やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『スタートアップとベンチャーファイナンス』という特集です。

このブログの執筆中にシリコンバレーバンク(Silicon Valley Bank、SVB)が破綻するというニュースがありました。
スタートアップのエコシステムにとって重要な一つのピースであると考えられ、今後の影響が懸念されます。

今回の特集のテーマは、SVB破綻の一件にかなり近い界隈での話が含まれています。
しっかりと読み進めていこうと思います。

 

1本目の論文は『ベンチャーファイナンス市場の動向と現状─この20年を振り返る─(小野正人氏)』です。

1本目の論文らしく、概観的なことが多く載っていて、参考になりました。

まずは「スタートアップとベンチャーファイナンス」という特集を読むにあたって知っておきたい、ベンチャー投資の市場規模についての話が出てきます。
世界でのベンチャーキャピタル運用資産(2021年)は1.68兆ドルとなっています。巨額です。
ベンチャーキャピタルの年間投資額はアメリカがダントツで3328億ドル、カナダ88億ドル、イギリス52億ドル、ドイツ47億ドル、韓国47億ドル、日本30億ドルとなっています。
そして、アメリカの年間投資額の伸びは2007年と比べると8.7倍と顕著で、日本の1.7倍、イギリスの2.5倍、ドイツの4.3倍、カナダの5.1倍、韓国の5.8倍よりも大きな数値となっています。
アメリカのベンチャー市場はもともと巨大マーケットでしたが、いまや超巨大マーケットになっているという印象を持ちました。

 

量的な面が分かったところで、質的な面はどうなっているでしょうか?
本論文では、日本のベンチャーファイナンス市場についての言及があり、
「日本のベンチャーファイナンスはポジティブな構造変化が認められる」と書かれています。
①VCの世代交代が進み、独立系VCが業界をリードしている
②スタートアップ企業と事業会社や金融機関が連携する、共創活動が広がっている
といった具体例が出ています。
事業会社のVC、いわゆるCVCがここ最近は増えていて、2018年度以降の設立数で独立系VCの数をCVCが上回ったというデータもありました。

 

終盤には、日本のベンチャーファイナンスにおける欠落点と課題が書いてあります。
「機関投資家のオルタナティブ投資への消極姿勢」、「機関投資家に提供する情報ソースの拡充」、「開かれた市場でのパフォーマンス競争」、「早すぎるIPO志向、IPO後の成長停滞」といった言葉が並んでいて、言うは易し行うは難しですが、問題意識を持ち、解決していかなければならない事項です。

官の力だけでも、民の力だけでも、課題解決は難しい、まさに官民のタッグが必要なエリアだと再確認しました。

 

2本目の論文は『日本のスタートアップ・エコシステムは次のステージに進むことができるか─スタートアップ政策の新展開─(石井芳明氏)』です。

本論文の著者は経済産業省の方で、スタートアップ関連の政府の政策について、総合的に知ることが出来るものとなっていました。

3つの政策が紹介されていますが、1つ目に紹介されている「J-Startup プログラム」は、グローバルに展開して競争に勝てる潜在力のある企業、世界に新しい価値を提供できる企業を選定し、政府支援や民間の支援を集中して成長促進するプロジェクトだそうです。188社が選定されていて、「てらこややすべえ株式会社」は入っていません!(当たり前やんけ!)

次に、「日本版SBIRプログラム」というのが紹介されています。SBIRはSmall Business Innovation Researchの頭文字を取ったもので、わが国のイノベーションを推進するために中小企業やスタートアップに機会を提供するという方向で行われているものです。

最後に、「スタートアップ・エコシステム拠点都市」というものが紹介されています。HPによれば、スタートアップや支援者の一定の集積と潜在力を有する都市において、地方自治体、大学、民間組織等が策定した拠点形成計画を認定するというものだそうで、制度や概念だけでは始まらないから、拠点都市を認定してヒト・モノ・カネを回していきましょうといったものと考えられます。

(それぞれ、リンクをクリックしていただくと、一次情報を見ることが出来ます!)

 

4章では「スタートアップ育成5か年計画」と題して、3つの柱である、
①スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築、
②スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化、
③オープンイノベーションの推進
が説明されています。

 

1本目の論文の感想に近いですが、この論文で提示されている官の動きがトップダウン的なものでは無く、トップダウンとボトムアップを包み込むようなサポートであれば良いなぁと感じました。
これらの政策だったり、民間の努力だったりを見て、「うまくエコシステム回って無いなぁ・・・」と思うところが強いので、なおさらです。(半分愚痴です!笑)

 

3本目の論文は『内外機関投資家のベンチャー投資とパフォーマンス特性分析(山浦厚能氏 / 藤井春登氏)』です。

機関投資家として、VC(ベンチャーキャピタル)、PE(プライベートエクイティ)にどう向き合っていくべきか?を考える上で学びになる論文でした。

①投資規模、②リソース、③ガバナンス構造、④優良ファンドへのアクセス可能性の4点が、投資モデル策定において重要な要素となると書かれています。分かりやすいフレームワークだなと思いました。
これら4点の事実検証によって、どういった投資家になり得るのかという結論が見えてきそうです。

2章では、「パフォーマンス実績」と題して、様々なアセットクラスのリスク・リターン実績が示され、VC、PEが構造的なアルファのある投資対象であると主張されています。
実績なので未来においてもそうなるわけではありませんが、機関投資家としては、この実績を無視してはいけないでしょう。VC、PEという投資対象にしっかりと向き合っていく必要があると感じました。

良質な情報提供に感謝です。

 

4本目の論文は『社会課題解決型スタートアップとファイナンス(岩崎薫里氏)』です。

本論文は、社会課題解決型スタートアップに関するプレーヤー(登場人物)の名前やプレーヤーのやっていることが多く書いてあり、参考になりました。

2章「米国の動向」では、医療関係のベンチャー企業「Lyra Health」、気候変動に挑むスタートアップ「Aurora Solar」について様々な情報があります。
3章「多様化する資金調達先」では、インパクト投資を専門に行うインパクト投資VCとして「SJF Ventures」「Double Bottom Line Partners」「Breakthrough Energy Ventures」が紹介されています。

また、新しい投資手法として、Revenue-Based Financingといった手法が載っていました。ソーシャルレンディング的なものかもしれませんが、投資先の売り上げに応じて投資資金を回収していくスキームのようです。

 

また、この論文に近い内容かと思いますが、日本総合研究所「JRIレビュー Vol.9, No.93」「社会課題解決型ビジネスを切り拓くスタートアップ-欧米スタートアップのデジタル・イノベーションからの示唆」というものが参考文献にありました。このリンク先には動画もありますので、参考になります。

 

余談ですが、私のやっている大学でのゼミ活動を「社会課題解決型スタートアップ」と捉えて考えてみると、スタートアップ当事者、スタートアップをサポートするサイド、双方の難しさを感じます。
「無から有を生み出す」ような生みの苦しみは、エフェクチュエーション的な考え方が馴染みますでしょうか。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『スタートアップとベンチャーファイナンス』という特集でした。いかがだったでしょうか?

スタートアップ界隈で頻繁に使われる言葉として「エコシステム」という言葉がありますが、無から有を生み出す特別な繋がりなのだと理解しています。
そんな「エコシステム」の一端を担っていたシリコンバレー銀行が破綻したということで、米国のスタートアップエコシステムはどう変わっていくでしょうか?

リスクマネーの供給が滞り、「スタートアップ界の失われた10年がはじまった」などと、言う人も出てきそうですが、一方で、アメリカのレジリエンスの強さを考えれば、より強固なエコシステムが出来上がってくる可能性もありそうです。今後を見守っていくしかないですが、事実とデータをしっかりと見て、確からしい答えを導き出し、その答えを基に確からしい行動が出来るようにしたいと思っています。

 

ということで、今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!