やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『日本の公的マネー』という特集です。
将来のことは誰にも分りませんが、現在までの事実とデータを押さえることは、将来の見通しをより確からしいものにするでしょう。
今回の特集では、日本の公的マネーについての現在までの事実とデータが豊富に収集されています。
自分なりに、将来の確からしい答えを考えながら読んでみてはいかがでしょうか?
それでは、1本目の論文からまいります!
1本目の論文は『株式取得に関連する日本の公的マネーの分析―その株式取得の歴史・現状ならびにその功罪について―(光定洋介氏)』です。
題名の通りではありますが、株式取得に関連する日本の公的マネーを4つに分類して、分析している論文になります。
一つ目は、日本銀行によるETF購入です。
2010年に開始された「包括的金融緩和政策」のもと、「リスクプレミアムの正常化」を目的として、4500億円の枠でETF購入が実施されました。これがスタートとなります。
2013年には、「量的・質的金融緩和」が開始され、「資産価格のプレミアムに働きかける」という目的の下、1兆円の年間購入限度枠が設定されました。
この購入枠は、2014年に年間3兆円になり、2016年に年間6兆円になり、2020年には年間12兆円となりました。
トータルの保有額は時価ベースで51.3兆円にもなっており、東証プライムの時価総額が700兆円と考えると、その割合は7%超となっています。
購入したETFについての出口問題については3本目の論文で提案がありますので、ご参照ください!
二つ目は、GPIF等の公的な年金基金です。
2014年10月に基本ポートフォリオ見直しが行われ、国内株式の割合は12%から25%へと引き上げられました。
GPIFの全体の運用額は190兆円となっており、その4分の1が国内株式で運用されているという計算です。
GPIF以外にも、国家公務員共済組合(KKR)、地方公務員共済組合、私学共済組合、といった公的年金基金の資産が本論文によると32兆円あり、巨額の運用が行われています。
三つ目は、各種の官民ファンドです。
4本目の論文で「官民ファンドの再構築」が主張されており、詳しくはそちらで書こうと思います。
官民ファンドのメリットとして、「政策的な意義のある投資分野への投資が可能」、「民間資金の呼び水効果が期待できる点」が挙げられています。
デメリットは・・・民業圧迫リスクなど、いろいろとあるようです。
四つ目は、大学10兆円ファンドです。
こちらは2本目の論文で、いろいろなデータが出てきます。
こちらも、メリット・デメリットが色々と書かれていましたが、レバレッジをかなり効かせている大学10兆円ファンドの基本設計に驚きました!
また、日経新聞に「大学10兆円ファンド、国私立10校申請 秋に数校選定へ」といったニュースがつい最近出ていたところですので、ホットな話題かと思います。
大変学びになる論文でした。有難うございます。
2本目の論文は『動き出した大学ファンドへの期待と懸念(原田喜美枝氏)』です。
大学ファンドは2020年12月に閣議決定された第3次補正予算案から始動したものだそうです。
この論文では、大学ファンドへの期待と懸念が書かれています。
以下は、私の考えになります。
①レバレッジをかなり利かせている大学ファンドの仕組みに驚きます。
2020年度、エクイティ部分として補正予算で5000億円調達、デット部分として、財政融資資金で4兆円調達、
2021年度、エクイティ部分として補正予算で6111億円調達、デット部分として、財政融資資金で4兆8889億円調達、
ということで、総額10兆円のうち、エクイティ部分は1兆1111億円となっています。
財政融資資金は「40年償還(うち据置期間20年)、元金均等償還」とありますので、据置期間が終了した時点で、8兆8889億円の20分の1+利息分を返済していくということになります。
これはまるで20年後に作動する時限爆弾のような気がしますが、どういった策で償還分を埋めていくのかは、しっかりとした計画がまだ策定されていないようでした。
②運用利回りの要求が厳しいことから、リスクを大きく取ることとなり、エクイティ部分が毀損される可能性が懸念されます。
この大学ファンドは、年間3%を大学に配賦、そして物価上昇分の年率1.38%を加えた4.38%/年の運用利回りが要求さるのですが、運用の基本ポートフォリオは、グローバル株式65%、グローバル債券35%というアグレッシブな配分になっています。
具体的な指数として、株式は、「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み)」、債券は、「FTSE 世界国債インデックス」が挙げられています。
以下は、ざっくりとした試算ですが、
MSCI ACWIの年率のリターンは8-10%くらい、リスクは18-20%くらいありますから、1.5σ悪い方に動くと、株式のみでは20%近くやられることになります。ポートフォリオの65%が株式ですから、トータルで見ると、13%近くやられることになります。
WGBIで3%近くのリターンを出したとしても、トータルで見ると、1%程度しか貢献しません。
ということで、この例の場合、12%のロス(10兆円であれば1兆2000億円のロス)となりますので、1.5σイベントが発生しただけで、エクイティ部分が吹っ飛んでしまう計算になります。1.5σイベントは6.7%くらいの確率で発生する事象と計算されますが、これで良いのでしょうか・・・。
3本目の論文は『日銀ETFを活用した資産運用立国への道―異次元金融緩和の遺産を国民益の長期的な拡大に―(井出真吾氏)』です。
著者の井出真吾氏は、4月5日のモーサテに出演され、この論文について紹介していらっしゃいました。HOTです!
読み進めていく中で、この論文の大きな主張は第4章「資産運用立国への道ー大学ファンドを参考に日銀ETFを活用」というところかと感じました。
日銀ETFの活用は、3ステップで書かれていて、第1ステップは、第三者機関が設定する新ファンドに日銀からETFを移管し、運用を継続することになります。
その資金は永久債で調達する方法や、借り換えを前提に財投債で賄う方法が議論されています。
リスクに関する議論はしっかりとしないといけませんが、当面売らないということを前提とすると、日銀からオフバランスするにはこの方法くらいしかないのかなと思うところです。
第2ステップは、個別株に交換してコスト圧縮とエンゲージメント強化を図るというものです。
ETFの信託報酬が不要になることで年率0.05-0.08%程度のコストの圧縮が見込まれ、個別株を持つことでエンゲージメント強化が可能になります。
エンゲージメントについては、国の意向が反映できることになるので、日本をどう発展させるかという観点で活用出来ることになるでしょう。
これは仕組み次第では非常に面白いものになりそうです。
第3ステップは、「さらなる発展へ」として、対外投資への拡大を例として挙げています。
筆者は、ここまでくれば「日銀ETFの処分」を超えて「資産運用立国の実現」といえるとしています。
夢のような話にも聞こえますが、せっかく購入した株式の生かし方としては、一案と言えるのではないでしょうか。
4本目の論文は『官民ファンドの再構築―政府の失敗を是正するために―(田中秀明氏)』です。
『官民ファンドの最大の問題は実施機関が17もあり、作り過ぎたことと考えている。』という著者の主張が何とも力強いです。
作りすぎたデメリットとして、『その結果、支持対象が重複し、お互いに競合している。』とバッサリ書いています。その通りなのでしょう。
そして、『利用する側も、どの官民ファンドに相談に行くべきかを悩むだろう。』という利用者側のデメリット、『投資先の吟味や洗濯を行う投資人材が不足している問題もある。』という運用サイドのデメリットも書かれています。
「厳しいーーー!」と思うところですが、「官民ファンドの目的と対象分野」という図表や、その他の言及を読んでいると、その通りと思ってしまうところです。図表より、官民ファンドと監督官庁のところを引用しますと、以下のようになります。
産業革新投資機構(経済産業省)
INCJ(経済産業省)
地域経済活性化支援機構(内閣府など)
農林漁業成長産業化支援機構(農林水産省)
民間資金等活用事業推進機構(内閣府)
海外需要開拓支援機構(経済産業省)
海外交通・都市開発事業支援機構(国土交通省)
海外通信・放送・郵便事業支援機構(総務省)
日本政策投資銀行における特定投資業務(財務省)
脱炭素化支援機構(環境省など)
中小企業基盤整備機構(経済産業省)
国立研究開発法人科学技術振興機構(文部科学省)
官民イノベーションプログラム(文部科学省)
耐震・環境不動産形成促進事業(国土交通省、環境省)
地域脱炭素投資促進ファンド事業(環境省)
多い・・・。
この他、KPIの設定や、財務についても問題点が指摘されています。
どう改革していくかは具体的には書いてありませんが、数は半分以下で十分でしょう。
海外では、いくつかのファンドが並行運用されていても、窓口が一元化されているなど、利用者の利便性が考えられているようですので、速やかに改革すべきかと思います。
作った党としては、動きにくいのでしょうが・・・。
最後に
今月号の証券アナリストジャーナルは、『日本の公的マネー』という特集でした。いかがだったでしょうか?
1本目の論文に書いてありましたが、『米国では、公的資金はTax Payers’ Moneyと呼ばれている』そうです。
「納税者のお金」を有意義に使ってくれているのか?当然気になるところです。
公的マネーに限らず、どんなお金でも使い方は大事ですが、公的マネーは額も大きく、国の浮沈を決めかねない事項ですので、しっかりやっていただかなければなりません。
今月号の証券アナリストジャーナルが、日本を良き方向に動かしてくれることを願ってやみません。
ということで、今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
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