やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『サステナビリティ情報開示基準の進展と予想される変化』という特集です。
ESG、SDGsといった聞こえの良い言葉・・・。すごく大事ではあるけれど、「本音と建て前」、「攻めと守り」、「表と裏」、「光と影」みたいな、何といえばよいでしょうか、一直線には進めないような、メリット・デメリットが交錯する世界ですよね。
既得権益を守る動きや、デファクトスタンダードを取るための部分最適的な動きなど、一筋縄ではいかない状況もあります。
「希望」の気持ちをもって読むべきか、「諦め」の気持ちで読むべきか・・・。まずは「ニュートラル」な気持ちで読んでみようと決意。結果的には、1本目から3本目の論文の読み方は後者、4,5本目の読み方は前者という感じになりました。笑
1本目の論文は『ISSBの活動の進展にわが国企業・投資家はどう対処すべきか(小森博司氏)』です。
著者はISSB(International Sustainability Standars Board, 国際サステナビリティ基準審議会)理事の方です。
最初の段落に、2023年6月にISSBが「IFRS S1」と言われる「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」と、「IFRS S2」と言われる「気候関連開示」を公表したと書いてあります。
次段落以降、これらについて議論されていきます。主張としては、3つありました。
①S1とS2にあるようなことはこれまで任意開示であったが、法定開示になっていきます
②いろいろな団体が同じような開示を要求している非効率な状況を正します=デファクト争いに終止符を打ちます
③少し自国向けに改良しても良い(日本でいうSSBJのような」動きは許容する)が、S1とS2をベースにしなさい
といった主張になります。
ISSBとしては、これらの動きは良いことだと信じているし、良いことなのでやってもらいたいと思っているのでしょう。すごく分かります。
ただ、開示の負担etcにより、MBOなどの手段を使い市場から退出する企業も増えてきていることは確かです。そういった企業のほうが自由に、効率的に、意思をもって事業運営できているかもしれません。
今でも情報開示に負担感を感じている上場企業は、このようなさらなる開示要求により、より本業が圧迫されることとなり、資本市場の奴隷のようになってしまうのでないかと考えます。
市場に居続けたい企業との歩み寄りが出来ていないと感じるのは、私だけでしょうか。
2本目の論文は『わが国におけるサステナビリティ情報開示基準の動向(松山将之氏)』です。
金融庁の公表資料などを上手に取りまとめて解説なさっています。元の資料をたどりたい場合は、金融庁の議事録・資料等(ディスクロージャーワーキンググループ)のリンクが参考になるでしょう。
まず、現状の企業開示に関する監督と基準設定主体の役割として、国際的には、監督「IFRS財団」ー会計基準設定主体「IASB」・開示基準設定主体「ISSB」があり、わが国的には、監督「FASF」ー会計基準設定団体「ASBJ」・開示基準設定団体「SSBJ」があると教えてくれます。
次に、わが国での開示基準設定において、任意開示から法定開示になる動きは止まらぬものとしてあり、有価証券報告書のボリュームが増えてくることが書かれています。
具体的には、2019年の開示府令改正(別紙1のPDFへのリンクがあります)で、経営戦略、経営者による経営成績等の分析(MD&A)、リスク情報の記載欄が設けられたこと、2023年の開示府令改正(解説資料のPDFへのリンクがあります)で、サステナビリティに関する考え方及び取り組みについての記載欄が設けられ、さらに、既存の従業員の状況とコーポレートガバナンスの状況の内容を拡充させたことが記されています。
3本目の論文は『意思決定有用性から考えるサステナビリティ情報開示と保証(森洋一氏)』です。
著者はSSBJ(サステナビリティ基準委員会)委員の方です。
2本目の論文にありましたが、国際的な「IFRSーIASBーISSB」と本国での「FASFーASBJーSSBJ」とが呼応する形になっていて、それらと機関投資家がタッグを組み、企業にサステナビリティ情報開示を求めていることが書かれています。さらには、その情報開示に保証が必要であると主張しています。
文章のそこかしこに「企業は〇〇することが重要である」といった記載があり、企業への圧が強いです。
開示義務にする必要は本当にあるのか?開示したい企業だけ開示すればよいのではないか?という疑問を持ちました。
最終盤に「制度や基準を順守することは当然に重要であるが、過度なコンプライアンス意識に陥ることなく、資本市場関係者の意思決定行動にとって意味のある開示を実現する観点に立った議論と取り組みの必要性について、自戒を込めて再度強調し」と書いてあります。「自戒」を記さねばいけないほど、意味の無い情報開示になってしまうことを懸念しているのかもしれません。
4本目の論文は『機関投資家はサステナビリティ情報開示をどのように投資意思決定に役立てるか(堀井浩之 / 小野謙一郎氏)』です。
著者は、三井住友トラスト・アセットマネジメントの方です。
スチュワードシップコードでサステナビリティについて言及されていることもあり、当然ながら機関投資家は、企業への「圧」をかけていく存在であるわけですが、建設的な意見が書いてありました。
「サステナビリティ情報開示がもたらす企業と投資家へのメリット」という段落があり、情報開示の負担が増加する懸念を指摘する声が多いが、メリットとして、①グローバルな開示基準に沿った情報開示により海外投資家からの投資が期待できる、②社内でのサステナビリティにおける重要課題を特定するプロセスが企業価値向上につながる、③社外のマルチステークホルダーとのエンゲージメントプロセスの深化と促進が企業内部の価値創造力向上につながる、とありました。これは確かにあるかもしれません。
「おわりに」の段落には、「情報開示を目的やゴールとすることなく、情報開示を行うプロセスを通じ、自社のガバナンス、リスクと機会の特定と戦略、リスク管理に対するセルフアセスメントにつなげるとともに、開示した情報を基にした投資家とのエンゲージメントを行うことで、さらなるレベルアップを図るというビジネスサイクルの構築につなげていただきたい」とありました。
前向きにとらえていくことも大切だなとしみじみと思わせてくれました。そして、前半3本の論文を前向きな気持ちで読み直す気にさせてくれました。感謝!
5本目の論文は『味の素グループにおけるサステナビリティ情報開示(梶昌隆氏)』です。
こちらは、サステナビリティについて、しっかりと向き合い、前向きにとらえている企業の事例紹介といった論文です。
味の素グループは、2000年に「環境報告書」を発行し、2012年に「サステナビリティレポート」を発行し、2016年に「サステナビリティデータブック」と共に「統合報告書」を発行しています。かなり先進的に動いてきたことが分かります。今後のロードマップにおいても「中計病に対する反省」などがあり、やはり先進的でした。
最後には、「サステナビリティ情報開示が国際的な枠組みの中で今後ますます広がり、各企業が持続可能な社会に向けて取り組みをさらに加速していくことを通じて、将来へ豊かな資産を引き継いでいく取り組みが資本市場と一体となって進展してくことにも強い期待を持っている。投資家・アナリストの皆様が各社の企業価値をサステナビリティの視点を取り入れて評価し、資本の出し手として志高く社会を支えていただくことを心から願っている。」とありました。
この論文は、味の素の歴史や味の素のすばらしさを伝えることにわりかし紙幅が割かれていました(笑)が、全体を通じて、サステナビリティへの気持ちが昂るような良い影響がありました。
良い理想を掲げないと良い現実が生まれる素地もできませんね!素敵な文章をありがとうございました。
最後に
今月号の証券アナリストジャーナルは、『サステナビリティ情報開示基準の進展と予想される変化』という特集でした。
私は毎月、証券アナリストジャーナルを読んだ感想を、まさに「書きなぐっている」わけですが、自分の立場など関係なく、自由にその時の気持ちで書くことがとても大事だなと思っています。
時に間違っていることも書いていますし、前言撤回となっていることもあります。
過去の一失態が、ある時に掘り返されて、突然失脚させられたりする世の中ですので、こういったことをするのはリスク以外の何物でもないかもしれません。
しかし、この試みを長年続けていて思います。
感想を積み重ねていくことで、自分の思想の年輪のようなものが刻まれていくと・・・。
これはかけがえのない年輪だなぁと・・・。
もうちょっときれいな年輪が刻めたら良いなと思う今日この頃です。
ということで、以上となります。今月も、最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
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