やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『資産運用におけるオルタナティブデータ活用の現在と今後』という特集です。

オルタナティブデータとは、従来の財務情報や経済指標などではなく、衛星画像やSNSのテキストなど様々な情報源から得られるデータのこととなりますが、そのオルタナティブデータを資産運用に活用していくことは、まさに現在進行形の研究テーマであり、大変興味深いところかと思います。

今月号は3本の論文と1本の座談会の書きおこしという構成です。楽しく読み進めていきたく思います!

 

1本目の論文は『POSデータ分析と運用実務への応用可能性について─オルタナティブデータの整理を踏まえた上で、POSデータの利用実務について─(吉野貴晶 / 山本裕大氏)』です。

オルタナティブデータと聞いて、ぱっと思いつくものの一つであろうPOSデータですが、本論文では実例を交えて議論されているので、非常に参考になりました!

例の一つ目として、『食料品A社を対象に、冷凍調理のカテゴリで集計した、2023年6月末までの2年間の売上数量と売上単価のXYプロットグラフ』がありました。
売上数量が上昇している時期、売上数量は横ばい推移だが売上単価がアップしている時期、再び売上数量が上昇している時期、売上単価がじわじわとアップしている時期というように、時期ごとのトレンドが見えてきます。非常に興味深いですし、運用実務にも役に立ちそうです。

例の二つ目として、『食料品3社の畜肉ソーセージカテゴリにおけるメーカー別シェア』がありました。
C社のシェア増加のトレンドが数年というスパンで伸びていく中で、D社とE社はシェアの食い合い(D社のシェアが上昇すれば、E社のシェアが下落、またその逆が起こったり)が見てとれました。C社はグロース銘柄としての捉え方が出来そうですし、D社とE社はペアトレードにしたらワークしそうといったことが分かります。

POSデータ、いくらくらいするのでしょう!?すごく楽しめるデータだと感じます。

 

2本目の論文は『特許データを活用した企業の研究開発活動の分析(森田啓介 / 臼井健人氏)』です。

この論文は、オルタナティブデータの一つと言えるでしょうか、「特許データ」を活用した分析についてになります。

企業の研究開発費(R&D費)を用いた分析は多く行われていますが、2023年時点でMSCI World指数構成銘柄の約半数がR&D費を報告していないそうです。
つまり、R&D費を使った分析は、最初からユニバースが半分となってしまっていることになります。
これは困った問題ですが、R&D費と高い相関が知られている「特許データ」使って、何とかユニバースを広げていこうと論文が展開されていきます。

具体的な方法としては、不完全なデータを欠損補完し、統計的解析を行って結果を集約するという「多重代入法」が用い、そのデータセットに対して「Fama-MacBeth回帰」を用いて、分析していきます。
結果としては、特許データを使って欠損補完した時の分析力が、R&D費のみを使用した時の分析力と比べて、遜色ないレベルで維持されており、「これは使える!」と思わせるものでした。スゴい!

 

3本目の論文は『オルタナティブデータのエンゲージメントへの活用─資本コストGAP分析のエンゲージメントへの活用と統合報告書のマテリアリティ評価について─(野崎真利 / 田代雄介 / 岩田雄一郎氏)』です。

本論文は、オルタナティブデータの利活用についても参考になりましたが、資本コストモデル、資本コストの要因分解の議論が勉強になりました。

資本コストGAP分析を行うにあたり、資本コストを算出していきますが、本論文では「残余利益モデル」を使用しています。株主資本コスト、株主資本簿価、当期純利益などを用いるモデルです。
ここで、企業のROEが業種ごとに一律のROEに収れんする仮定を用いています。

そして、求められたインプライド資本コストを、①マーケット要因、②財務要因(企業固有要因と持続的成長要因に分解)、③非財務要因、④その他要因に分解していきます。
③非財務要因は、要素として、ESGスコア、ESG BETA、Carbon Risk Pricing、物理的リスク、口コミといったものがあるそうで、これらを考慮することによって、資本コストの説明力が上がっていきます。
使うデータなど取捨選択が難しそうではありますが、分析の方法自体は理路整然としていて分かりやすく、実務にしっかりと役立ちそうな気がしました。

 

4本目は座談会、『資産運用におけるオルタナティブデータ活用の現在と今後(岩田雄一郎 / 諏訪部貴嗣 / 山田徹 / 吉野貴晶 / 廣瀬勇秀(司会)氏)』です。

要約が難しいですが、目次として、「オルタナティブデータの定義」、「オルタナティブデータ活用につながる歴史の振り返り」、「運用現場での活用状況概観によるメリットと課題」、「海外と日本の状況比較」、「現状の課題と今後についての展望」、「まとめ」という順になっていて、それぞれのパネリストが有益な意見を述べていらっしゃいます。

興味深かった点として、「オルタナティブデータ活用につながる歴史の振り返り」のパートで、座談会メンバーの司会の廣瀬さんが、『クオンツバブルの崩壊からオルタナティブデータの活用につながったとわれわれは感じているが』と発言しています。2007年のクオンツバブルの崩壊について思い出すとともに、ここから使われ始めたのか!と驚きました。当時のクオンツアナリストの方々はクオンツバブル崩壊でうろたえることなく、前を向いて、オルタナティブデータ活用にかじを切ったのでしょう。

また、「海外と日本の状況比較」のパートでは、マーケットのサイズの違いが分析や研究の結果によるベネフィットの違いにパラレルに影響することが言及され、アメリカでの分析や研究が優位になる構造が浮き彫りになっています。確かになぁ・・と思うところです。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『資産運用におけるオルタナティブデータ活用の現在と今後』という特集でした。
3本の論文に繋がり的な要素は少なかったものの、それぞれに学びがありました。著者の皆様に感謝申し上げます。

私が開講しているゼミでは、20名程度の大学生が学んでいますが、オルタナティブデータ活用につながるPythonといったプログラミング言語の習得が活発に行われています。
ほぼデジタルネイティブの世代であり、プログラミングまわりの学びへのハードルの低さを横から見て体感するところです。
彼ら彼女らが、オルタナティブデータ、ビッグデータといったものを自在に操り、大きく業界を動かしていくことは間違いないと思います。楽しみです!

ということで、以上となります。今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!