やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『年金制度の変容と資産運用』という特集です。

確定給付型年金(DB年金)から確定拠出型年金(DC年金)へとシフトしてきた日本の年金制度ですが、それぞれにメリット・デメリットがあります。

お金の出し入れの面でいうと、DB年金は、給付額が確定している設計なので、加入者としては「いついつにいくらもらえる」というのが分かるメリットがあり、企業としては掛金の追加拠出のリスクがデメリットとなります。
一方、DC年金は、拠出額が確定している設計なので、企業としては「いついつにいくら拠出すればよい」というのが分かっているのがメリット(そもそも拠出がないケースもある)であり、加入者としては給付額が不確定になっていることがデメリットとなります。

運用の面でいうと、DB年金は、加入者としては運用面でのケアが不要で、企業としては専門家に任せることになります。こちらはどちらにもメリット・デメリット両方があるでしょう。
一方、DC年金は、加入者としては自分で金融商品を選ぶことになり、企業としては加入者への投資教育が努力義務となっていて、どちらかと言えばデメリットの面が強いでしょうか。

この他にも見るべき点はあると思いますが、「設計としてどちらが優秀なのか?」といったことも考えながら、4本の論文を読み進めていきたいと思います!

 

1本目の論文は『社会と年金資産運用―リスクマネー供給機能を促す制度とは―(石田英和氏)』です。

「はじめに」の章に、『企業年金はリスク回避的な「運用しない運用」が定着している』『企業年金は持続的成長にも高い投資リターンにも興味が無いようにみえる』といった言及があり、まずはその書きぶりにハッとさせられます。

しかし一方で、キャッシュインが少なく、キャッシュアウトの予定が見えていて、確定利回りをクリアしていれば、保守的な運用で問題ないと言えそうですし、市場が効率的であると考えてインデックス運用を行うことも問題ないとも感じます。

そこで、筆者は『国のインベストメントチェーンの中で持続的成長を促し、高いリターンを獲得すること、すなわちスチュワードシップを発揮することが期待されている』と主張します。具体的には、ベンチャーキャピタル投資、バイアウト投資、株式アクティブ運用が挙げられています。

それらの運用のために、新興運用会社の起用についても言及されています。『洗練された投資家は、運用者の人物や運用哲学といった定性的評価に重きを置き、運用者が同時に株主である独立系運用会社を選ぶことが多い』といった個人的な意見?も展開されています。

フムフムといった感じです。

 

2本目の論文は『企業年金の資産運用における低流動性資産の投資比率(木須貴司 / 金親伸明 / 高田晴夏氏)』です。

論文の書き出しに、『昨今、「資産運用立国に向けた取り組みの促進」(内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(2023年6月16日閣議決定))などで示されているように、確定給付年金(以下、DB年金)を中心とした企業年金による資産運用の高度化への期待が高まっている。』とありました。

1本目の論文では上記資料への言及が無かった(知ってるよね!?的な話だと思います・・・泣)ので、企業年金に物言いする背景が見えてなかったのですが、国のお墨付きで「物言いOK」になっていることが分かりました。

ということで、この論文では流動性の低いオルタナティブ資産をどの程度運用資産に組み入れるべきか、計量的に評価しています。

気になったところとして、1本目の論文も2本目の論文も加入者の考えは考慮していません。冒頭に書きましたが、そもそもDB年金は、給付額が確定している設計なので、加入者の考えはくみ取る必要はないのですが、高度化でリスクを取って、結果的に運用に失敗して、企業として掛金の巨額追加拠出を迫られて、その企業が倒産して、加入者に影響が出る、なんてことは無いのでしょうか。

 

3本目の論文は『米国の退職年金制度におけるターゲット・デート・ファンドの役割―分散型ポートフォリオが確定拠出年金加入者にソリューションを提供―(シュディプト・バナージ / ワイアット・リー / 瀧川一氏)』です。

本論文は、アメリカのDC年金においてターゲット・デート・ファンド(TDF)がどういった役割を担ってきたかについてが主に書かれています。

何といってもスゴいのが『TDFは、退職後の投資家に単独で統合されたソリューションを提供するため、米国のほとんどの確定拠出年金(以下、DC)プランでは、デフォルトの運用手段として選択されるようになっている。』というところです。TDFという年齢に応じてダイナミックに配分を行っていくものがデフォルトの運用手段として提供されていることがスゴいです。

この背景としては2006年の年金保護法(PPA)の大幅改正がキーになっているようで、ここからデフォルトオプション化が加速したと書いてありました。①雇用主が従業員をプランに自動加入させることと、②給与に対する既定の拠出率を設定し、時間の経過とともに拠出額が自然と増加することが大きな変更点だと。

このあたりの話は、ノーベル賞受賞者であるリチャード・セイラーさんとキャス・サンスティーンさんの著書「NUDGE 実践 行動経済学 完全版」にも書かれています。面白いです。

 

4本目の論文は『長寿リスクにおけるDC運用の重要性と課題(高岡和佳子氏)』です。

『ボストン大学の退職研究センターでは、退職後の生活水準が、退職前の生活水準より10%以上低下すると予想される世帯の割合を退職リスクと定義』しているそうです。

これをもとに、いろいろと議論が行われていくのですが、退職後の生活水準が、退職前の生活水準より10%以上低下しても、別に問題ないと思うのは私だけでしょうか?

本論文での議論としては、「生活水準の維持にこだわろう!」、「資産形成をしっかりやっていこう!」というものになります。

こういった意見に対して賛同するか、または賛同しないかを考え、その結論が出せるような、しっかりとした金融リテラシー、人生リテラシーが求められているのかもしれませんし、3本目の論文で言及されていたようなナッジ的な仕組みで退職後の生活をサポートしてあげる必要があるのかもしれません。

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『年金制度の変容と資産運用』という特集でした。

2本目の論文に、内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」についての言及がありましたが、国は、企業年金のカネを使って資産運用を高度化させたいと思っているようです。

国の方向性に従う形で、高度な資産運用を行う業界は、企業年金のカネを出来るだけ入れたいと思っているでしょう。

DC年金については、究極的には加入者の決断に左右されます。周りはいろいろなことを言ってくるでしょう。これさえ入っておけば問題ないといったバラ色の言葉を信じて退職後に大問題になるかもしれませんし、老後の資金不安を過度に煽って今の生活をどんどん貧しいものにして墓場にお金を持っていくことになるかもしれません。

「あなたはどう生きたいですか?」

ということで、以上となります。今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!