やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『不動産投資 ―J-REIT創設からポストコロナまで―』という特集です。

J-REITが東証に上場したのが2001年9月ということで、20年以上が経ちました。
振り返ってみると、J-REITは、「新しい商品」という位置付けから、本当に順調に成長し、今や「定番商品」になりました。感慨深いものがあります。

J-REIT創世記には、銘柄コード8951、8952からスタートしました。
銘柄コードの空き番号的に30から40銘柄くらいで打ち止めなのかなと思っていましたが、2006年くらいだったでしょうか、3200番台が使われだして、近年では2900番台も使われていて、60銘柄を越えました。スゴいですよね!

今月は、そんなJ-REITを含め、「不動産投資」に関する特集です。
4本の論文を1本ずつ、読み進めてまいります!

 

 

1本目の論文は『不動産証券化市場の歩みと今後の課題(田邉信之氏)』です。

1本目の論文に相応しく、初歩的な理解が進む「不動産を中心とした歴史の紹介」がメインとなる論文です。

85年のプラザ合意から円高不況となり、5回にわたる公定歩合の引き下げで、87年2月には公定歩合が2.5%となり、カネ余りからバブルに
89年5月からバブル抑制に動き、90年3月の総量規制、90年8月には公定歩合が6.0%まで上がり、バブル崩壊に
その後、法制度の整備などにより、資産流動化型証券の普及資産運用型証券の普及J-REIT市場の創設・成長と歴史が続いていきます。

「土地神話」といった、今思えばちょっと「?」な「値上がりするから買う」時代から
キャッシュフローベース(収益ベース)のプライシングをして、需給などで価格が調整される時代に変遷していった時と重なりますでしょうか。

歴史を学べる、ありがたい論文でした!

 

少し本論文からは逸れますが、リーマンショックの時、REITマーケットは7割くらい下落しました。(7割というのは驚きですが、天井に行く前の上げ方が急だったことが影響しています)
その中で、ニューシティ・レジデンス投資法人というJ-REITが民事再生法を申請しました。覚えている方も多いのではないでしょうか?

民事再生法申請までの経緯としては、当時、ニューシティ・レジデンス投資法人は、大規模な不動産物件を取得することを決定し、その為の資金調達をすることになっていたのですが、
(ここまでは至極普通のスキームです・・・)
リーマンショックの影響もあり、資金調達が出来ないとなり、不動産物件を取得することを断念しました。
その時に違約金が発生したのですが、違約金の額は取得価額の2割で結構な多額となりました。ニューシティ・レジデンス投資法人に違約金を支払う能力は無く、破綻に追い込まれた。。。
こんな流れです。

その1,2年後、ニューシティ・レジデンス投資法人はその後、今の大和ハウスリート投資法人(当時は「ビ・ライフ投資法人」という名前でした)と合併することになりました。
ターンアラウンド目当てで上場廃止前にニューシティ・レジデンス投資法人を買った投資主は、そこそこ短い期間で、けっこう大きな利益を得ることになりました。

凄いチャンスが転がっていたなあと今でも思い出す出来事です。

 

 

2本目の論文は『不動産投資はオルタナティブ投資か?(徳島勝幸氏)』です。

少し毛色が変わりまして、「不動産投資にもっとスポットライトを当てて良いんじゃない?」という主張を感じる論文です。

 

私がお金や資産運用についてお話するときに「金融商品のトリレンマ」というワードを言う時があります。
これは、「国際金融のトリレンマ」から着想を得ていまして、「自由な資本移動」、「固定相場制」、「独立した金融政策」のうち2つしか享受できないという本家のように、
「高い収益性」、「低い変動性」、「高い流動性」を全て享受することは難しいという意味合いで言っています。
(国際金融のトリレンマと違ってデジタルなものでは無いのですが・・・)

この文脈では、「株式」は「高い収益性」と「高い流動性」を享受して、「低い変動性」を放棄している金融商品、
「債券」は「低い変動性」と「高い流動性」を享受して、「高い収益性」を放棄している金融商品、
「不動産」は「高い収益性」と「低い変動性」を享受して、「高い流動性」を放棄している金融商品、
となります。
(REITは流動性が高まる分、収益性が低くなります)

 

筆者の徳島さんは、不動産投資はオルタナティブ投資と言われているが、ロングオンリーの伝統的手法での低流動性資産の投資と分類すべきではないか?と主張します。
私は、全くその通りだと思いますし、これまでも、自分の資産運用の中でREITへの投資はオルタナティブ投資だなんて考えず、伝統的手法での投資と考えていました。これからもそうです。

この問題は線引きの問題でもあるので、投資家が線引きに頼らず、それぞれの金融商品を見極めることが出来れば問題ないのですが、
「オルタナ投資への配分は10%以内にすること。よって、オルタナ投資に含まれる不動産投資は5%以内にすること。」
みたいな無益な線引きが行われてしまうと、不動産投資が無意味にアンダーウェートとなってしまうことが問題、というのが事の本質ではないでしょうか。

 

 

3本目の論文は『J-REITにおける自己投資口取得について(石原雅行氏)』です。

本論文、内容も素晴らしいですが、めちゃめちゃ読みやすくて、論文の書き方を学ぶという観点でも参考になりました。
大学生の方や大学院生の方、ぜひご一読ください!何かしら得るものがあるのではないでしょうか!?

 

「J-REITにおける自己投資口取得」というマニアックなお題です。論文を書くときにはお題の選定が非常に重要ですが、本論文のように深く入り込んだものの方が書きやすいのではないでしょうか?
私がMBAの時に書いたもので、「株主優待の種類と個人投資家の嗜好の関係性」というお題のものがありますが、マニアックで深く入り込んだもので、書きやすかった記憶があります。

さておき、お題の「J-REITにおける自己投資口取得」ですが、これまで16例しかありません!
この16例をイベントスタディとして認識し、ポアソン回帰分析、極値回帰分析などで分析していきます。

 

最後に、スーパー読者フレンドリーだなぁと思ったことですが、アブストラクトに結論をほぼすべて書いてくださっています。
「中身は好きな人だけ読んでくれたらいいし。みんなに伝えたい結論はここやし。」という筆者の素晴らしい計らいがありました。
証券アナリストジャーナルの論文は会員以外に最初の1ページ(アブストラクトが載っています)が公開されていますので、ぜひご覧ください!リンクはコチラです!

 

 

4本目の論文は『不動産市場の進化─不動産市場と金融市場の融合がもたらしたもの─(清水千弘氏)』です。

本論文は、不動産を数学的なアプローチで分析していきます。
面積、築年数、最寄り駅までの時間、東京駅までの時間といったファクターを使っていて、「なるほど」と思ったのですが、少し物足りないかなとも正直な話、感じました。

というのも、「Zillow」という会社の「Zestimate」の勢いを感じるからです。

「Zillow」は、人気のラーメン屋で「小」を頼んでも通常の量より多く、「大」を頼むと3人前以上はあるのではないかという量が提供されます。米国にある不動産テックの会社で、様々なサービスを提供しています。
Zillowが提供するサービスの一つに、「Zestimate」という不動産の見積り価格を算出するものがあるのですが、このアルゴリズムが高度なモノらしく、「Zillow価格」を基に取引を行うケースがあるなど、算出価格に信頼がおかれているようなのです。アルゴリズムの変更で、いろいろと議論が起こってしまうほど、デファクト化しているとの記事もありました。

一方、『「Zestimate」に全幅の信頼は置けない』といった声もあるようですが、人間ではない機械が行うプライシングの精度は日進月歩で進化するので、いずれは人間では見えないバリューを見つけ出していくのではないかなと期待半分・不安半分で思うところです。

 

 

最後に

ということで、今月号の証券アナリストジャーナルは、『不動産投資 ―J-REIT創設からポストコロナまで―』という特集でした。いかがだったでしょうか?

金融工学的技術は使い方が非常に大切で、上手く使えば産業の大きな成長に繋がりますが、下手に使えば社会問題になったりします。
不動産に関する金融工学的技術は、比較的健全に、上手く使われてきたのではないでしょうか?
4本目の論文で、「不動産投資市場の民主化」、「不動産市場の透明化」、「不動産市場そのものの市場機能が強化された」といった文言が出てきますが、金融工学的技術を上手く使うことが出来たからこそ出てくる文言なのではないかなと思います。

今後、もっと自由に、不動産、不動産関連商品を売買できる世の中になっていくでしょう。業界の発展が楽しみです!

 

今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!