やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『デフレ脱却後の企業行動』という特集です。

デフレ前でも後でも、投資をしっかりする企業は、ヒトに対してでも、モノに対してでも投資をしているし、そうでない企業はずっとそうでないなぁと感じていますが、「デフレ脱却後の企業行動」は変わっているのでしょうか?

楽しく読み進めていきたいと思います!

 

1本目の論文は『インフレ局面での企業業績と企業行動―1940年代から直近のインフレ局面下における分析―(宮本憲一氏)』です。

本論文で、1940年代からのインフレ局面をおさらいすることが出来ました。

まず、1940年代半ばから60年代のインフレ局面は、戦争に関連したインフレで、戦争に起因して需要が強い中で供給不足になったという基本的な構造があるようです。
次に、1970年代から90年代のインフレ局面は、原油価格に起因したインフレで、石油の産出が減少し原油価格が高騰したという背景があるようです。
2000年代のインフレ局面は、過剰流動性・資産効果に起因したインフレで、金融緩和政策によって株価や住宅価格の上昇したと解釈されています。
2020年代のインフレ局面は、コロナウイルス感染症拡大、ウクライナ紛争に起因するインフレとありますが、拡張的な金融・財政政策と原油や天然ガスの取引制限によるエネルギー価格の上昇という複合要因のようです。

インフレ局面のおさらいの後は、①企業業績について、②企業行動について、③金融市場についてが分析されています。
インフレ局面では基本的に企業の利益率が低下しがちですが、それに合わせる形で設備投資に慎重な姿勢が出てきているようです。利益が出なければ設備投資を絞るというのは当たり前の話ではあるので、何とも言えないでしょうか。

結びにおいて「デフレ脱却の動きが見られる日本については、利益率の構造的改善などを背景に、それを乗り越えられる可能性があり、注目していきたい。」とあります。
値上げが受け入れられるようになったことで企業の利益率が低下せず、むしろ上昇するということだと思うのですが、値上げが継続的に受け入れられるかはまだ未知数ですので、そのあたりにも注目していかないといけないなと思いました。

 

2本目の論文は『低インフレ期におけるわが国企業の価格・賃金設定行動(法眼吉彦氏)』です。

この論文では、「価格マークアップ」と「賃金マークダウン」というワードを用いて議論が展開されていきます。
「価格マークアップ」は、企業が強い製品を持っている時に限界費用よりも大きな乖離をもって価格付けをすることが出来たりしますが、その乖離のことを、
「賃金マークダウン」は、企業における、労働生産性と賃金の乖離のことを言います。

1990年代後半から2010年代にかけての日本では競争激化や価格支配力の低下に伴い、価格マークアップが縮小した一方、賃金マークダウンによる賃金抑制傾向を強めることで収益を確保してきたとあります。
だいたいイメージ通りではないでしょうか?
一方、米国は、賃金マークダウンが拡大してきたことは共通しているが、価格マークアップも拡大してきたそうです。つまり企業の利益率が両方の影響で高まったということです!
日本における価格マークアップが縮小した要因としては、輸出シェアの低下などが挙げられていますが、設備投資を抑制してきたことが国際競争力の変化の起点になった可能性が指摘されています。

さて、1本目の論文にも出てきた「設備投資の重要性」ですが、2本目の論文でも出てきました。そして、この類の議論においてはどの論文でもかなりの確率で設備投資の重要性が説かれてと思います。
「なぜ、企業は設備投資に消極的になってしまうのでしょうか?」そこを突き詰めていかなければいけないと強く感じます。

 

3本目の論文は『変革を迫られる日本企業―外部環境の転換を受けた企業の行動変化と日本経済への影響―(服部直樹氏)』です。

先ほどの論文の感想で「なぜ、企業は設備投資に消極的になってしまうのでしょうか?」と書いていましたが、本論文にて、内閣府が集計した2023年度の「企業行動に関するアンケート調査」において、今後3年間における設備投資額の平均増減率の見通しが+6.8%という高い数値になっているという嬉しい言及がありました。
日本企業、積極的に設備投資に向かっています!

そういった企業行動変化の背景にある5つの要因というのが挙げられています。それぞれ、
①国内事業の相対的な重要性の高まり②デフレマインドの変化③人手不足の進展④資本効率化要請の強まり⑤政策・制度面の変化、となっています。
ここまで条件がそろえば、企業行動が変化していくという感じでしょうか!
何はともあれ、変化すればGOODなのかなと思います。

論文の終盤には中小企業の優勝劣敗が進むという話が出てきます。
これが景気後退にならずに活性化となるように政府は上手に舵取りしていかねばいけないでしょう。
難しい課題ですが、期待をしながら見守っていきたいところです。

 

4本目の論文は『持続可能な賃上げと人的資本投資の役割(小野浩氏)』です。

「人はコストか財産か?」という話です。

いくつか数式が出てくるのですが、最初に「付加価値=営業利益+人件費」という数式が出てきて、すでに生み出された付加価値の分配方式を示している、と主張します。
確かにそうですね。次の数式で、付加価値を生み出す式が出てきます。
「付加価値=生産性×労働投入量」という式です。労働投入量が限定的になる中ですが、生産性を上げれば付加価値が上がっていくというものになります。

ここから分かるのは、生産性を上げて付加価値を上げていかないと人件費は上がっていかないということです。
何も手を打たずにとりあえず賃上げしても続かないということです。

「人は財産」で間違いありません!

 

最後に

今月号の証券アナリストジャーナルは、『デフレ脱却後の企業行動』という特集でした。

4本の論文を通じて、持続可能な賃上げをするためには、設備投資や人材への投資をすることが必須ということが分かりました。
問題は、この必須の行動が様々な企業にとって実現可能なのかというところです。
CEOなど代表取締役にやる気があるか、最低限の資金力があるか、社員のモチベーションがあるか、このあたりをクリアしないと実現は難しいでしょう。

どのような形でも実現できるよう、様々な側面からのサポートが求められます。

ということで、今月も最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!