やすべえです。今月の証券アナリストジャーナルは『「企業買収における行動指針」と同意なき買収への影響』という特集です。
特集のタイトルにある「企業買収における行動指針」というのは、2023年8月31日に経済産業省が策定したものです。ひとことで言えば、これを機に企業買収がスムーズになりました。
さて、本誌の内容ですが、1本目の論文において「企業買収における行動指針」の概要について書いてくれています。
これを読むことで、まずは基礎的な知識をしっかりと獲得することが出来そうです。
そして、2,3本目の論文は、「企業買収における行動指針」が策定されてからの実例が出てきます。
基礎的知識を学んだあとに実践例を学ぶという流れで、学びを深めることが出来そうです。
ということで、今月号も楽しみながら読み進めたいと思います!
1本目の論文は『総論―企業買収行動指針の概要―(田中亘氏)』です。
まず用語の話ですが、本指針から「敵対的買収」という言葉が「同意なき買収」という言葉に改められ、「買収防衛策」という言葉が「買収への対応方針」という言葉に改められています。
知らなかった方にはビックリ、知っている方にはビックリでは無い話ですが、単に言葉が改められたということではなく、前に使われていた言葉の持つイメージが買収に対してネガティブな意味合いに捉えられることがあるので、「望ましい買収」を促進するという視点から文言が改められたということです。
次に曖昧だった言葉の定義の話ですが、「企業価値」という言葉が、「会社の財産、収益力、安定性、効率性、成長力等株主の利益に資する会社の属性またはその程度をいい、概念的には、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和である」と定義されました。いわゆるDCF法で求めるものが明確に定義に入っているということで素晴らしい進歩であると思います。
この後には、「買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範」、「買収に関する透明性の向上」、「買収への対応方針・対抗措置」と続いていて、それぞれが「企業買収における行動指針」の第3章、第4章、第5章と対応しています。簡潔にまとめてあり、分かりやすいです。
1本目の論文にふさわしい、初学者に優しい、ありがたい論文でした!
2本目の論文は『同意なき買収の境界線―ベネフィット・ワン買収を通じて―(井手飛人氏)』です。
筆者である井手飛人氏は、ベネフィット・ワンを買収した第一生命ホールディングスの方です。
この論文は当事者が書く買収劇という事で貴重な文献と言えるのではないでしょうか?
まずは、読み物として興味深いです。
第一生命ホールディングスが「保険サービス業」への業態進化を目指す中でベネフィット・ワンを有力な候補として考え、実際に大株主であるパソナにコンタクトすることを決めていた最中で、エムスリーによるTOBが寝耳に水の形でアナウンスされたというストーリーが、まさに「事実は小説より奇なり」ですが、引き込まれます。
そして、この買収劇において「企業買収における行動指針」が重要な役割を果たしたということがしっかりと書かれています。
具体的には、従来「先手必勝」になりがちだったTOBが、本指針のおかげで、「後手のTOB発表」でも戦える、つまり競争的にTOBを比較するものになったというものです。
今回、第一生命ホールディングスは「後手のTOB発表」でしたが、対象会社であるベネフィット・ワンや売り手であるパソナと、真摯な対話を行い、健全な緊張関係を促進することが出来ました。
その結果、最終的な合意形成にこぎつけることが出来たと書かれています。
3本目の論文は『「企業買収における行動指針」以降の同意なき買収事例から得られる示唆(柴田堅太郎氏)』です。
2本目の論文より、企業買収において「企業買収における行動指針」が重要な役割を果たしていることが分かったわけですが、本論文では、より多くの例からアプローチを試みています。
7つの事例が載っています。それぞれ、「TAKISAWA」、「ベネフィット・ワン」、「東洋建設」、「ローランドDG」、「C&Fロジホールディングス」、「富士ソフト」、「牧野フライス」です。それぞれの事例でユニークな出来事があり、ケーススタディとしての学びがあります。
加えて、「企業買収における行動指針」のもとで、対象会社の取締役会がどのように買収提案に対応したか、また、企業価値評価や株主利益の確保についてどう考えたかといったことが詳細に調査、分析されています。興味深く読むことが出来ました。
総論としては、高いプレミアムを払うTOB案件は強いと言えそうです。(当たり前の話ではありますが・・・)
ただ、「企業買収における行動指針」によってプレミアムの妥当性をしっかりと吟味できるようになったので、シナジーの評価などが買収提案の評価に結びつくようになったとも感じました。
4本目の論文は『機関投資家が投資先企業に期待する買収提案への対応(池畑勇紀/斉藤正和/牧野隆氏)』です。
投資家からの意見がふんだんに散りばめられた論文です。
「スポンサーは偉い」というのは資本市場における真実なのかもしれませんが、本論文に投資先企業を慮るようなスタンスを感じなかったことが残念でした。
「投資させていただいている」という気持ちは無いのでしょうか?
「著者や著者グループの主張によって・・・」とは全く思いませんが、投資家からの過剰な圧によって、MBOなどの手法を使って上場市場から退出する企業が増加していることは事実ではないでしょうか。
まぁ、色々な投資家がいるというのが資本市場なのですけれども!
読了後のひとこと
今月号の証券アナリストジャーナルは、『「企業買収における行動指針」と同意なき買収への影響』という特集でした。
本論文を読み、「企業買収における行動指針」というものが、いかに素晴らしく、いかに日本の企業買収の環境を良くしているのかが分かりました。
毎月のジャーナルを読む中で、良い気持ちになったり、そうでない気持ちになったり、様々ですが、今回の特集を読んでとても良い気持ちになりました。
田中亘さんを含む公正な買収の在り方に関する研究会委員の方々、取りまとめた経済産業省の方々に感謝したく思いました。
今月も最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
はじめてこの記事を見ていただいた方に
はじめまして!金融教育家のやすべえと申します。
私は、大学卒業後、証券会社3社にて金融商品のトレーダーとして20年近く勤務し、2018年から金融教育家として活動を開始しました。
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「証券アナリストジャーナル」とは、日本証券アナリスト協会が発行する会員向け月刊機関誌です。
私は、2002年に証券アナリスト検定会員となり、本誌を読み始めまして、2017年から本ブログに読んだ感想をしたためるようになりました。
「備忘録」でもあり、「書きなぐり」に近いものです。その点、ご容赦頂ければ幸いです。
ただ、証券アナリストジャーナルに寄稿してくださる方に敬意を持つこと、ブログの読者に誤解を与えずに私の思っていることをお伝えしようと心に留めながら書いています。
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