証券アナリストジャーナルやすべえです。今月の証券アナリストジャーナルの特集は「不確実性下の自社株買い」となっています。

意味深なタイトルだと思いませんか?

不確実性下での自社株買いは良いのか?悪いのか?気になります!

それでは読み進めてまいります。

 

1本目の論文は「自社株買いの内外の実態、理論の整理(山口聖氏)」です。

自社株買いに関する論文をまとめまくったものです。

日本の自社株買いの制度は、公開買付、流通市場での取得、相対取引、ToSTNeT-2とToSTNeT-3、といったものがあります。
米国の自社株買いの制度は、固定価格での公開買付、ダッチオークションでの公開買付、流通市場での取得、相対取引、ASR、といったものがあると紹介されています。

自社株買いの役割として、企業のFCFを削減させる効果を期待するFCF仮説、株価が安いというシグナルを発するシグナリング仮説、配当より自社株買いを投資家が選好すること、自社株買いが柔軟に出来ることから選択すること、などが書かれています。

様々な国/スタイル/切り口の論文をまとめていくのは難しいなぁと思います。うーん、なんか表でまとめたいです。

 

2本目の論文は「ペイアウト政策とコーポレートガバナンスの関係(篠﨑伸也氏)」です。

企業がペイアウト政策をどうしているか?と考えてみると、
①しっかりペイアウト政策を決めている企業と、
②なんとなくペイアウト政策を決めている企業
が二分されているというのが私の実感
です。

①「ガバナンス!ガバナンス!ガバナンス!」と掛け声をかけて、資本コストを意識した利益を重視して、配当や自社株買いに関しては利益の30%を目途に安定した配当を行い、株価に応じて機動的な自社株買いをやります!と明記できるような企業と、
②「前年踏襲!前年踏襲!前年踏襲!」と掛け声をかけているかは知りませんが、利益がどうなろうと、現預金が積みあがろうと、適当に同じ配当を出し続けていて、自社株買いなんて面倒な(?)ことはやらないという企業、
こんなふうに書いてしまうと、語弊を生みますが、極端な例に仕立て上げるとこの2種類かと。

 

これらをごちゃまぜにして分析すると、老後2000万円問題みたいな「平均で語れない話」となったり、恣意的に結果を求めたりすることになってしまうんではないかと危惧するところです。さておき。

 

本論文では、たくさんの変数を用いて分析をしています。結論としては、
①日本の企業の全体像としては配当を選択、機関投資家や外国人投資家の持ち株比率の高い企業では、自社株買いもやっている
②(ダブルコード発効以降)過去5年平均ROEや配当性向が低い企業は配当を選好
③(不確実性下で)機関投資家や外国人投資家は自社株買いを好む
となっています。

私の最初の実感に、こんな感じで少し推論が足せそうです。
・しっかりペイアウト政策を決めている企業=自社株買いをやっていたり、過去5年平均ROEも高かったりする→機関投資家や外国人投資家が好む
・なんとなくペイアウト政策を決めている企業=配当しか考えていなくて、過去5年平均ROEが低い→機関投資家や外国人投資家は敬遠
私はMBAでの論文で、ニッチな世界である「株主優待」について書いた(2020年)のですが、この推論についての検討だったらメインな世界である「自社株買い」でも面白い論文が書けそうな気がしました。

 

3本目の論文は「不確実性下における自社株買いによるEPS調整行動(島田佳憲氏)」です。

「自社株買いをEPS調整に用いて良いのか!?」と炎上してしまいそうな話です。

筆者は「はじめに」において、『期中に自社株買いを実施して分母の自己株式控除後の発行済株式数を減少させることで、EPSを上昇させることができる』と書いています。そして、続く「先行研究」において、『従業員ストックオプションの行使によるEPSの希薄化を緩和するために経営者は自社株買いを実施する』、『経営者の業績連動型報酬の指標にEPSが採用されている場合、当期EPSが前期EPS成長率を下回っている場合、そして期中に従業員ストックオプションが行使されてEPSの希薄化が生じる場合に、より多額の自社株買いを実施される傾向がある』といったことが言及されています。

 

「日本でもそんなことあるの?」と思いますが、2014年のアマダ(6113)で、似たようなことがありました。(完全に合法的な行為です。念のため)

JPX日経400という2014年1月から公表が始まった『企業の資本効率を示す自己資本利益率(ROE)、営業利益、時価総額の3つの指標を基とした定量的な指標を評点(Wikipediaより)』とする指数において、日経225銘柄であったアマダがJPX日経400に採用されないという出来事がありました。

この後、5月にアマダは、利益すべてを配当と自社株買いに充てるとして、資本の圧縮、ROE向上、時価総額アップを図りました。EPS調整行動に近いのではないかと思います。

この行動は賛否いろいろありましたが、現預金が積みあがっている企業、ペイアウト政策を資本効率の面で考えてこなかった企業への大きなメッセージとなりました。

結局、アマダは2017年にJPX日経400に採用され、今に至っています。

 

4本目の論文は「自社株買い公表後のリターンと流動性(河瀬宏則氏、井上謙仁氏)」です。

トレーダーにとって、自社株買いというイベントは、「企業の資本効率を向上させる・・・」という学術的なことよりも、「需給が変化して、株価が上昇する・・・」という収益獲得機会と捉えがちです。

3本目の論文で紹介したアマダについて言えば、利益すべてを配当と自社株買いに充てると発表した翌日の株価はかなり上がりました。
トレーダーはアマダの株価の推移を見ながら、次のアマダはどの企業だ!?と探していたことを思い出します。

 

この論文では、そんなトレーダーの自社株買いイベントの捉え方「需給が変化して、株価が上昇する・・・」について分析してくれているものです。

結論としては、『流動性の不足が公表後の異常リターンを説明するという仮説を支持している』となっています。

 

ここで、私のやっていた自社株買いトレード戦略を簡単に書いてみます。
まず、自社株買いが発表されましたら、プレスリリースをチェックしていきます。

①その自社株買いは、去年やっていたなど予見できたか?をチェックします。具体的には、その企業の過去のプレスリリースをさかのぼっていきます。
<YES→基本諦めて、来年以降、先回りでチャンスを狙う NO→②>

②買う数量、期間といった自社株買いで発表されるデータと、発表前の流動性データを使って、(独自に勝手に作った)流動性インパクトの数値を算出する。例えばですが、自社株買いをしたときに出来高の10%以上あるかが目安となります。
<数値が一定以下→基本諦める 一定以上→③>

③発表後の寄付の出来高、上昇幅を計測する。他のプレーヤーがどの程度参加しているかということです。
<まだ買える水準→買う オーバーシュートしていると見える水準→空売りする>

④自社株買いの終了タイミングを予測し、手じまいの売りや、空売りを行う。

という流れです。

「①のYES→基本諦める」のところですが、「来年以降、先回りでチャンスを狙う」という世界が大変面白くて、少し前から超過出来高が出ているかなどを計測して、先回り組がどのくらい参入しているかを考えてトレードしていました。不確実性下のマーケットだと先回りは少なくなるので、収益獲得機会が増えます。これは、インデックスの銘柄入れ替えでも一緒ですね。

 

完全に横道に逸れてしまったので、インデントしておきました・・・。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、スパッとした結論が見えてくる論文が少なかった気がします。

自社株買いの論文や分析はトレーダー時代にたくさん読んだり、実行してきましたが、平均で語ることの難しい分野と思います。
というのも、経営者の判断といった川上のところから、空売りのための株券調達ができるかといった川下のところまで、ケースバイケースで重要となるポイントが変わってくるからです。
つまるところ、決定的な分析を行うことが難しいのではないでしょうか。

 

何はともあれ、今月も論文執筆の方に感謝、論文選定の方にも感謝です。

そして、このブログをお読みいただきました皆さまにも、大感謝です。ありがとうございました。

動画版、ご覧になった方はお気づきでしょうか!?
今回から、マイクを新調しまして、音が良くなっていると思います!
そして、グリーンバックを多用して、動画の見栄えの向上を図りました!
(どんな緑色も透明になってしまうので、緑色の字などを使わないスライド作りが課題ですw)