今月の証券アナリストジャーナルの特集は「コロナ禍の経済・金融市場ー財政・金融政策リスクの観点から」です。

今年1月の証券アナリストジャーナルの特集が「アフターコロナの経済・金融市場」でしたので、今年2回目のコロナ関連の特集となりました。

それでは今月も読み進めてまいります!

 

1本目の論文は「コロナ危機と財政をめぐる課題(小黒一正氏)」です。

著者の小黒さんは、2010年に「2020年、日本が破綻する日」というちょっと物騒なタイトルの本を出していらっしゃる方です。その本には、「このままでは日本が10年以内に財政が破綻する」というメッセージがこめられています。今は、2021年・・・。さておき・・・。

本論文の序盤で著者は、「社会保障給付費の推移と将来予測」「国の一般会計予算(歳出・税収)の推移」「国債の市中発行額の推移」のグラフを提示します。
それぞれ、「社会保障給付費がどんどん増えている」「コロナ禍で歳出が急増したが、2021年度予算は緊縮的な予算となっている」「コロナ禍で短期の国債で調達しているので、発行額が多額である状態が続く」といったような解釈がなされます。
その直後、国債流通市場における海外投資家の売買シェアが増えているので、「できる限り国債の国内消化に努めるとともに、日本財政に対する信認を向上させる必要がある」と主張しています。

私は、最後の部分、「できる限り国債の国内消化に努める」に疑問を持ちます。というのも、世界を見渡して、国債を国内消化していなくても、立派に経済成長をしている国はいくらでもあるからです。

 

論文の後半部は、世代会計についての議論で、つまるところ「若者は損をする」という話です。

若者が損をする理由として、財政赤字を増やすインセンティブとしても共通しますが、①政治的景気循環、②政治家の戦略的動機、③共有資源問題、④シルバー民主主義仮説、が挙げられています。

終盤にはその改善策が提案されます。「政治的意思決定の時間視野を長くする選挙制度」として、「世代別選挙区制(世代ごとに議員数を配分)」「ドメイン投票制(子供に選挙権を付与する)」「余命投票制(平均余命に応じて議席数を配分)」といったものがあり、私は「余命投票制」に可能性を感じました。

「余命投票制」は、青年区、中年区、老年区、というように分けて、平均余命に応じて議席数を割り振るというものです。「子供は大事!」と言うだけでなく、政治の世界に若者の活躍を促す「仕組み」として導入し、若者が損をしないような世の中にしていくべきと思います。

 

2本目の論文は「事実上の財政ファイナンスと積極金融緩和策による金融市場の歪み(木内登英氏)」です。

「財政ファイナンス」とは、中央銀行の刷ったお金が直接政府に渡ることと定義できるでしょうか。または、これに近いことも「財政ファイナンス」とみなせると思います。
具体的な「財政ファイナンス」の流れとしては、政府が国債を発行して資金を調達する中で、中央銀行がその国債を直接買ってしまう、またはそれに類似した行為となりましょう。

そんな「財政ファイナンス」、政府はいくらでもお金を刷ってもらって、いくらでも使うことができる・・・。夢のよう???しかし、財政規律が保たれない・・・。そして、国の通貨の発行量がどんどん増えて、通貨の信認が問われる・・・。インフレになる・・・・。ハイパーインフレになる・・・・。ぎゃーーーー!!!というシナリオになります。

 

本論文では、このコロナ禍で事実上の財政ファイナンスの様相が強まっているということを示しています。

3章にはIMFの世界経済見通し(2021年4月)の引用があります。「先進国と新興国を合わせて27カ国・地域の中央銀行が2020年に資産買い入れ策を実施している。そのほとんどが、初めての導入である。」とあります。

上記リンクから辿れるレポートを読んでいくと、ガーナ、インドネシア、モーリシャスは財政ファイナンスであると公式に表明、ブラジル、チリ、ハンガリー、モーリシャスは国債に限らず社債なども購入、エジプトは株式を購入、といったことが書いてあります。もはや、資産買い入れは非伝統的政策とは言えないレベルで広がっていることが分かりました。

 

この論文では、(意外ですが)米国の金融緩和度が先進国の中で突出しているとして、金融緩和の解消に十分注意していかないといけないと主張されます。「中央銀行が政府と明示的に強調する形で、金融・財政の一体的な正常化を進めていくことが必要となる」と結んでいます。

 

3本目の論文は「コロナ禍における政策支援と景気および株価の関係(市川雅浩氏)」です。

本論文は、2020年1月から2021年5月までの期間を四つの局面に分けて、コロナ感染状況と主要株価指数の動きを分析していくと言うものです。
それぞれ、①「コロナショック発生局面」、②「政策支援局面」、③「米大統領選挙局面」、④「ワクチン普及局面」として、分析していきますが、①の局面で大幅に下落してから、②③④の局面では、コロナ感染拡大の影響を受けずに株価は上昇しています。

景気が落ち込んでも、大型の経済対策や、金融緩和の強化で、いずれ景気は回復するとの見方が出てきて、株価は景気回復の前から上昇していくということが見えてきます。

 

後半には、多変量自己回帰モデルが用いられ、金融政策がどのような金融商品に影響を与えたかを分析していきます。

具体的には、金融政策が進む(FRBの証券保有残高が増える)時グロース株は1週間後からプラスの効果が出てくると分析され、総じてプラスの効果があります。一方、バリュー株は当該の週は大きなマイナスで、次の週からマイナス分を取り戻すような形で効果が表れるとなっています。また、10年国債利回りは金利低下(債券価格の上昇)の効果を即座に得るとなります。

この結果は、私としては直感的に、「10年国債利回りが低下したから、将来の利益を重視するグロース株は現在価値への割引率の低下で大幅に価値が高まりプラスの効果があって、現在の利益を重視するバリュー株は現在価値への割引率の低下はあまり関係がないのでグロース株への資金流失もあってマイナスの効果になった」と思ったのですが、どうなのでしょうかね!?

何はともあれ、この後半部の分析は、かなり興味深いものでした。

 

4本目の論文は「コロナ禍における株価形成の合理性(鈴木雅貴氏)」です。

この論文は、配当先物価格を使って、コロナ禍における株価形成の合理性を調査するというものです。

結論としては、将来配当の期待は、コロナ禍における株価形成に対して説明力は無いとなります。

3本目の論文で、金融政策が進む(FRBの証券保有残高が増える)時に、金融商品がどう影響を受けるかという詳細な分析を読んでしまった後だったので、配当の影響はないかなと想像してしまったので、「まぁそうだろな・・・」という感じで読み進めておりました。

 

 

動画版は・・・

動画版は、ジャーナルの特集のテーマと少し離れますが、動画の4分23秒から『「余命投票制」で「若者が損をする」問題を解決したい』と題して、1本目の論文で出てきた論点について考えています。ぜひご覧ください!

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、「コロナ禍の経済・金融市場ー財政・金融政策リスクの観点から」という特集でした。

マクロ的な分析ももちろん大事なのでしょうが、3本目の論文でのバリューとグロースで分けてみるといったところがヒントになりましたが、ミクロ方面に近づく分析の方が大事なのかもしれないと思いました。

産業構造の変化を探ったりですとか、人間の行動の変化を探ったりですとか。

具体的には、業種別の売上高利益率や成長率が変わってくることで、バリュエーションの見直しが起こるというレポートを出したら面白いのではないでしょうか。

↑どなたか、分析してみませんか!?