今月の証券アナリストジャーナルの特集「人生100年時代の個人金融資産」です。

ここ数ヶ月の証券アナリストジャーナルの特集の中で、やすべえ的には最も興味を持った特集です。皆さんはどうですか??

それでは今月も読み進めてまいります!

 

1本目の論文は「高齢化社会と家計の金融経済行動(祝迫得夫氏)」です。

学会で最初の時間に行われる基調講演的な感じの論文でした。「人生100年時代の個人金融資産」というテーマで鳥の目で俯瞰していくと、どういった問題意識が見えてくるのか、また、どのような考慮すべき点があるのかということが書かれています。

 

私は、3番目に書かれている「公的年金改革の影響:自助努力による資産運用の重要性の拡大」を読みまして、大きな問題意識を持ちました。というか、再確認しました。

再確認した問題というのは、日本の年金制度は存続していくことはほぼ確実だが、給付の低下も確実であり、その結果、個人にとっての年金不安はより悪化したということです。年金不安は、漠然としたものもあるでしょうが、給付額の低下を恐れたものでもあるわけです。

給付額の低下は、「マクロ経済スライド」という制度によるもので起こりますが、これを簡潔に説明するのはかなり難しいです。しかし、避けては通れない問題ですので、如何にして個人にとっての年金不安を解消できるか?を常に心に留め、しっかりと説明していきたいと意識しました。

 

また、老後2000万円問題でもありましたが、平均で考えてはいけないというのも改めて思います。『最も所得・資産額が低い層の年金給付水準の低下に関しては、最終的には公的セーフティーネットで救済することにならざるを得ない』とありましたし、『ある程度の所得水準以上の家計については、老後の生活水準をそれなりのレベルに維持しようと考えるのであれば、私的年金を含んだ自助努力による資産運用がすでに不可欠になりつつあり、今後その重要性はより一層高まっていくだろう』ともありました。

 

終盤には、項目だけ拾いますと、『金融リテラシーの重要性とその限界』、『フィンテックが個人の金融資産形成ビジネスに与える不可逆的な変化』、『老後資金のための包括的な資産形成アドバイスサービス重要性』、『個人の資産形成ビジネスにフィンテックを導入することの潜在的問題』といった興味深い項目が並びます。

大きな視点で物事を捉えながら、私はその中で何ができるのか?
そんなことを考えることのできる意義深い論文でした。

 

2本目の論文は「海外との比較でみる日本の年金制度の課題と展望(野村亜紀子氏)」です。

1本目の論文も主張していましたが、『年金制度は存続するが、支給水準が低くなる』という問題があります。本論文では、年金の支給水準の問題について、海外と比較することによって、理解を深めていこうとします

まず、公的年金の所得代替率(現役時代の所得に対する年金給付の割合)についてですが、OECD諸国平均の39.6%に対し、32.0%と低いものとなっています。この公的年金の数値は、変えることが難しい所与に近いものなので、私的年金でカバーしていくべきという方向性が示されます。

次に、私的年金について、OECD諸国の中でどうなっている?という話になりますが、私的年金資産の対GDP比という尺度で考えます。こちらは、OECD諸国平均の49.7%に対し、28.3%となっていて、やはり低いものとなっています。この私的年金の数値は可変と考えて良いでしょう。

そこで、私的年金をどう促進していくか?という話に移っていきますが、いくつものアイディアが出てきます。一つ一つが議論の余地のある大事なアイディアだと感じました。

 

アイディア①:法令上の拠出限度額を引き上げる
『米国の2021年のDC拠出上限は年間5.8万ドル(約626万円)だった』
そうです。英国においては、『2021/22年度の年間拠出枠は4万ポンド(約600万円)、生涯拠出枠は107.31万ポンド(約1.6億円)だった』そうです。
日本は『企業拠出と個人拠出の合計で最大66万円という限度額』となっています。
拠出限度額を引き上げることで、私的年金への大きな波を作っていただきたい!

アイディア②:凍結中となっている特別法人税を完全に廃止する
『世界的に見て特異な年金税制』とあります。導入経緯を調べてみると、企業年金における事業主拠出掛金の課税繰り延べに対する課税のようです。しかし、何故か加入者拠出掛金についても課税されることになっているとのことです。
廃止をアピールすることで、私的年金への大きな波を作っていただきたい!

アイディア③:積み上げた資産を終身給付に転換できるようにする
『欧米ではDBの給付形態として終身年金が一般的』だそうで、DCでも終身給付への転換というアイディアが議論されているそうです。日本の金利環境を考えると、積み上げた資産(例えば2000万円)を平均余命の年数(例えば20年)で割った額(例えば100万円)より多く給付できるか微妙といった感じなのでしょうが、何か上手い方法は無いでしょうか?

 

論文の結びには、『諸外国から可能な限りの示唆を得て、施策を講じていくことが肝要であると考える』と書いてあります。本当にそうですね。。。

 

3本目の論文は「資産取り崩し期における夫婦二人世帯の適正支出(高岡和佳子氏)」です。

2本目の論文のアイディア③のように、終身給付に転換できれば良いのですが、それが叶わないとなれば、資産の取り崩しをどうするのかという話になります。本論文では、資産取り崩し期における夫婦二人世帯の適正支出を考えます

 

実践的に数字で答えを示していく流れになっています。例えば、夫婦二人で、それぞれの死亡年齢がどういった組み合わせになると、資産が枯渇するのかを計算してくれるのですが、専業主婦なのか兼業主婦なのかで大きく変わってくるといったことが分かります。色々なケースでの適正支出額の試算が可能です

しかし一方で、様々なファクター(余命の不確実性、資産運用の不確実性、物価の不確実性など)があるので、不確実性の塊であるファクターをかなり単純化した上で試算した適正支出額を信じることは難しいのではとも感じました。現実的には単純化して試算した額で1年といった短期の予算を組んでいって、走りながら対応していく感じになるのではないでしょうか?

短期で予算を見直していくとなると、加齢によって意思決定が難しくなってしまいます。うーむと考えていたら、次の論文のタイトルが「加齢が意思決定に与える影響」となっていました。流れるようなジャーナルの論文の構成に驚きました。

 

4本目の論文は「加齢が意思決定に与える影響(駒村康平氏)」です。

論文の著者の駒村康平氏は、金融ジェロントロジー研究の第一人者と言える方です。本論文、金融ジェロントロジーに関わっている方は「Must Read」かと思います!

 

さて、この論文では、「神経経済学」という言葉が沢山出てきます。英語で言うと「ニューロエコノミクス」です。残念なことに、日本語ではWikipediaの項目に無い言葉でした。学際的で新しい分野なのでしょう。

普通の「経済学」は、合理的な人が合理的な判断をしていく前提で構築していったわけです。しかし、実際に合理的にものごとは進まないわけで、「行動経済学」という非合理的な行動もあるよねという考え方が導入されていきました。そして、この「神経経済学」は脳の機能を見ていくことで、認知とか意思決定とかを解き明かしていきましょうというものになります。

「経済学」が理論(数式への落とし込み)であれば、「行動経済学」は人間外面(行動分析)からの研究、「神経経済学」は人間内面(脳の機能)からの研究、となるかなと思います。(違ってたらすみません!笑)

 

脳の機能でよく言われるのが、システム1という反応の早い情動系と、システム2という反応の遅い熟慮系です。システム2関連の部位は遅く成熟し、早く老化するという特徴があると言われます。

この脳の機能、脳の働き方というのは、意思決定に当然影響してきます。特に加齢時の意思決定が神経経済学の観点から考えることで分かってくるようなのです。具体的には、加齢時、損切りのような意思決定は出来るけど、確率的な判断が苦手になってくるということ、また、フレーミング効果のような誘導にハマりやすいことなどだそうです。大事な研究結果です!

 

そして、金融ジェロントロジーの観点から考えていきますと、資産管理や運用においては、若い頃に判断しなければいけない内容よりも、加齢時に判断しなければならない内容の方が、額が大きかったり、不確実性や複雑性が大きかったりするので、難易度が上がってきます。この問題をクリアしていくことが求められるわけですが、行動経済学的な観点に加えて、もう一つ、神経経済学的な観点においても考えていけば、より答えが見つかりやすくなっていくと思いました。今後のさらなる研究に期待していきたく思います。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、「人生100年時代の個人金融資産」という特集でした。いかがだったでしょうか?

年金制度は、古くからあるように思いますが、そんなことはなく、少子高齢化は各国が初めて対峙する課題となります。

個人としてどう行動していくかも大事ではありますが、社会として人々の人生を不安のない豊かなものにしていくためのデザインが求められています

 

何はともあれですが、本ブログ、最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

動画版は、少し考えをまとめてから、ブログ版とは違った形でお届けしようと思っています。アップしましたら、こちらに追記します)

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