やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『再考・安全資産としての日本国債』という特集です。

 

「日本の財政って大丈夫なんでしたっけ?」と質問されて、明確に答えが出せる方は少ないのではないでしょうか?

これは未来の問題であり、ゆえに答えが決まっているわけでは無く、データや事実から確からしい答えを模索する限りとなりますので、明確な答えというのは無いのかもしれません。

しかし、データや事実から確からしい答えを導き出すということは、非常に大事なことですし、今月の特集はそのための有力なガイドとなっている気がしています。

それでは、1本目の論文から、読み進めてまいります!

 

1本目の論文は『クレジットの視点からみた日本国債の留意点(中空麻奈氏)』です。

目次を紹介しますと、①ソブリン債、日本国債の格付けとは②日本国債の市場規模と金融政策③日本国の信用格付の意義と妥当性④債務動向の混乱による格付けへの影響⑤債務膨張を阻む仕組み・予防線⑥予想される格付け機関の動き、⑦日本が格下げを避けるべき理由⑧これからの課題、という8つになっています。

まずは、これだけ議論されていることに感謝です。

米系格付け機関(ムーディーズ、S&P、フィッチ)による主なソブリン格付けにおいて、主要国の状況はどうなっているか?(日本はA+やAとなっています)や、そもそも格付けってどういったものなの?(当該発行体が発行した債券が3~5年先の償還日に償還される確からしさを示すもの)といった基礎的だけど超重要な知識についても教えてくださっていて、一読するだけで一生役に立つ感じです。

 

読んでいて、沢山マーカーを引いたのが④債務動向の混乱による格付けへの影響⑦日本が格下げを避けるべき理由⑧これからの課題についてです。
④では、トラス政権の財政の混乱に起因して英国の格付けが格下げ方向で見直されている話、フランス政府が財政にポジティブな政策を行っても国民に受け入れられず格下げされることが明らかになった話があり、格付けを維持する難しさを感じます。また、ギリシャの格付けの格下げのスピードが速かったという話は、信用創造から信用収縮への変化がリニアなものでは無く、2次関数、3次関数的な急変局面になることを物語っていて、一旦動き始めたネガティブスパイラルを立て直すことが非常に難しいということを痛感します。

⑦では、「シングルA格にとどまる限り、実際には大きな影響をもたらすことはないであろう。しかし、これがトリプルB格、ダブルB格まで格下げされることがあれば、話は全く異なる。」と書かれています。その影響について、具体的に5点書かれているのですが、5点とも、非常に怖い内容です。

⑧はまとめとなるパートですが、「印刷して、いろいろなところに貼っておきたい!」という感じの、心に留めておくべき重要なメッセージが入っています。
「着実な経済成長」「財政再建の御旗を降ろさない心構え」「新しい支出には裏付けとなる財源を用意」「再びのダブルA格、トリプルA格を目指すべき」などなど、ありました。
読者の皆様は、どのワードをどこに貼りますか!?(笑)

 

2本目の論文は『英国の国債市場と政策対応─2022年秋の混乱からの教訓─(石川純子氏)』です。

著者の石川純子さんは、イギリスの政治・経済・マーケットに明るい方で、モーサテでもいつも分かりやすい解説をしてくださっています。感謝です!
本論文では、イギリスの国債市場の概観、先のトラス政権の財政の混乱に関する当局のファインプレーについてなどが書かれています。

まず、債券畑の人には常識なのかもしれませんが、イギリスの国債市場がユニークであることに驚きました。
具体的には、償還年限の長さです。通常の固定利付国債は、7年以下の短期が約3分の1、7年超15年以下の中期が約3分の1、15年超の長期が約3分の1といった割合だそうで、物価連動国債の平均償還年限も17年と長いです。こういった市場になった歴史的背景など、おそらくあるのでしょうが、知ってみたいなという気持ちになりました。

そして、英国債市場の混乱については、「財源無き減税」「バラマキ政策」を、予算責任局の中立的評価を要請するという慣例を行わないという「イレギュラーな方法」で行ったとして、混乱後の政府の対応、中央銀行の対応が事実ベースで書かれています。こちらも非常に勉強になりました。

 

3本目の論文は『異次元緩和がもたらした国債需給構造の変化(森田長太郎氏)』です。

題名どおり、「異次元緩和がもたらした国債需給構造の変化」について書かれた論文ですが、アブストラクトが、ビックリするくらい分かりやすい文章となっていました!

異次元緩和は長期金利の低下を促すことを主眼とした政策であり、その影響は国債の需給構造と投資家動向に甚大な影響を及ぼした。特に、異次元緩和前に国債の最大ホルダーであった民間銀行と日銀のシェアが過去10年間でほぼ逆転しており、今後の正常化プロセスにおいては、銀行の国債保有の回復がどのように円滑に進捗するかが大きな要素となる。

イールドカーブが正常化することによって、銀行が外債から国内債への資金回帰のフローを大きく発生させる可能性や、国債デュレーションを長期化させていた地方銀行が相応に影響をうけること、生保の超長期国債需要の変化など、データと事実から見えてくる確からしい答えが浮き彫りになる、(2本目の論文に引き続きですが)非常に勉強になる論文でした。

 

4本目の論文は『「異次元緩和」と国債大量購入─真の問題は何か─(田中隆之氏)』です。

「異次元緩和」などと言われる、「非伝統的金融政策」について、大量資金供給、大量資産購入(長期国債の買い入れ、多様な民間資産の買い入れ)、フォワードガイダンス(長期金利低め誘導、インフレ期待形成)、貸出誘導資金供給、マイナス金利政策、という分類をしていて、まずはフムフムと学ぶところですが、本論文の最大の見どころは終盤の「どうする植田日銀ー使命と展望ー」というパートにありました。

そこでは、植田日銀の今後の実行可能性として、『第一は、10年物誘導水準の引き上げ、ないし許容幅の拡大である。後者の方が現実的であり、例えば現行の「0%±0.5%」を「±1.0%」にするものだ。』と書いてあります。
「え!?書いてある通りに既にやったじゃないですか?」と思うところですが、この論文は7月19日に記されたということですので、7月28日の日銀金融政策決定会合の内容を予見していたことになります。

となると、その実行可能性の第二、第三が気になるところですが、こう書かれています。
『第二の途は、現行10年物金利に誘導目標を設定しているが、これを5年物、あるいは3年物に短期化する。』
『いずれの場合にも、次のステップで目標の設定をやめる(YCCを撤廃する)ことになる。』

さて、この予言通りに物事は進むでしょうか?毎回の日銀金融政策決定会合が楽しみです。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『再考・安全資産としての日本国債』という特集でした。
いかがだったでしょうか?

4本の論文を読んでみて、「国の舵取りは、企業の舵取りよりずっと難しい」と思った次第です。
企業であれば、高度経済成長の時代から安定成長の時代へと変化してきたことを受けて、人員や負債を縮小してコンパクトな会社にするのでしょう。
一方、国の場合は、人員を縮小するわけにいかないですし、定年退職で関係性が断たれるということは無く、社会保障費用が増大する中で、収入が際立って増えることも無いので、負債比率を減らすことも叶いません。

とは言え、国はお金を借りているという立場なので、借りた金をどう返済していくか、戦略的にどう貸し借りをマネージしていくのか、しっかりと考えなければいけません。
中空さんの論文では、「クレジットの視点から見た日本国債市場は、どうにも行き当たりばったりの状態から抜け出せていない。その割には日本国債の格付けが数年間シングルA格で放置されてきたのはもはや奇跡的にうまくいった、だけである。」と言っています。悪いシナリオに進んでしまうのか、少しでも良いシナリオに進もうと尽力する「日本国スゴ腕CFO」が現れるのか?しっかりとウォッチしていきたいと思います。

 

ということで、今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!