証券アナリストジャーナル6月号やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは「議決権行使」の特集です。6月は3月末決算の企業が決算報告を出して、株主総会を実施する時期です。株主には、「議決権行使」のハガキが送られてくるシーズンですので、特集をするのに良い月なのではないでしょうか!

 

「議決権行使」と切っても切り離せない関係にあるのが、ダブルコードの一つ、「スチュワードシップコード」であります。「機関投資家」が責任をもって、投資している企業を監視したりすることによって、企業価値を向上させて、受益者の利益を最大化しようという狙いがあります。その中で、大きな役割を占める「本丸」とも言えるものが「議決権行使」です。

では、今月号を読み進めてまいります。

 

 

1本目の論文は、「スチュワードシップ・コードと機関投資家の役割ースチュワードシップ活動における議決権行使の重要性ー(上田亮子氏)」です。

「日本版スチュワードシップ」とよく言われますが、これはオフィシャルなワードで、金融庁は、2017年5月に、『「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫ ~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~』という題名でペーパーをリリースしています。

その中で、7つの原則というのがあります。以下に、引用します。

1. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

2. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

3. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。

4. 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努める べきである。

5. 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。

6. 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。

7. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。

上田氏は、「機関投資家の利益相反問題」、「機関投資家のガバナンスの強化」、「個別開示を通じた議決権行使の可視化」、「サービスプロバイダー」といったところに焦点を当て、議論を進めていきます。

「個別開示を通じた議決権行使の可視化」は、2017年版で進化しているところですが、議決権行使結果にかかる賛否理由を公表する機関投資家が20機関程度にとどまっていることが紹介され、機関投資家の対応がおそらくマンパワーなどの要因で進んでいないことが見えてきます。

一方、「サービスプロバイダー」は「議決権行使助言会社」などで、一定程度のアウトソースが出来ることで必要性が高まってくると個人的には感じますが、筆者は「議決権行使助言会社については、インベストメント・チェーンにおける位置づけが曖昧である上、わが国では当局規制もなく、顧客からの監督も十分でない。(後略)」と懸念を示しています。

各機関投資家は6月の議決権行使のシーズンをターゲットにして改善を目指していて、今年も改善されると考えられますが、マンパワーの問題、コストの問題を、乗り越えていかなければいけないという難しさを感じます。

 

後半には、英国における取組みが紹介されます。「議決権行使を含むスチュワードシップ活動の実態」や「19年英国版スチュワードシップ・コード改訂」について、「英国版コーポレートガバナンス・コードからのアプローチ」といった内容が書かれています。

「スチュワードシップ活動に力を入れている運用機関の中には、スチュワードシップ活動に関する年次報告書を作成し、具体的な企業名も公表して個別のエンゲージメントの内容(課題、プロセス、成果など)について公表するところも少ない」とありました。なかなか面白い取り組みで、日本でもそういったところがあるのか、興味を持ちました。

 

 

2本目の論文は、「議決権行使状況の開示についてー企業価値創造に向けた実効的な取組みー(井口譲二氏)」です。

この論文では、「投資家」と「企業」がどのように対話を進めていくべきかをクリアに示しています。

まず、「企業」から「投資家」へのキャッチボールですが、こちらは「企業開示書類」となり、具体的に「法定の有価証券報告書」「ガバナンス報告書」「任意の統合報告書」などが含まれると言及されます。これらの開示書類を投資家側がAIなどを活用して効率的に取りこむことが出来れば、マンパワー的な負担が減り、実効性が高まると考えられます。

次に、「投資家」から「企業」へのキャッチボールですが、こちらは「スチュワードシップ関連開示書類」となりますが、ここがまだ確立されていないことが浮き彫りになっている気がします。

 

本論文にはアイディアは豊富に載せられており、例えば、ICGN(International Corporate Governance Network)の “Model Disclosure on Voting” より筆者によって作成された「議決権行使の実効的な解時に必要な要素(主な内容)」といったものが提示されています。

加えて、「スチュワードシップ関連開示書類」の関係性を図に示していています。具体的には、議決権行使の「結果」などが開示される「個別開示資料」、議決権行使など、スチュワードシップ活動への取り組み「方針」が示される「スチュワードシップ・コードの準拠書類」、「議決権行使の判断基準」、「スチュワードシップ活動の振り返り資料」に分かれて書かれていて、実効性のある、実務的な分類であるように思えました。

 

終盤には、「実効性」と「実務上の課題」についてさらに提言が行われています。問題点を妥当性を持って列挙してあり、非常に参考になりました。

 

 

完全なる個人的な意見で、筆者の論文とは関係ありませんが、インターネット上で議決権行使に関する疑似投票ができるサイトなどがあると有益な気がしています。例えばですが、企業の議決権行使事案が出た段階で、有志がインターネット上に議案を上げ、有志が疑似投票や意見発表を行っていくというものです。もちろん、株主が投票するものではないので、実効性も何もないものですが、議論が行われて、何らかの結論に収束するような仕組みであればワークする気がしますが、いかがでしょうか・・・。

次の論文に進みます。

 

 

3本目の論文は、「議決権行使における企業年金の役割ー運用受託機関との対話力を高める方策ー(久保俊一氏)」です。

こちらは企業年金サイドにとって、議決権行使というものをどう考えどう取り扱っていけばよいかという観点で、かなりプラクティカルな内容になっている論文です。

「企業年金が抱える課題」としてマンパワー的な問題、昨今の運用対象の拡大に伴う業務負担などを挙げ、その後、「運用受託機関との具体的なやりとり」として、手取り足取りと言っても良いほどの、具体的なTo Doが紹介され、最後には「企業年金としての時間の確保」と題して一節を割くというフレンドリーな流れになっています。

 

 

4本目の論文は、「議決権行使個別開示データの分析(円谷昭一氏)」です。

議決権行使結果の個別開示が2017年に始まったということで、まだデータとしては初期データ的な段階ではあるものの、まとめてくださっている有難い論文です。この類のデータを見たのは初めてでしたので、大変興味深く拝見させていただきました。おそらく、証券アナリストジャーナルの読者の方も、初めて見たデータだった方が多いのではないでしょうか?

本誌の論文には、「主要投資家の議決権行使企業数」や「主要投資家の保有状況」といったデータから、「両社(三菱UFJ信託と明治安田生命)の取締役選任議案の反対行使率」といったデータが出ています。

 

そして、すごいというか、素晴らしいことに、この生データが筆者の研究室のホームページに公開されています!
(以下の写真のような感じ)

クリックすると、エクセルのファイルがダウンロードできるのですが、整ったデータから、様々な分析を行うことが可能ですし、個人的に面白いと思ったのは、フィルタリング機能を使って、ケーススタディ的な材料を抽出することでしょうか。例えば、「株主提案」で「可決」されている議案であったり、「50%」ぎりぎりの議案であったり、といったものです。

証券アナリストジャーナルを毎月読んでいて、いろいろな発見がありますが、今回の4本目の論文、かなり面白い、データに出会うことが出来ました。感謝です!

 

最後に!

今月の証券アナリストジャーナルは「議決権行使」という特集でした。

読み始めは、地味な内容だと勝手に思ってしまっていて、あまり期待していなかったのですが、読み進めていくと有益で面白い論文ばかりでした。スチュワードシップ・コード以降、実務面でも大きく動いている中で、4人の寄稿者の方のアツい想いが伝わってまいりました。

 

ということで、最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。