家にとっては興味深い内容なのだと思います。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『監査報告書のKAMの利用』という特集でした。

冒頭にも書きましたが、KAMが「監査上の主要な検討事項」のことで「Key Audit Matters」の略であることから理解を進める感じでしたが、4本の論文を通じて、KAMの意義や重要性をしっかりと理解することができました。KAMは比較的新しい試みであり、KAMを見ることが習慣づいていない私ですが、一人の投資家として、まずは保有銘柄の監査報告書をチェックしてみることから始めてみようと思います。

ということで、今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!