(今月から「クラブ・インベストライフ」にて本記事を見ていただくことになりました。下の方に、はじめてこの記事を見ていただいた方向けの説明がありますのでご覧ください!)

やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『2025年の崖を越えて―DXの本格的な推進のために―』という特集です。
まず、DX界隈で「崖」があるのかという驚きと、2025年って今年やんという驚きのあるタイトルです。
パラパラとページをめくっていくと「攻めのDX」や「守りのDX」というワードが見え、興味をそそりました。

それでは、5本の論考を読み、学びを深めていきたいと思います!

 

1本目の論文は『「2025年の崖」の本質的な要因(三谷慶一郎氏)』です。

経済産業省の「DXレポート(2018年)」という報告書に「2025年の崖」という言葉が載ったそうです。
「レガシーシステム」がDX推進の大きな足かせになりますよ!という警鐘を込めたもので、具体的には、「レガシーシステム」をメンテナンスする人材が不足/消失で維持できなくなるという大問題を表現した言葉とのことです。
「デジタル競争の敗者となる」といった恐れもありますが、「業務基盤の維持・継承が困難になる」、「システムトラブルやデータ滅失・流出のリスクが高まる」といったゴーイングコンサーンに関わる問題です。
今でも、レガシーシステムサポートの継続に伴う人材やお金のコストは大きくなっています。

次に、「レガシーシステム」の持つ課題が紹介されています。いつの日か自社システムの中身がブラックボックス化して、自分の手で修正できなくなっていることが多く、その原因は①有識者の退職等によるノウハウの喪失、②情報システムに関する産業構造があるようです。
ただ、本質的な要因は「独自性の高い仕事のやり方」なのではないかと筆者は主張しています。一人の人材が、長期間、同じ仕事をすることで、ガラパゴス化が進んでいるというイメージです。
独自性の高い仕事のやり方が悪いのか?それを一般化せずに鏡のように映し取りシステム化してしまった情報システムが悪いのか?という問題はありそうですが、なんにしてもシステムについての中長期的な思考が欠けていたということなのかなと思いました。

その後、「DXの現在地」として、JUAS(日本情報システムユーザー学会)の企業IT動向調査報告書のデータやIPA(情報処理推進機構)のDX動向のデータより道半ば感が示されていたり、「生成AIの活用状況」については、BCGが取りまとめを支援した資料だと思いますが、経済産業省サイトの「デジタル/生成AI時代に求められる人材育成のあり方」のデータなどからかなり遅れていることが示されています。

この後、「日本企業ができていない三つのこと」、「対応すべき方策」といった章が続きます。沢山の有益なことがあり、書ききれないのですが、興味深い事象として、社内のレガシーシステムの刷新について出来ている企業と出来ていない企業の二極化が進んでいるようです。
前出のJUASのデータによれば、「レガシーシステムはない」と回答した企業は2017年で13.5%、2023年で32.0%であり、「ほとんどがレガシーシステムである」と回答した企業は2017年で19.2%、2023年で26.3%であったそうです。
レガシーシステムを刷新し、新しいビジネスを創り出すための「攻めのDX」を行える企業が有望であると強く感じます。

 

2本目の論文は『高度化と創造・革新のステージへ向かう日本企業のDX―企業IT動向調査からみえてくる現状と課題・さらなる挑戦―(大熊眞次郎/志村近史氏)』です。

この論文はJUAS(日本情報システムユーザー学会)のお二方が書かれていて、JUASが発行している「企業IT動向調査2024」に基づく動向と分析結果についてのものとなります。
「IT予算」、「DXの推進状況」、「システム開発と情報セキュリティ」、「IT人材と組織」といった章が続いていて、それぞれ分析結果が載っています。

儲かっていたらIT投資が多く出来るというデータが出ていて、確かにそうだよなぁ・・・と思うところですが、私が大事だなと思ったのは経営層のコミットメントについてです。以下のように書かれていました。

「IT組織が魅力的になっていくために重視することは何か」との問いに対して「経営層がIT導入を重要な位置づけと考え」「IT部門のミッションが明確であり」「魅力的なキャリアパスが設定され」「事業部門との協力関係が築けている」「新規取り組みへのチャレンジを促進している」等が回答の上位を占めた。

ITについてでも、事業についてでも、経営層のコミットメントはとても大事ですね。
一度やると覚悟を決めたら、実際にやってくれる社員の方が心から理解できるように、繰り返し繰り返し伝えていき、しっかりと浸透させていく努力が必要なのではと思います。

 

3本目の論文は『DXを推進する人材の最新動向と人材政策(河野浩二/角田千晴氏)』です。

こちらの論文はIPA(情報処理推進機構)のお二方が書いています。

前半は「DX推進人材の動向」についてです。国勢調査のデータを見てみると、「システムコンサルタント・設計者」、「ソフトウェア作成者」、「その他の情報処理・通信技術者」の職種の合計で2020年に約125万人だったのが、2025年には約21万人も増加したそうで、これだけ増えていれば問題はないと短絡的に考えてしまうところですが、DX推進人材の確保に関し、「大幅に不足している」と回答した企業の割合は2021年度ベースで30.6%、2022年度ベースで49.6%、2023年度ベースで62.1%となっていて、どうみてもDX推進人材不足の状況が深刻化しているようです。
システム開発の内製化については87.4%の割合で「人材の確保や育成が難しい」ことを課題として挙げています。DX推進人材を自社で抱えるなんて到底無理という状況です。
人材確保が出来た企業ではDXの成果創出を上げているというデータがあるので、この人材不足は本当に残念な話です。

後半は「DX推進人材の育成」についての話です。IPAではすべてのビジネスパーソンが「DXリテラシー標準」を身に付けるべきで、その上で、DXを推進する人材は「DX推進スキル標準」を身に付けるべきと考えています。
今回の論文を読み始めて知りましたが、IPAはDX人材育成のために、マナビDXというデジタル知識・スキルが身につく”学びの場”を作っていて、「はじめてのPython」、「ChatGPTの基本的な使い方を学ぼう」、「~学ぶを楽しむ♪実践DX塾(manatano) ~【ITパスポート 試験対策コース】」、「DXリテラシー基礎講座」、「データサイエンティスト養成講座」といった講座がオンライン受講できる仕組みになっています。これだけでしっかりとデジタル知識・スキルが身につくのか未実践なので分かりませんが、必ずきっかけにはなるでしょうし、広まるべきサイトなのではないでしょうか。

 

4本目の論文は『長期の時間軸で読むデジタル化と日本経済―グローバルな観点からの課題と可能性―(篠﨑彰彦氏)』です。

アブストラクトの最初の文章に『デジタル化が効果を生むには「技術への投資」に加えて「改革への投資」が欠かせない。』とありました。
なるほどと頷きつつ読み進めていくと、『この両輪を巧みに駆動させて生産性向上を図る取り組みがDXであり、日本は上手く駆動できていない。』とあります。
「改革への投資」へのヒントが得られそうな論文です!

私が読んで感じたヒント①は、「デジタル化が効果を生むには欠かせない条件がある」として、業務プロセスの再設計や組織の再編、専門人材の登用や従業員の再訓練といった人材開発、雇用慣行や業界慣行、さらには規制や法制度の見直しなど、目に見えない「無形資産への投資」であると主張しているところです。
「インタンジブル・アセット(ブリニョルフソン)」や、「The Productivity J-Curve(Brynjolfsson et. al)」「ICT導入と企業経営 : 効果をもたらすメカニズムと「日本型システム」の課題(篠﨑彰彦)」が参考文献として紹介されていました。これらから、深く学ぶことも可能かと思います。

そして、上記に挙げた「無形資産への投資」は米国は行って成功して、日本は行えずに成功しなかった(ステレオタイプに言ってはいけませんが・・・)ということになるのですが、ヒント②として、日本にはバブル崩壊後に、三つの過剰があり、それらの問題処理に忙殺されたことが影響したと指摘されています。三つの過剰は、雇用、設備、負債です。
これらのせいで、日本は「リエンジニアリングへの投資」よりも「ダウンサイジングへの投資」をしてきたのではないかという話です。
いまや、それら過剰は無く、日本に追い風が吹いている環境変化もあり、効果と効率を峻別したDXを推進することで、ビジネスを進化させていけるのではないでしょうか。

 

5本目の論文は『DX銘柄企業等と企業価値の関係性(岩永安浩氏)』です。

経済産業省が「DX銘柄」を選定しているのですが、そのDX銘柄群のパフォーマンスを分析したのが本論文です。
結論としては、DX銘柄は同業他社と比べて優位性が無いとしています。
その上で、DXの推進が積極化する昨今の状況について、日本の企業がその競争に参加できていない可能性を示唆しています。

このデータの解釈はいろいろとありそうで、例えば「DX銘柄」の選定基準を改良・変更していくべきだとか、日本の企業だけでなくグローバルでDX銘柄を考えるべきだとか、あるかもしれません。
何はともあれですが、データは雄弁で冷徹だと思った本論文でした!

 

読了後のひとこと

今月号の証券アナリストジャーナルは、『2025年の崖を越えて―DXの本格的な推進のために―』という特集でした。

証券アナリストジャーナルのテーマとして、「DX」というのは少し変化球な感じかと思います。
例えば、2024年12月号のテーマは「デフレ脱却後の企業行動」ですし、11月号のテーマは「監査報告書のKAMの利用」10月号のテーマは「金融リテラシーと金融行動」となっています。
今月号に関しては、私として未知な部分が多かったのですが、そのせいもあって、非常に勉強になりました。

経営者としての観点からは、DX投資の成否が、経営陣の確かな判断とその判断に基づいた確実な実行に依存していることが分かりました。
「攻めのDX」、「リエンジニアリングへの投資」といったキーワードがありましたが、方向性をしっかりと持ち、社員すべてが自分事としてDXと付き合っていくことが大事なのでしょう。

投資家としての観点からは、設備投資の大小を見るだけでなく、どのようなDXを実行しているかという「質」も見ていくべきだということが分かりました。
財務情報というよりは非財務情報の中に「質」に関する答えがあるように感じます。

ということで、今月も最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!

 

はじめてこの記事を見ていただいた方に

はじめまして!金融教育家のやすべえと申します。
私は、大学卒業後、証券会社3社にて金融商品のトレーダーとして20年近く勤務し、2018年から金融教育家として活動を開始しました。
詳しい説明はコチラにありますので、ぜひご覧くださいませ!

「証券アナリストジャーナル」とは、日本証券アナリスト協会が発行する会員向け月刊機関誌です。
私は、2002年に証券アナリスト検定会員となり、本誌を読み始めまして、2017年から本ブログに読んだ感想をしたためるようになりました。
「備忘録」でもあり、「書きなぐり」に近いものです。その点、ご容赦頂ければ幸いです。
ただ、証券アナリストジャーナルに寄稿してくださる方に敬意を持つこと、ブログの読者に誤解を与えずに私の思っていることをお伝えしようと心に留めながら書いています。
また、タイトル名と著者名のリンクをクリックすると日本証券アナリスト協会のサイトにジャンプし、本文の1ページ目を無料で読むことが可能です。有料で全文を購入することも可能です。

はじめましての皆さま、これまでも読んでいただいている皆様、今後とも本ブログをどうぞよろしくお願いいたします。
Facebookの告知ページがありますので、フォローやいいね!をしていただけますと、ブックマーク代わりになります。
証券アナリストジャーナルに関するものや、その他の私のアウトプットについての告知を追うことが可能です!

感謝!