やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『資産運用立国を目指した資産運用業の高度化』という特集です。

日本の資産運用業は高度化するチャンスが長年あったにもかかわらず、やってこなかった/出来なかったと私は思っています。「やる必要が無かった」というのがより正確な表現かもしれません。
というのも、販売会社と運用会社に「系列」という関係性があり、両者のうち、販売会社が資本関係などパワーバランスで上位の立場で、販売力の強さのおかげで運用技術が高くない金融商品でも販売できたので、運用会社に対し手間のかかる運用技術向上を求めなかったからです。
投資家が運用技術の高い金融商品を買いたいときもありますが、そんな時は、運用会社は海外の運用会社から戦略を買って、事足りていました。
(もちろん、投資家へのコストは海外の運用会社へ支払うフィーによって上昇することになりますが・・・)

さて、今月の特集を読み進めていきます。論文2本、座談会の文字起こし1本という構成です。

前置きになりますが、特集のタイトルにある「資産運用立国」という言葉は金融庁のサイトにしっかりと説明が載っている、日本が目指しているものです。『政府は、我が国の家計金融資産の半分以上を占める現預金が投資に向かい、企業価値向上の恩恵が家計に還元されることで、更なる投資や消費に繋がる、「成長と分配の好循環」を実現していくことが重要であると考えています。』とあり、サイト上で確認できますが、実際に様々な施策が行われています。

そして今回、「資産運用業の高度化」について考えていくわけですが、解題を見ますと、『資産運用業の高度化に向けた昨今の取り組みについて、アセットオーナーとアセットマネジャーの双方へのアプローチについて概観するものである』と書いてあります。アセットオーナーは資産を保有する者で、とアセットマネジャーはその資産を運用する会社という解釈で良いでしょう。

 

1本目の論文は『アセットオーナー・プリンシプルと企業年金の資産運用(中村明弘氏)』です。

題名にある「アセットオーナー・プリンシプル(AOP)」というワード、不勉強な私は知りませんでした・・・。2024年8月に策定されたもののようです。

アセットオーナー・プリンシプル(AOP)は、いわゆるプリンシプルベースのアプローチが採用されていて、5つの原則から構成されています。
原則1: 受益者の利益を考慮し、運用目的・目標・方針を定め、適切に見直す
原則2: 専門的知見を活用し、適切な体制を整備し、必要なら外部知見を活用する
原則3: 受益者の利益を考慮した運用方法を選択し、リスク管理と委託先の適正管理を行う
原則4: ステークホルダーへの説明責任を果たし、運用状況の「見える化」と対話を促進する
原則5: 投資先企業の持続的成長のため、スチュワードシップ活動などの工夫を行う

上記が紹介された後、企業年金の役割や年金資産運用のあり方についてが書かれているのですが、私が読み進めていく中で、「おわりに」にある筆者の主張が響きました。

『資産運用業者と異なり、アセットオーナーにとって資産運用は手段であって目的ではない。資産運用の側面に偏った議論の中で、母体企業への負担が増えるなどして、これ以上、企業年金制度が縮小するようなことがあってはならない』と書き、『AOPにおいて企業年金に期待される取り組みは、ステークホルダーに情報を提供し、対話を通じて創意工夫しながら、より良い運営を楼指示値の下で主体的に行うことである』と書いています。

著者は、資産運用の質は勿論大事だが、企業年金制度のややこしい仕組みを何とかしなければいけないと考えていらっしゃるのだと感じました。

 

2本目の論文は『求められるアセットマネジャーの高度化―運用力・顧客リレーション力・ガバナンスの強化に必要なこと―(堀江貞之氏)』です。

こちらの論文の方がより特集の趣旨に近いでしょうか。アセットマネジャーの高度化について正面から書いていらっしゃいます。

『アセットマネジャーの高度化とは、運用力強化、顧客リレーション力強化、マネジメント力の強化等から構成される』とあり、具体的にアイディアが書かれています。

運用力強化については、『勝ち目がある投資戦略の一つは、長期の企業価値を評価する集中投資戦略である』と主張し、それを拡張するような形で『日本において企業価値を評価する長期集中型のグローバル資産運用を行うことには、十分に勝算がある』と言っています。外部人材の取り込みと買収についても言及がありました。

顧客リレーション力強化については、ファンド特性の正しい伝達という「透明化」を一番に書き、その後、『投資商品が提供できる価値に応じて報酬体系を決めるべきである』と書いています。つまり、○○という運用チームが○○な運用をしてくれるからX%のフィーを払う、といった形であるべきと言っています。

マネジメント力の強化については、正しい経営理念の設定を挙げつつ、経営者のスキル、親会社があれば親会社の理解などの大事さが主張されています。

最後には、AIが省人化を可能にすることで小さな運用会社にもチャンスがあることが書かれています。これまでもブティック型のアセットマネジャーというのは有ったと思いますが、運用力以外のマターについてAIが解決するようになれば、実力勝負の面白い世界になるかもしれないなと思いました。

 

3本目は座談会の文字起こしで『独立系運用会社の発展可能性について(伊井哲朗/宇根尚秀/金子久/榊原正章/徳島勝幸氏)』です。

2本目の終盤に「AIが省人化を可能にすることで小さな運用会社にもチャンスがある」と書きましたが、今回の座談会のタイトルは「独立系運用会社の発展可能性」ということで、つながりを感じます。

はじめに、独立家運用会社の運用資産残高シェアが日本と海外で大きく違うということが紹介されます。世界における独立系資産運用会社の運用資産残高シェアは86%で、逆に、日本における「非」独立系資産運用会社の運用資産残高シェアは85%なんだそうです。
大きなコントラストですが、「運用会社を作りたい」とスタートしている独立系資産運用会社がメジャーな世界と、「運用せざるを得ない」とスタートしている非独立系資産運用会社がメジャーな日本という感じがします。

本座談会、様々なトピックで議論が行われていますが、総じてフランクに本音が語られていて興味深い言及がいくつかありました。抜粋しますと、
『そもそも投資信託の販売をする人たちが、顧客に適切にアドバイスできていない』
という、多くのセールスがアドバイザーに慣れていない問題や、
『運用会社が運用以外のサービスにリソースを割かなければならない部分が非常に重いことが課題だ』
という、日本特有の大量のアドミン業務についての問題が提起されていました。具体例としてレポーティングなどが挙げられているのですが、アセットオーナーは
『「貰える情報は、なるべくすべて貰っておきましょう」という話になってしまう』んだそうです。悲しい。

上記のようなことを日本の資本市場はあと何年、あと何十年続けてしまうのでしょうか。ひとりで悲壮感を感じながら読み終えました。

 

読了後のひとこと

今月号の証券アナリストジャーナルは、『資産運用立国を目指した資産運用業の高度化』という特集でした。

この業界、まるで時が止まったかのように発展していません。日本以外での発展もドッグイヤーという感じではなかったので、十二分にキャッチアップするチャンスがあったはずです。
しかし、「やる必要が無かった」わけで、変わりませんでした。

資本市場の主人公を、①金融商品の売り手である金融機関、②金融商品の買い手である投資家/消費者、③監督官庁、という3者とするならば、それぞれお互いを監視し合って高め合えるような関係性があるべきですが、②投資家/消費者の弱さを放置していたことで、③監督官庁がいくら動いても、①金融機関が動かない/やる必要が無い、という構図だったでしょう。①金融機関が損得だけでなく資本市場を高めるというしっかりとした意識を持って資本市場をリードしてくれるか、②投資家/消費者が強くなり高度化したアセットマネジャーとしか取引しないようになるか、どちらかのシナリオにたどり着かないと資産運用立国になることは難しいと感じます。

ということで、今月も最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!

 

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私は、大学卒業後、証券会社3社にて金融商品のトレーダーとして20年近く勤務し、2018年から金融教育家として活動を開始しました。
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