証券アナリストジャーナル4月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「地球温暖化と株式市場」の特集です。

いわゆる「ESG」、「Environment(環境)」、「Social(社会)」、「Governance(企業統治)」の「E」において重要な問題である「地球温暖化」が今回の特集のテーマとなっています。今月の論文は、視野が広がるような多彩な顔ぶれとなっています。

 

1本目の論文は、「気候変動問題とESG投資(水口剛氏)」です。

今回の特集の1本目の論文らしく、読者に幅広い理解を与えてくれるような内容になっています。

最初に、「気候変動とはどのような問題なのか?」として、「科学的知見の変化」と「政治の対応」を押さえていきます。

「科学的知見の変化」については、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)の評価報告書の推移を提示し、地球温暖化に対する評価軸を持ちます。この評価報告書については全国地球温暖化防止活動推進センターという機関が、日本語で説明しています。(定次の評価報告書が2014年の第5次評価報告書が最新という事もあり、アップデートはそこで止まっている模様です・・・)

「政治の対応」については、「COPいくつ」が開催されたというニュースを見たことがあると思いますが、その「COPいくつ」についてのリストがあります。1997年、COP3において京都議定書が採択されて、2015年のCOP21(COP3の18年後)においてパリ協定が採択されたというような歴史を知ることが出来ます。アメリカが京都議定書、パリ協定、両者とも離脱を表明していることも書いてあります。

 

次に、「ESG投資としてどうすべきか?」という議論に移ります。

気候変動による投資リスクとしては、「物理的リスク」と「移行リスク」があると、金融安定理事会設立の気候関連財務情報開示タスクフォースが言っているそうで、前者は海水面上昇や災害といったもの、後者はガソリン車が電気自動車に取って代わられるといったものを示しています。3本目の論文に自動車についての移行リスクが詳しく書かれているので、理解が深まります。後程、ご紹介します。

実際のESG投資の方法についてですが、ジャーナルの2018年の1月号にあった論文が詳しいですが、こちらでも「インテグレーション」、「ダイベストメント」、「スクリーニング」、「エンゲージメント」といった手法が紹介されています。

証券アナリストジャーナル2018年1月号(多様化するESG投資 特集)を読んで

ESG投資の方法の中で、筆者が強調するのは「ユニバーサルオーナシップに基づく行動」です。代表的なものとして、「パッシブ運用でのエンゲージメント」が求められるとの意見です。

 

「コストが・・・」的な話になりがちですが、「共同エンゲージメント」によって個々の投資家のコストは抑えられると主張します。私は、「共同エンゲージメント」の仕組みでやるかどうかはわかりませんが、パッシブ投資家の「共同ダイベストメント」、「共同スクリーニング」というのはかなり効果があるのではないかなと思います。

 

 

2本目の論文は、「企業の環境パフォーマンスと財務パフォーマンス-先行研究のサーベイ-(浅野礼美子氏)」です。

この論文は環境パフォーマンス(Environmental Performance:EP)と財務パフォーマンス(Financial Performance:FP)との関係について、網羅的にまとめている論文です。

簡単にまとめてしまうと、「昔(伝統的な見解):環境への取り組みは財務パフォーマンスにネガティブ」だったものが、「現代(修正主義としての見解):環境への取り組みは財務パフォーマンスにポジティブ」になってきている。しかしながら、「諸説あり」というものです。

投資家というものは確からしい分析に基づいて投資を組み立てたいと思うのでしょうが、環境といった投資のポリシーに係るものに関しては、「ファクターとしてアルファがあるから環境への取り組みを重視する企業にベットする」のではなく、「投資ポリシーとして環境への取り組みを重視する企業にベットして、結果としてアルファも得ている」という順であっても良いのではないかと思います。

 

 

3本目の論文は、「新たな時代を迎えた自動車の電動化-電動化の自動車メーカーへの影響と戦い方の変化-(小澤郁夫氏)」です。

この論文は、みずほ銀行産業調査部の方が書かれているもので、中長期的な自動車セクターへの視点を与えてくれる論文です。トレーダーを引退してからは個別銘柄のアナリストレポートやセクターに関してのアナリストレポートをあまり読まなくなったのですが、この論文のような自動車セクターの示唆に富んだ文章を読んで、トレーダーとして短期、中長期の投資を色々考えていたころの思い出が蘇りました

さて、論文は「自動車電動化の進展」として、ハイブリッド車や、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車の4種に類型化されるとし、進展のバックグラウンドを説明していきます。想像に難くないかもしれませんが、「環境規制の強化」だったり、「電動車シフト+異業種による電動車参入」だったり、「電動車のコスト低減」だったりがアクセラレーターになるというお話です。データ豊富で脳に訴えてくれる文章でありがたいです。

そして、今後の販売台数予測が出てきます。ここらへんはアナリストレポートっぽくて、最初に書いたように、読んでいる最中にもかかわらず、トレードのアイデアに落とし込もうと自然と紙とペンで何か書いていました。(笑)

 

さておき、この論文の最も読んでおくべきポイントがここからですが、①「市場が拡大する電動車」だが、4種の車両の「各販売量は限定的」で、「少量多種モデル投入が必要」なので「開発・調達・生産負担は大」きいので、「電動車では設けることは難しい」、そして②「市場が縮小するエンジン車」だが、「数量頭打ち」で、その中でも「技術開発が求められる」ので、「持続的キャッシュ創出は容易でない」とバシっと書いていらっしゃいます。

その後には、「ではどうすべきか?」ということが色々と書かれていて、代表的な完成車メーカーや部品メーカーの株価の推移を見ていると、近い将来、この論文をもとに株価が動いていくのではないかと感じ、トレードのチャンスが転がっているのではないかと感じました。

 

1本目の論文でいうところの「移行リスク」が発生する、代表的なセクターとなる「自動車セクター」における示唆に富む貴重なレポートでございました。

 

 

4本目の論文は、「気候変動に関する定性的情報開示と企業価値(田中優希氏)」です。

この論文は、気候変動に関する定性的情報開示を調査し、企業価値との関係性を見出そうというものです。

有価証券報告書を見ていて思いますが、開示という行為はどうしても受動的なスタンスになりがちです。「こういう所を開示すると投資家に喜ばれますよ!」というものがあっても、「まぁ、開示の義務は無いのですが」となると、見送ってしまうようなイメージでしょうか。本論文でもその傾向が見て取れます。

開示されていると評価されている企業は、時価総額が大きい(つまり、株式市場にポジティブに捉えられている)という結論が出ていますが、裏返すと、時価総額が大きい企業は、企業の開示においてマンパワーがあるので、能動的な開示が出来て、開示されていると評価されるのかもしれません。

気候変動に限らず、SDGsについてなど見てみると面白いかもしれません。時価総額が大きくない企業でも「SDGsへの取り組み」的なページを持っている企業は多いと思われるので、そういった企業の企業価値が時価総額では無くて、バリュエーションでどうなっているかですとか、時系列でアウトパフォームしていることが確認出来たりすると、「鶏と卵」の関係が一気に進んで、「企業の環境に対する取り組みが進む⇔企業価値が向上する」というスパイラルが起きる気がします。

 

 

最後に!

今月の証券アナリストジャーナルは「地球温暖化と株式市場」という特集でした。様々な視点からの論文、有難く拝読させていただきました。

総じて思うのは、「株式市場は、地球温暖化など環境問題を上手くファクターイン出来ていない可能性が高い」ということです。その要因として、地球温暖化などの環境問題は、世界的な枠組みといった「全員参加」が前提になるもので、国ベースでもアメリカが抜けてしまうような現状で、企業ベースで「全員参加」になることは大変難しいということがあるのでしょう。

1本目の論文にあるような、「ユニバーサルオーナシップに基づく行動」の中にある、「パッシブ運用でのエンゲージメント」であったり、「国際環境法」といった世界規模の枠組みで、「国際司法裁判所」が裁くといった、内から外からの施策の積み上げが急務ではないでしょうか。

 

最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。